D=e、、、?
室田はホテル室内の椅子に凭れながら封蝋印を切ると、直ぐには中身を取り出さず、躊躇うかのように1度手を止めた。
楓とニコライの視線を浴びたまま暫し封筒を見つめ、意を決するとようやく中身を取り出した。
それは1枚だけの手紙。
そしてそこに書かれていたのは室田の読めない言語であった。
「、、、ニコライ、これ、、、読めるかぇ?」
ゴツく、鈍い光を放つ金属の手で手紙を受け取ったニコライ。
モーター音が唸り、スコープアイが文字に沿って動く。数回細かく頷いたニコライ。
「おっ!解るのかニコライっ!?」
言いながら室田の顔が明るくなる。
「オレは・ロしあゴ・エいご・にホンご・しか・わかラン・これハ・よめナイ」
何故か胸を張り、ニコライが手紙を室田へ突き返す。
「なんじゃいっ!気を持たせおって、、、」
室田が手紙を受け取ろうとするのを、横から楓がひったくった。
「あらニコライ、勉強不足じゃない?私こう見えて13ヶ国語OKだからっ!」
顎を突き出しドヤ顔を向けると、手紙に視線を走らせた。
「これ、イタリア語ね、、、でも変だわ、途中からはフランス語で書かれてる。何か意味がありそうね、、、」
首を捻る楓に、焦れた室田の声が飛ぶ。
「んで、何んと書いてあるんじゃ?」
「白き海と2つの顔を持つ場所にて待つ、、、ここまではイタリア語。ここから先はフランス語で、小さき封には我の正体についての鍵を記す、、、って書いてあるわ」
小さく鼻息を鳴らし肩を竦めた楓、室田へ手紙を返すとベッドへとダイブし
「まっ、、、たく意味が解んないっ!」
と、口を尖らせた。
「フム、、、ならば次はこっちじゃな、、、」
小さい方の封筒を手に取った室田。
こちらは封印がなされてない為か、微塵も躊躇いを見せずに中身を取り出した。
名刺ほどの大きさの、半紙らしき透けた紙。
そこには墨字でこう記されていた。
ただ1文字、小文字のアルファベットでeと。
「これまた意味が解らんわぃ、、、Dを名乗っておいて、eがヒントとはな、、、」
今度は室田が首を竦め、口を尖らせた。
「ハンし・に・スミ・で・かカレて・いル、、、そコにも・ナニか・いミが・アリそう・ダな、、、」
ゴツい腕を窮屈そうに組みながらニコライが首を捻った。
沈黙の中、三者三様に思考をフル稼働させるが、一点の光すら見えては来なかった。
埒があかないと溜め息をついた室田、時計に目をやり突然焦りを見せる。
「こりゃいかんっ!もうこんな時間じゃ!2人共急いで準備せぃっ!!」
時計の針は9時半をとうに過ぎていた。
このホテルのチェックアウトは10時である。
その為か慌てて動き出した室田、、、しかしそれを楓が咎めた。
「ちょっと落ち着きなよ。準備も何もさぁ、纏める荷物がある訳でも無いし、着の身着のままだし、、直ぐにでも出れるじゃんっ!!
ったく、、、これだから年寄りは、、、」
「カエで・いかンぞっ・ホンとう・の・トシより・に・としヨリ・と・いっテは、、、それ・とてモ・しつレイ」
2人がカラカラと笑い出す。
その様を恨めしそうに睨んだ室田、手紙の一件で吸い損ねたタバコを取り出すと、そそくさと火を点ける。
「お主等、、、主従関係っちゅう言葉、、、知っとるか?」
ようやくの恨み節だが、怒りというよりは、呆れと諦めの口調で煙と共に吐き出した。




