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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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研究所前

同日午前8時2分。

有働は研究所へと到着した。

まだ時間も早く、どれだけの人間が居るかは判らないが、取り敢えず室田が昨日来たのかだけでも知っておこうと守衛に声を掛けた。

最初は有働のナリにいぶかしむ目を向けた守衛だったが、有働が懐から警察手帳(偽造)を見せると、途端に態度が変わり、前日に勤務していた担当守衛に連絡をしてくれた。


その結果、現時点で室田が来ていない事は確認出来た。

そのままの勢いで、所員に話が訊けないかと申し出たが、殆どの所員は未だ来ていないので、、、と、やんわり断られた。


(フム、しゃあないか、、、)

顎を2~3度掻くと有働は

「そうですか、解りました。御手数をおかけしました、後程に出直させて頂きます」

慇懃に頭を下げ礼を述べると、守衛室に背を向け歩き出した。

一先ず守衛から見えない所まで移動し、路肩の縁石に腰を下ろす。

ポケットからタバコを取り出し火を点けると、煙を吐きながら空を見上げた。


「ええ天気やのぅ、、、さて、どうすっか」

自分の考えが正しければ、室田は必ず今日やって来る。その事には自信があった。

しかしいつ来るのか、徒歩、車、何で来るのかも判らない。

すると有働、徐にスマホを取り出し、何やら調べ始めた。

画面を見つめ、顎を手で掴みながら考え込んでいる。


(急げば30分で戻れるか、、、研究所員が揃うのは9時以降、その事を知っている教授も来るのは9時以降の可能性が高い、、、ちょっとした賭けだが、、、な)

何かを決意したらしく力強く立ち上がると、タバコを携帯灰皿へと投げ込み、足早に駅方向へと戻って行った。


そして計算通りの30分後、再び研究所付近に現れた有働。

しかし先と違うのは車に乗っている事である。

スマホで検索し、数駅先にレンタカーがある事を調べて借りて来たという訳である。

この後、自分が姿を見せた時の室田の反応次第では、尾行や追跡をせねばならない事も十分ありえる。

何より室田が現れるまでの張り込みも、車があった方が何かと都合が良い。

それらの事も考慮し、どこにでもある目立たぬ大衆車を選んだ。


車内から研究所の正面入口を睨み続ける。

徒歩で来る者、近づく車、それら全てに気を配った。しかし有働はこうも思っていた。


(いくら室田の爺さんでも今は部外者、フリーに出入りは出来ないはず。と、なれば必ず守衛室で足止めを喰う)

しかし油断は禁物。

万一の可能性に備えて、来る者全てを凝視し続けた。

しかし、、、9時半になっても、10時を過ぎてもそれらしき人物は現れない。

焦りと苛立ちでタバコの本数だけが増えた。

しかしこれはレンタカー、、、

アウトロー然としておきながら、ちゃんと車外で吸っている。この辺りに有働の素の部分が窺える。


そうして10時40分、一目で一般の車両では無いと判るゴツい車が現れた。

正面入口付近で止まり、黒いツナギ姿の女性と、岩山のような大男が降りるのが見えた。


(この2人、見覚えがある、、、来たかっ!)

有働は近付くタイミングを見計らいながら、暫し様子を窺った。

女性と大男が周囲を警戒する中、ジャケットにハットとお洒落な顎髭の老人が降り立つ。


(間違い無い、室田の爺さんだっ!)

しかし有働は動かなかった。

室田達と一緒に研究所に入るのが目的では無い。

合流するのが第一の目的である以上、室田が所内での用件を済ませてからでも遅くは無い。

むしろその方が邪険に扱われずに済みそうですらある。

そう考えた有働は、一行が研究所から出て来るタイミングで近付く事に決めた。


ところが室田達は守衛室で少し話すと、研究所には入らず、直ぐに車へと戻ったではないか。

焦った有働は尾行せねばならなくなったと思い、エンジンを掛けそうになる。

しかし相手の車はエンジンが掛かっていない。皆が車内に(とど)まり何かを待っているようである。


(どうする?、、、)

状況が見えず一瞬迷ったが、思いきって車から出た有働、敵意の無い事を示す為に軽く両手を広げ、ゆっくり室田達の車へと近付いた。


「オイ・ムろてィー・ダレか・こちラへ・くるゾ」

先に守衛室へ向かう際、周囲を警戒したニコライは気付いていた。

停車中の車と、その中に男が居る事に。

当然ながら、以降それは警戒の対象となった。

それ故にニコライは、有働の動きに即反応したのだ。


「あら、なかなかイカれてて素敵じゃない。でもあの男、、、どっかで見覚えあるんだけど、、、」

眉間に人差し指を当て楓が考えると、ニコライが有働の顔を過去に記録したデータと照合する。


「ビンご・かこニ・いちド・アッて・いル、、、ヤツ・の・なハ、、、」


「内閣調査室の有働、、、有働流石じゃよ」

ニコライの言葉を遮りそう言った室田。

近付いて来る有働へと横目を流すと、やれやれとばかりに首を振り、面倒くさそうに深い息を吐いた。

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