約束
Dからの着信に応答しようと端末を手にした室田。そこに有働がストップをかけた。
「爺さん待ったっ!!
そいつに出る前に約束してくれ。
さっきの、まばたきの件もそうだが、こちらが奴に対して気付いた事、それは一切口にするなよ?こちらがどれだけの事に気付いているか、知られないに越した事ぁ無い。
いずれこちらの切り札となり得る事だかんな、、、
今からする会話の中でも、新たな情報や疑問が出てくるかも知れんが、それについても奴と話したり、奴に訊いたりするのは一切禁止だ、、、いいな?」
何か言い返したそうな室田だったが、早く応答せねばという焦りから、有働の言葉にぞんざいに頷くと、そそくさと端末の着信に応えた。
「おはようミスター室田。我の用意した部屋はどうかな?」
「お陰で快適じゃよ。そんな無駄話はええわぃ、主が連絡をよこしたのはそんな事を訊く為では無かろう、さっさと本題に入らんか」
「フフフ、相変わらずドライな事だ。ミスターはウォームアップトークが嫌いと見える。
しかし快適と聞いて安心したよ。
いやなに、もう暫くはそちらで暮らして貰う事になるのでね、、、」
「なんじゃと?どういう事じゃ?」
訝しげに室田が問う。
「中継は観て貰えたかな?」
「無論じゃ」
その答えに満足そうに頷いたDが更に続ける。
「なかなかに楽しそうなゲームだろう?
そこでだ、中継で述べた通り開始まで1週間の準備期間を頂くのだが、その間は申し訳無いが諸君にはその部屋で過ごして貰う。
勿論費用は引き続き我が負担するよ、安心してくれたまえ」
「だからそれは何故かと訊いとるんじゃっ!」
苛立ちを隠しもせずに室田が声を荒げた。
「公平を喫する為だよ。ゲーム開始前に主人公が動き出す、そんな馬鹿げた話はあるまい?
そして何よりフェアじゃ無かろう?
ランク分けされる人間に与えられるのは1週間、、、ならば貴方に与えられるのも同じ1週間でなくてはなるまいよ。
ただしだ、動かずにその部屋から情報を集める事には制限を設けんよ。好きにしてくれたまえ。しかしもしもこの決め事を破り、諸君が行動に出たならば、その時はゲームを中止しBとCランクの人間には全て死を与える、、、
そのつもりで居てくれたまえ」
ぐうの音も出せずに歯噛みする室田。
それに代わり有働が横から口を出した。
「よっ!Dちゃん元気?
それはそうとアンタ達にとって大事な資源のはずの人間をさ、なんでそこまで減らそうとする訳?」
室田に質問は厳禁と言っておきながら、自ら質問した有働を室田が睨んだ。
しかし有働はものともせずDの返事を待っている。
するとDの後方に立っていた1人の男が、スッと前に出て来てDの代わりに質問に答えた。
「D様は憂いておられるのです。
数百年、、、悠久とも思える長き時間、人間の発展を見て来た。その歪な文明の進化と、神になろうとするかの如き驕る人類、、、そしてこれ以上殖やしてはならぬ種だと判断した、それだけの事です」
「こちらさんは?」
Dに尋ねる有働。
「おぉ、これは失礼した。紹介するよ。
長きに渡り我の弟子、、、いや側近を務めてくれている男でね。名をJJという、これからも諸君とは顔を合わせる事もあろう、我と同じく宜しく頼むよ」
紹介されたJJが深く腰を折った。
「以後、お見知り置きを、、、」
それに片手を上げて軽く答える有働。
「JJちゃんね♪こちらこそヨロ~♪」
そう言うとDに視線を戻し、甘える様な声でこう続けた。
「ところで、さっきの話だけどさぁ、、、
ホテルから一歩も出ちゃ駄目な訳?
そりゃあちぃ~っと厳し過ぎねぇか?
どうせ俺達の行動はアンタの監視下にあるんだ、心配しなくとも変な真似はしねぇよ。
だからせめて神戸市内くらいは好きに動かせてくんねぇ?贅沢なホテル暮らしでも、外の空気も吸えねえんじゃ、いくらなんでも腐っちまうよ、、、」
情けない表情で懇願する有働を、Dは暫し窺う様に見つめていたが、フッと笑顔を浮かべるとこう話し始めた。
「有働 流石、、、喰えぬ男、そして憎めぬ男よのぅ。切れ者のお主の事だ、何か考えがあっての事だろうが、あえて口車に乗ってやろう。神戸市内の行動は認める事とする。
ただしだ、グループに別れての別行動は認めないよ。必ず4人一緒に行動してくれたまえ。
でないと、その中の誰かだけが先発として我の元へと向かいかねんからね、、、」
そう言ったDにJJが咎める様な視線を投げた。
「宜しいのですか?D様、、、」
「良い」
Dは手を上げてそれを制すると、有働に視線を戻し話を続ける。
「こうやって定期的に連絡を入れるが、その時に4人揃っていない場合は、、、解るね?」
「トイレ行ってる時とか、買い物行ってる時なんかは揃って無くても勘弁してくれよな」
有働の言葉に微笑みながら頷くD。
すると有働は、いつもの様に口笛を吹いて指をパチンと鳴らした。
「Dちゃん、なかなか話が解るじゃん♪
了解だ、アンタの言い分については約束するぜ、とりあえず聞き入れてくれてありがとよっ!」
「フフフ、ミスター室田、貴方は良い手駒を手に入れたね。ますますゲームが楽しみになってきたよ。ではそろそろお暇するとしよう、、、引き続き豪華なホテル暮らしを楽しんでくれたまえ、遠慮無くね。
おっと、そうだった、、、言い忘れていたよ。今現在決まっている事を1つ教えておこう。
Cにランク付けする者達の事だが、、、
全て収監されている犯罪者にする事と決めたよ。
それでは諸君、、、いずれまた」
そう言うと通話は、いつもの様に一方的に切れた。
それと同時に有働が室田に問う。
「爺さん、、、あのJJとか言う男、とんでも無い事を口にしたが、気付いたか?」
「いや、、、気付かなんだが、、、何を言っておった?」
しかし有働は直ぐにはそれに答えず、満足そうな笑顔でタバコに火を点けた。




