大使館での悲劇
~~大阪府内・アメリカ大使館~~
「奥さんと娘さんがどうした?おいマシュー、一体何があったんだっ!?」
血相を変えてヤコブが訊くが、マシューは項垂れて身を震わせるだけで、それ以上は何も言わなかった。
(口にするのも辛い事なのか、、、)
そう悟ったヤコブはゆっくりとマシューに近付き、震える彼をそっと抱き寄せた。
マシューもヤコブの腰へと腕を回し抱き返す。
しかしそれはヤコブの様な優しい抱擁では無かった。
まるで捕らえた獲物を逃がすまいとする、荒々しい獣の如き抱擁、、、
「お、おい、マシュー?、、、少し苦しいよ」
ヤコブの腕の中で未だ身を震わせるマシュー。
だがそれは悲しみからなどでは無かった、、、
マシューは身を震わせながら嗤っていたのである。
「クックックックッ、、、」
「!?マシュー、、、?」
得体の知れぬ悪寒がヤコブの背を駆け抜けた。
「ヤ~コ~ブ~、、、室田教授と会って、一体何を話したんだぁ~い?」
「っ!!な、何故それを?」
「支給品のいくつかにはGPSが仕込まれている、、、つ~ま~りだっ!当然その行動は全て筒抜けという事だよっ!
そして室田教授の行動も我々は把握していてねぇ、、、お前と室田教授の所在地が重なったもんで、こ~してぇ尋問が始まったぁ、、、
そ~いう訳だよ~っ!!」
目を見開き、狂気に満ちた笑顔で叫ぶ様に話すマシュー。
「な、なんの為に、、、お、俺と室田教授の行動を、、、?」
全身をギリギリと締め付けられ、苦しみながらも問い返すヤコブ。
「おやおやぁ~?質問に質問を返すとは行儀が悪いぞぉ~ヤ~コ~ブッ!
フッ、まぁ~いいだろう、、、知れた事だ、あの御方の命令に決まってるだろぉ~」
「あ、、、の、、、御方?」
「偉大なる我等が指導者、、、D様だよ」
「な、、、?、、、て、事は、、、マシュー、、、お前、、、?」
「そぉ~さっ!とうに前からあの御方の配下に加えて頂いているよっ!
俺だけでは無いぞぉ、、、既にこの大使館に居る者の半数以上は我等が眷族だぁ~っ!
そしてD様は、反抗派の筆頭となりうるお前を危険分子と判断された。それ故にお前の行動は常に監視されていたと、そういう訳さっ!」
くっつきそうな程に近付けた顔で舌舐めずりして見せたマシューが、その腕に更なる力を込めた。
「ンガッ!!、、、グゥ、、、奥さんと、、、娘さんがって話も、、、」
苦痛に呻きながらヤコブが言う。
「そ~んなの嘘に決まってんだろぅ、、、
お優しいお前の事だ、少し落ち込んで言葉に詰まりゃぁ、きっと黙って抱きしめに来る。
そう踏んで一芝居うったって訳よっ!!
何年の付き合いだと思ってるぅ~?
お前の性格は熟知してるさっ!!」
「な、、なんの為にそんな、、、嘘を、、?」
「なぁに簡単な事だ。この際、お前にも我等が眷族となって貰おうと思ってな。
しかし、それには身体を密着させる必要があってね、、、そ~こ~でぇ~っ!!さっきの芝居が活きたって訳だぁ。現にこうしてお前は俺の腕の中に居る。クックックックッ、、、
なぁに不安がる事は無い、直ぐに終わるよ。
ちょいと眠る事にはなるが、目が覚めたら楽しいネオ・ヒューマンライフの始まりだ♪」
そう言うとマシューの全身が、波を打つ様にブルリと揺れた。
まるでアメーバかスライムの様な質感となったマシューの肉体、そこへヤコブの身体がズリズリと引き込まれて行く、、、
「や、やめろ、、、やめてくれぇ~~っ!!」
何とか逃れようと足掻いてみせるヤコブ。
しかし左腕から順に徐々に飲み込まれて行く、、、
やがて左肩まで飲み込まれ、、、
顔も半分まで飲み込まれた、、、
「$Ⅱ&@/:、、、っ!!」
何やら叫んでいるが、それは既に言葉としては聞こえない、、、そして残るは右半身のみとなっている。
何かを掴もうとしているのか、必死に伸ばされた右腕がのたうつ蛇の様にバタバタと暴れている。
しかしそれは右肩、、、右肘、、、と取り込まれるにつれ、どんどん短くなっていく。
やがて暴れているのは右手首だけとなり、それすらも直ぐに、マシューの肉体が閉じる「タプンッ」という音と共に姿を消した、、、




