その理由
「ワシが主役のゲームじゃと?、、、どういう事じゃ?」
「まぁまぁ、、、詳しい内容は明日の発表を楽しみにしてくれたまえ」
「なんじゃい!焦らしおってからに!」
端末の画面越し、互いを見つめ合う室田とD。
そこへ有働が又も空気を読まずに発言する。
「爺さん考案の爺さん主役のゲーム、、、か。クソゲーの臭いがプンプンするな、、、」
「フフフさぁてね、そうとは限らんよ。少なくとも諸君に退屈はさせないと思うが、、、
しかし君は歯に衣を着せぬよな。まぁ、そういった男は嫌いでは無いがね。とにかくだ日本時間の明日午前9時、世界同時中継を行う。
諸君も今日は動くのを止め、それに備えては如何かな?
その場所から程近い、ポートピアホテルに部屋を用意してある。費用は私が持つので遠慮無く寛いでくれたまえ」
それを聞いた有働、腰の辺りで拳を引き、小さくガッツポーズを取る。
「マジでっ!?ルームサービスとか好きなもん頼んでもいいの?後で怒ったり、請求書を寄越したりせんっ?」
「フフフ御心配無く。なんなりと好きなように」
Dが答えた所で慌てて室田が割って入る。
「ま、待ていっ!!有働、お主、、、ひょっとして一緒に来る気かぇ!?」
「ん?何を今更、、、当然じゃん。それが何か?」
俺、当然の事を言ってます、、みたいな顔が見る者をイラつかせるが、室田は諦めた様子で額に手を当て、しきりに首を振っている。
「おっと、、、名残惜しいが、そろそろタイムアップだ。明日の中継を楽しみにしておいてくれたまえ、、、それでは諸君、ごきげんよう」
「ま、待てっ!D!」
室田が言い終えるのを待たずして、通話は一方的に遮断された。
大きく諦めの息を吐きながら有働へと向き直った室田。
「お主、本気かぇ?Dの企みが判らぬ以上、この先何があるか予想もつかん。何らかの妨害もあろうよ、、、はっきり言って危険な旅になる。その辺りを解っておるのか?」
「勿論解ってる。死ぬ気はねぇが、死ぬ事もあるかもなっ、、、って位のテンションで覚悟はしてるさ」
いつになく真顔で答えた有働。どうやらその言葉に嘘は無いようである。
しかしそれを受けた室田は更に問う。
「ワシには奴と会う理由がある、、、
ミミック細胞を作ってしまったという業を背負っておるでな。しかしお主にはそこまでの理由はあるまい?何故じゃ、、、何故命を賭けてまで奴を目指す?」
目を伏せ、そろりと言葉を吐き出す有働。
「理由ならあるよ。まず1つ、俺にとってあの細胞の件は途中で投げ出した、、、いや投げ出さざるを得なかった仕事なわけだ。
しかもあの頃は全く知られていなかった裏社会での出来事だったのが、今や世界を揺るがす大事件、、、いや既に世界を変えてしまっていると言うべきだな。フリーとなった今なら誰に遠慮する事も無く、その真相に迫れるんだぜ。腕が鳴って当然だろ?
そして2つ目の理由、、、
さっきも言った通り新田は俺にとって数少ない、、、いや、唯一の親友と呼べる男だった。これだけでも俺が動くには十分な理由になるだろうよ、、、」
「ほう、、、無頼漢と思いきや、なかなかどうして殊勝な事よ」
意外な有働の言葉に室田は感嘆を隠さない。
「それともう1つ、、、どうしてもアンタ達と一緒に行かなきゃならない理由がある」
「なんじゃまだあるのかぇ、、、そりゃ何んじゃいっ!?」
少々イラついた口調で室田が問い、俯いた有働が小声でそれに答えた。
「、、、、、無い」
「ん?無いって何んじゃいっ!!お主があるっちゅうから、、、」
苛立ちがピークに達っした室田。
顔を上げた有働、室田の怒鳴る声を遮り、今度ははっきりとした口調でこう答えた。
「金が無いっ!!」




