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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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顎髭とリーゼントと意外な事実

「このまま来させて良いの?」

言いながら楓がナイフのグリップに手を添える。ニコライも同じく臨戦態勢にあるようだ。

しかし室田はヒョイと手を振りそれを制した。


「よいて。それより覚えとらんのか?あの男を」

言われて2人が、近付く有働を穴が開く程に見つめた。


「あっ!思い出したっ!!あんな格好してるから判らなかったわ、、、」


「オレも・ダ」


2人は顔を見合わせると、何やら思い出したらしく、声に出して笑い始めた。


「フンッ!そうじゃよ、あの時の男じゃよ」

室田が苦々しく言葉を吐き出すと同時に、有働が皆の所へと辿り着いた。


「ようっ!久しいな爺さんっ!覚えてる、俺の事?」

御近所さんに声掛けする様な軽口で、有働が片手をグッパと開閉する。


「当たり前じゃ、お主の事は忘れんわいっ!あの細胞の存在が裏で知られる中、各国のエージェントが競うようにワシの元を訪ねて来た。

皆、口調は丁寧だが、半ば脅しに来ていたようなもんじゃった、、、まさに慇懃無礼というやつじゃ。

身の危険を感じたワシは、私財をなげうってこやつらをガードに就けた訳じゃが、ワシの元を一番遅くに訪れたエージェントがお主じゃったよ、、、有働流石。

自国で開発された細胞に対し、一番遅く動いたのが日本のエージェント、、、ワシは不思議じゃった。それを尋ねたかったが、お主が来たのはその時の1度のみ。ましてあの時は訊く事すら出来ぬ状況にしおって、このバカ、、、

故にあえて今訊こう。

何故に初動が遅かった?

そして何故に1度しか来なかったんじゃ?」


上目遣いに睨みを入れる室田に対し、側頭部を撫で上げながら有働が答える。

「ハハハ、、、そんな事かっ!簡単な事だよ。先ずは何よりその細胞の情報、眉唾と思って信じて無かった訳よ。だから他国がどう動くか、それを見極めてから動いた、、、そしたら一番遅くなっちまったってだけよ。

んでもって、いざ本腰入れて動こうとしたら、今度は上から調査中止命令が下った。

だからアンタとは1度しか会えなかった、、、しかし1度しか会ってない俺をよく覚えてたな、しかも名前まで。光栄だぜぃっ!」


パチンと鳴らした指をそのまま室田へと向け、口笛を吹く有働。


「それじゃよっ!それっ!!」

逆に指を指し返し、それを大きく振った室田。

大きく鼻を鳴らすと呆れたように続ける。


「その不遜な態度、変わらんのぅ、、、

他のエージェントは慇懃無礼だったと言ったが、お主のは単なる無礼だったからの、、、

なんせ初対面でいきなりワシを爺さんと呼んだのはお前さんくらいじゃて。忘れとうても忘れられんわい」


「あの時、この人がアンタの不躾な態度にブチ切れたじゃない?どやされて、脱兎の如く逃げ帰るアンタときたら、、、思い出しても笑いが込み上げるわっ」


「アノあと・オレたち・モ・ヤつアタり・されテ・いイ・メイわく・ダッた」

当時を思い出した楓とニコライが、必死に笑いを堪えている。

当の有働はと言えば、バツが悪そうに米噛み辺りを掻きながら苦笑いを浮かべていた。


「で?内閣調査室の者が来たっちゅう事は、例の細胞の件じゃろが?個人として動いたのか、組織としてかは知らんが、昔のよしみじゃ話くらい聞いてやるわい、、、」


「俺はもう内閣調査室の人間じゃねぇよ、、、とっくに辞めてる」


「ほぅ、、、ならば何用でこんな所まで?」

意外な答えに室田が顎髭をしごいた。


「爺さん、、、アンタ、新田光一の足取りを追うつもりなんだろ?」

そう言うと有働はポケットから長櫛を取り出し、リーゼントの筋目に沿って走らせる。

そして櫛をポケットにしまった有働は、鋭い眼光でこう続けた。


「新田のその後の事は、俺が知っている」


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