友の名、それはマシュー
室田の放った衝撃の言葉に、愕然とヤコブを見やる楓とニコライ。
(武器など役には立たない)
有働の台詞の意味を、2人はようやく理解していた。
「ヤコブ、、、貴方、、、」
楓の眼差しが針の様にヤコブを刺す。
「そんな目で俺を見ないでくれ、、、」
そう言うとヤコブは、楓の視線から逃れる様に室田へと向き直った。
「しかし何故判った?俺が、、、その、、、そうなってしまったって事に」
自らが辿ってしまった命運を認めたく無いのだろうか、言葉を濁しながら問うヤコブ。
それに応じたのは室田ではなく有働だった。
「ヤコブ、、、ってったかな?俺は爺さんに同行してる有働、、、有働 流石ってんだ、よろしくなっ!
で、何んで俺達が気付いたかって話だが、爺さんの持つ端末にチョイチョイDから連絡が入るのは知ってっかぃ?」
それを聞いたヤコブは、意外そうに室田に目をやった。
「いや、、、そうなのか?」
小さく頷いて室田も答える。
「ウム、Dの使いとやらが訪ねて来ての、その端末を手渡された」
「でな、俺達はDと直接やり取りする内に、ある違和感を覚えた。そしてそれと同じ物をアンタにも感じたのさ。
兄弟の馬鹿力で首根っこを引っ張られ雑に扱われりゃあ、普通の人間なら1度くらいは目を瞑っちまうもんだ。
しかしアンタはそうじゃなかった。
それどころか、この部屋に入ってから数分経つというのに、アンタは1度もまばたきをしていない、、、
俺達が覚えた違和感、それはDがまばたきをしないって事だったんだが、その特徴に一致したアンタはつまり、、、既に人間じゃない、と答えは出てくる」
続けて室田も口を開く。
「その、まばたきの件はあくまで推測だったんじゃが、お前さんが現れた事で確信に変わったわぃ。そもそもその特徴がDだけの物なのか、ワシ等がミミックと呼ぶ奴等全てに当てはまる物なのかも定かでは無かったんじゃが、お前さんのお陰でそれも断定して良いようじゃな。
ミミックはまばたきをしない、、、
ワシ等がこれを知った事と、それを奴等に悟られておらぬ事、それは人間社会に潜む奴等を見分ける時、大きな武器となるじゃろうよ。
不謹慎かも知れんが、お前さんには礼を言わねばならんのぅ、、、」
「なるほど、、、素晴らしい洞察力だな。
貴方達と同じく、俺も周囲の者達に違和感を覚えてはいたのだが、その正体には気付けなかった、、、いや、探ろうともしなかった。
だから、、、こんな、、、」
俯いているが、その表情が苦渋に満ちているであろう事は皆が想像出来た。
重い沈黙が暫し部屋を包む、、、
楓がヤコブへと歩み寄り、その肩へそっと手を乗せると、抑揚を抑えた口調で語り掛けた。
「貴方の心中、察するに余りあるわ。
でも今度は貴方が話す番よ。何があったのかちゃんと教えて、、、そこになんらかの手掛かりが隠れてるかも知れない。
貴方の味わった悲劇を、今後少しでも減らす事が出来るかも知れないんだから、、、」
楓の言葉に顔を上げたヤコブ。
その表情は殊勝にも普段の物へと戻っていた。
「見苦しい所を、、、申し訳無かった、、、」
1度頭を下げてから話を続けるヤコブ。
「あの日、貴方達と会ったあの日の事だ、、、大使館に戻った俺を、上司のマシューという男が呼び止めた。このマシュー、立場上は上司なんだが、俺とは軍に居た頃の同期でね。
気のおけない友人と言った方がしっくり来る。いや、来ていた、、、と言うべきだろうな。
ある日を境に奴は変わったんだ、、、何がどう変わったかと言えば上手くは説明出来ないがね。雑談で話す内容や口癖、仕種や変な所で上がるテンションなんかはマシューのままなんだが、どこかこう、、、お前、本当にマシューか?と感じる事が増えていったんだ。
きっとそれが貴方達の言う違和感ってやつだったんだろうな、、、
あ、脱線してすまない、話を戻そう。
俺を呼び止めたマシューは、明らかに元気が無かった、、、というよりも異様な程に落ち込んで見えたよ。そして聞いて欲しい話がある、そう言って俺を自分の部屋へと呼び入れた。
すると悲痛な表情を浮かべてこう言ったんだ。妻と娘が、、、と」




