コードネーム
あの日の回顧録を言い伝えた有働。
「その後、須田から連絡を受けて応援を向かわせたんだがな、結局そいつらの足取りは掴めないまま、、、そして新田と例の猿は連れてかれちまった、、、」
遠い目でそう言うと、いきなり申し訳無さそうな表情へと変わった有働。
思い出した様に人指し指を立てたかと思うと、その手を直ぐに掌に変え、自分の顔の前に立てながら軽く頭を下げる。
その動作の意味を理解したらしく、呆れ顔でポケットからタバコを取り出した室田。
「しょうの無い奴じゃ、、、1本とは言わん、これごとくれてやるわいっ!」
そう言うと未だ半分以上残るタバコを、箱ごとポイと投げ渡した。
「オットット、、、うひょっ!まだこんなに入ってるやんっ!!流石は爺さん、太っ腹ぁ♪」
慌てて両手で受け取った有働、歓喜の表情でご機嫌な声をあげる。
早速そそくさと火を点ける有働を横目に、呆れ顔のままで室田が言った。
「べんちゃらはいらんわいっ。で、結局、新田の行方は知らんちゅう事かぇ?」
満足そうに煙を吐き出した有働が、チッチッチッと舌を鳴らし、指を振りながらそれに答える。
「当然俺達は須田が撃った男の身元を調べたよ。アレクサンドル・ヒョードロフ、、、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の人間だったよ。つまり新田とお猿さんは、遠くロシアに連れてかれちまった、、、て訳だ。」
「ムウ、、、そんな事になっていたとはな、、、ワシはてっきり新田の奴が金を目当てに、自らあの猿をどこぞの国かに売り込んだものと思うとったわ、、、悪い事をしてしもうたな、、、」
「本当にそう思ってんのかい?」
「、、、どういう意味じゃ?」
「さて、どういう意味だろうね」
含みを込めた言い方が気に入らないらしく、室田が有働を睨む。
それを正面から受け止める有働との間に軋むような空間が生まれている、、、
しかし重くなった空気を楓の声が破った。
「でも、なんでその連中は目的の猿だけで無く、新田まで連れ去ったのかしら?
殺して猿だけ奪う事も出来たはずよね?
むしろその方が仕事は早く済むわ。
リスクも低いし手っ取り早いだろうに、、、」
「ちしキ・と・ぎジュツ・が・ほしカッタ・そんナ・とこ・ダロう、、、」
ニコライが言い、補足とばかりに有働が言葉を足す。
「デカいオッサンの言う事が正解だろうな。
お猿さんだけ連れ去った所で、細胞の扱い方は判らない。だから知識を持つ新田を一緒に連れ去った、、、タイミングは良すぎるが、、な。
まっ、そんな理由だろうよ、解ったかい?カワイコちゃん♪」
「なるほどね、解説ありがとリーゼントのお兄さん♪」
「有働流石だ。流石と呼んでくれたらいいぜっ」
「流石かぁ、、、流石っちって呼ぶわ、宜しくね。私は楓、そして彼が、、、」
目を向けられたニコライが喰い気味に言う。
「デカい・おっサン・こと・ニコらい・ダ!」
スコープアイが唸り有働へと向いた。
恐らくは睨んでいるのだろう。
どうも先に有働が言ったデカいオッサンという言葉、これが引っ掛かっていたらしい。
しかしそんなニコライの内心など意に介さず、有働は変わらぬ口調で言い放った。
「ハハハ!流石っちか、悪くない!宜しくな楓ちゃん♪ついでにデカいオッサンもっ!!」
米噛みに青筋を浮かべたニコライが、荷物から銃を取り出そうとしたが、慌てた楓が止めてくれたお陰で何とか事なきを得た。
未だに恨めしそうなニコライに楓が言う。
「まぁまぁニコライ、そんな顔しなさんなって!名前の似た者同士、仲良くなさいなっ!」
「ん?名前の似た者同士?俺とオッサンが?
う・ど・う・さ・す・が、、、ニ・コ・ラ・イ、、、1文字たりとも合ってないけども?」
指を折り1文字づつ確認した有働、訳が解らんといった表情を楓へと向ける。
「ウフフ、、、私達はね、名前の他に任務で使うコードネームってのを2~3個持ってるの。因みに私は(キラービー)(ミラージュ)(ピクシー)って呼ばれてるわ。そしてニコライは(ホークアイ)と(サスカッチ)よ。流石っちとサスカッチ、、、ねっ、似てるでしょ?」
「へぇ~、そのコードネームに由来はあるの?」
「勿論よ。容姿や闘い方、マシンナーズとしての性能も関係してるわ。私の場合だと、闘い方が殺人蜂、性能が蜃気楼、、、そして当然、妖精の由来は愛くるしい容姿って訳」
言った楓がウインクと共にポーズをとり、「愛くるしい」の部分を強調する。
「なるほど、なるほどっ!で、オッサンの方の由来は?」
又も青筋を浮かべたニコライだったが、銃を取り出す事は今回堪えて見せた。
「ニコライの目となっているスコープの性能は鷹の目にも劣らない、だからホークアイ。
そしてサスカッチってのは雪男の事なんだけど、ニコライは目、腕の他に脚も機械化されているの。そしてそれは性能の理由からとても巨大な物となっている。つまり雪男の異名ビッグフットから連想してサスカッチとなったって訳よ」
「そっか!流石っちとサスカッチ、、、確かに似てるな。改めて宜しくな兄弟っ!!」
相変わらず能天気で調子のいい有働だが、ニコライはフンッと鼻を鳴らし、顔を背ける事で返事の代わりとした。
「そ~~んな事はどうでもええわいっ!!!」
無駄話に痺れを切らせた室田が吼えた。
「ったく、、、くだらん事をピーチクパーチクと長々と、、、とにかくじゃ新田の事が判った以上、こんな場所に用は無いわいっ!
さて、これからどうするかじゃが、、、」
そう言った時、どこからか電子音が聞こえた。
最初室田は研究所からの連絡かと思い、自分の携帯を取り出したが、そうでは無かった。
その音は室田の鞄の中で響いている。
音の主はDから受け取った端末、、、
そしてそれはDからの着信である事を意味していた。




