再会
ついにゲーム開始当日の朝となった。
正式な開始時刻は午前10時だが、少し早めにホテルを出ようという事になり、8時には出発の準備が整っていた。
昨夜ニコライの言ったように、危険を避ける為ホテルの朝食は口にしていない。
そしてそろそろ出ようかと話し始めたその時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
室内に緊張が走る。
従業員であれ宿泊客であれ、当然Xグループに分けられた者がこのホテルにも居るはずである。
それらの者達が先走って室田を狙う、、、
十分にあり得る事と言えた。
皆が息を潜める中、ニコライが目のスコープをサーモ・モードへと切り換え、ドアの方を見る。
すると、ぼんやり赤みを帯びた人型が、ドアの向こうに見えた。
どうやら来客は1人だけらしかった。
壁際に身を潜める等の怪しい動きは別段無く、ただ漠然とドアの前で応答を待っているようである。
全員が視線を交わし頷き合うと、楓がそっと指輪に触れた。
ステルス・モードとなり姿を消した楓が、扉横の壁際にスタンバる。
その手には勿論、孫六ブレードが握られていた。
反対の壁際には、ハンドガンを手にしたニコライが身を隠した。
巨体の上、機械化されたその手にはハンドガンがやたらと小さく見える。
万一に備えた態勢が整い、ようやく有働が声を返した。
「ど~なたぁ~?」
緊張感を台無しにする間の抜けた声である。
するとドアの向こうから返って来た声は、有働以外の者には聞き覚えのある物だった。
「突然訪ねて来てすまない。俺だ、、、ヤコブだっ!開けてくれムロティー!」
予想だにしなかった来客に皆が顔を合わせた。
そんな中、ヤコブを知らぬ有働だけがキョトンとし
「え~と、、、どちらさん?」
と、誰にとも無く問い掛けた。
「ちぃとした知り合いじゃ、、、」
そう答えるとニコライに向け、クイッと顎を動かした室田。
頷いたニコライは、ドアを開けるとヤコブの首もとを掴み、一気に室内へと引きずり込む。
そして素早くドアを閉めると、直ぐさま銃口をヤコブの米噛みに突き付けた。
手を後頭部で組み、抵抗の意思が無い事を示すヤコブ。そしてボソリと呟いた。
「2度目だな、、、君にナイフを押し付けられるのは、、、」
ニコライがヤコブを部屋に入れると同時に、楓が背後からその喉元へとナイフをあてがっていた。
ステルスを解き姿を現した楓が、ヤコブの耳元で囁くように言う。
「そうね。あの時と同じく、貴方が敵じゃ無いなら良いんだけど?」
楓の言葉に少し寂しげな笑みを浮かべたヤコブ
。そしてその顔のままでこう返した。
「敵になるつもりは無い、、、だが、どう判断するかはアンタ達次第、、、だな」
「どういう意味かしら?」
「少し複雑な事情でね、、、説明するから武装を解いてくれると有り難いんだが?」
楓とニコライが判断を求めて有働と室田を見る。すると有働が先に口を開いた。
「その兄ちゃんが誰かは知らねぇけどさ、2人共その物騒な物をしまいなよ、、、どの道、その兄ちゃんにはそんな物、なんの役にも立たねぇよ」
その意味が解らず、楓とニコライが首を傾げる。
そして室田が、哀れむ様な表情でヤコブへと言葉を投げ掛けた。
「ヤコブ、、、どうやらお前さん、この1週間程の間に人間を辞めてしもうたらしいのぅ、、、」




