コンテナ置場の攻防
自分にも解らない、、、
有働の問い掛けに力無く答えた室田だったが、一転すると強い眼光で有働に問い返した。
「次はお主が答える番じゃ。新田の行方を知っている、、、そう言うたな?」
「行方というのは少し違う。ただ、、、アンタが猿の処分を命じたあの日、奴は俺に電話をよこした、、、助けてくれ、、とな」
「新田がお主に?、、、どういう事じゃ?」
「アイツと俺は同時期に東大に通っててね。学部も学年も違ってたが、アイツは俺にとって数少ない友人の一人といえた、、、変わった奴でね、毎日クロスワードパズルをやっていた、、、
それが普通のやりかたじゃ無くてな、縦と横のキーワードを使わないんだよ。
自分の知ってる単語を駆使して、ただクロスワードを埋めるんだ。変な奴っちゃろ?
でも、そんな事に夢中になってるアイツに俺は興味を惹かれた、、、それからの友人だ」
懐かしむように頭上へと視線を走らせた有働、その目はとても優しい、、、しかしそれは一瞬にして怖い物へと変わった。
「爺さん、アンタ、、、処分を命じた時、新田にガードを就けてくれと頼まれたよな?しかしアンタはその願いを跳ね退けた、、、なんでだ?」
言い終えた有働が、吸っていたタバコを指先で揉み消した。
「フン、、結局またワシが質問される側かいな、、、簡単な事じゃ、一研究者がガードに護られながら何やら運び出す、、、目立ち過ぎるじゃろうが。重要な物を運んでますと、マークしとる連中に教える様なもんじゃて」
「なるほど、一応は尤もらしい答えだな。
しかし新田はやはり不安だった。そこで俺に、、、いや、国に助けを求めたんだよ。
どう扱うかは委せるから、この猿を引き取ってくれ、、、とな。
そんな訳で、ポートアイランドのコンテナ置場を受け渡し場所にしたんだが、、、、」
「したんだが?」
「新田からの電話を受けた時、俺は別の任務で北海道に居てな、、、代わりに部下を2人現場にやらせた。そしたら、、、」
そう言った有働は遠い目に変わっていた、、、
新田からのSOSがあった当日夜。
ポートアイランド、コンテナ置場。
「待ち合わせは、この辺りだよな?」
「ん、そのはずだが、、姿は見えんな、、、」
コンテナエリアに現れた2人、有働の指示でやって来た須田と谷口のコンビである。
注意深く周囲に目を配る2人。
その背後でバンバンと物を叩くような音が響いた。
そちらに目をやると、コンテナがいくつも積まれており、その向こう側を見る事は出来なかった。
ゆっくりそちらへ近付きながら、須田が細々と声を掛ける
「新田さんかい?」
返事は無い。
しかし、コンテナの向こう側からン~ン~と唸る声、そして又も何かを叩く音が聞こえた。
ただ事では無い、、、須田と谷口が顔を見合わせ頷き合う。
懐から拳銃を取り出した2人は、リボルバーを覗きこみ、弾が装填されているのを確認すると、ハンマーを起こして眼前に構えた。
2人の拳銃はニューナンブ。装填数は5発と少なく、リボルバー式の為にブローバック式のような連射も利かない、、、
既に生産も終わって久しい古い銃だが、何故か日本の警察や公安は長きに渡ってこの銃を採用している。
いつでも撃てる態勢で2人が一気にコンテナを越え、その向こう側へと身を乗り出した。
すると3人の男が1人の男を、無理矢理に車へと押し込もうとしていた。
襲われている男は猿轡を咬まされ、羽交い締めにされている。
その状態で尚、必死の抵抗を試みている。
出ないながらも声を張り、足をバタつかせてガンガンに車を蹴っていた。
先の唸り声と何かを叩く音は、これが発信源だったという訳だ。
この男が新田である事は疑いようも無い、、、
須田と谷口は飛び出すと、男達に銃口を向けながら叫んだ。
「フリーズッ!!」
その声に一瞬の焦りを見せた男達だったが、その中の1人がすかさず銃を手にして、新田を楯にとった。
そして男は驚いた事に、何んの躊躇いも見せずに須田と谷口に向けてトリガーを引いた。
谷口の頭部が大きく仰け反った。須田の目の前で、、、、
「谷口ぃぃ~っ!!」
倒れた谷口に須田が駆け寄る、、、
しかし谷口の眉間には穴が穿たれており、後頭部は割れた壺の如く、その破片を周囲へと撒き散らしていた。
「た、、谷、、、口、、、」
自責と哀惜を抑え込み、肚から絞り出すようにその名を呼ぶ。
返事が無い事は解っているが、それでも呼ばずにはいられなかった。
獣の形相で敵意を剥き出した須田、構えたニューナンブのトリガーを引くっ!
心情的には谷口を撃った男を倒したい、、、
これが本音であったが、新田を楯にしており、この距離で狙うのは危険度が高過ぎる。
その為、狙ったのは運転席に乗り込もうとしていた男だった。
須田の放った怒りの銃弾は、見事にその男の胸を後ろから貫いた。
崩れるように倒れる男を見て、谷口を撃った男が須田へと反撃する。
狙いもクソも無い、それは乱射だった。
須田を撃つ事よりも、時間を稼ぐのが目的のようである。
男の銃はオートマチック式のトカレフ。
装填数も連射性能も須田のニューナンブより遥かに上である。
正面から闘うにはあまりにも分が悪い、、、
コンテナに身を潜めて攻撃が収まるのを待つ。
その間に男は新田を車へと蹴り込み、自ら運転席に乗り込むと、急いで車を発進させた。
よほど焦っていたのか、須田に撃たれた男の遺体もそのままに、、、
コンテナから飛び出し、走り去る車の後部へと残りの4発を乱れ撃つ。更に谷口の握っていた銃まで手に取り、5発全弾を撃ち切った。
せめて1発、谷口の銃弾を浴びせたい、、、
ただそれだけの想いから出た行動だった。
しかし当然ながらそんな事で足止め出来る訳も無く、車は深い闇へと溶けて行った。
倒れている男と谷口の亡骸を交互に見た須田。
改めて色々な感情が沸き上がる、、、
左手で己の右肩を抱き、肉をもぎ取らんばかりに爪を立てると、再び絞るような声を発した。
「、、、クソッタレッ!!」




