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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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世界のリーダーだった国

楓の指摘にヤコブの顔色が変わる。


「ニコライ、お主も気付いたのかぇ?」


「いヤ・マッたく、、、」

2人が気付かなかった程の小さな違和感、楓はそれすらも見逃さなかった。

何かを観念したらしきヤコブだが、その表情は晴れやかである。


「強く美しい上に知性まで備えてるとはな、、、恐れ入ったよ。騙してすまない、ヤコブという名は本当だが、モサドの人間では無い。俺はユダヤ系アメリカ人、、、アメリカ大使館付の武官でCIAの人間だ」


「CIA?呆れたもんじゃ、、、何故(なにゆえ)あんな嘘を、、、」

意外にも室田の口調は、子供に対するそれの様で思いの外に優しかった。


「お恥ずかしい限りですが、、、

先程語ったユダヤとしての想い、そこに嘘はありません。それを納得して頂くにはアメリカCIAより、イスラエルのモサドを名乗る方が説得力があるかと、、、それともう1つはアメリカ人として、、、」


「アメリカ人として?ユダヤだったりアメリカだったり、お忙しい事ね」

楓が鼻息混じりにその言動を皮肉った。


「個人の想いと組織の中ですべき事、これらは必ずしも一致する訳じゃ無い、、、それ位はアンタも解るだろ?」


「まぁ、確かにね、、、」


「アメリカはここ数年、ある悲願を掲げていた。それは再び単独強大国家として、世界のリーダーに返り咲く事、、、

カメレオニウムの埋蔵量がずば抜けて多かった事で、かつてのライバル国ロシアが国力を蓄えると、世界は再び冷戦状態に。そんな中で経済力の低下も手伝って、我が国の地位は沈む一方だ、、、そして追い討ちをかける様に奴等が現れた。

というより大統領が化物に成り代わってる事にすら気付けなかった、、、

その上、今後は国という枠組すら無くすと宣言している。

つまり人類は皆、祖国を失う事になる、、、もはや人間同士が争っている時では無いという事だ」


「わかってるじゃない。こんな状況で化物を放っておいて、人間同士が争うなんて愚かの極みだわ」

楓は腕を組んだまま、当然とばかりに言い放った。


「で?そのアメリカの事が先の嘘となんの関係があるんじゃ?」

室田の問いに俯いたヤコブ、そのまま力無くポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「長く世界のリーダー、世界のガードマンだった我が国、、、世界がこんな状況となったからこそ先導に立ち、打倒Dを謳いたい所ですが、他国同様、上層部はあの化物共が、、、

残された人間達は多大なストレスを抱えているだろうし、決起を目論む連中も出てくる。

しかし当然、軍部を動かす事は出来んし、情報も少なすぎる。現状では指を喰わえている事しか出来ない、、、その現実はアメリカとして屈辱でしか無い!認めざるを得ないが認めたく無い、、、だからイスラエルとして、ユダヤとしてヒトラーの名を挙げ、もっともらしい理由をつけた。そして貴方の今後の動きを探った。

本当にお恥ずかしいが、そういった訳です」


ヤコブは項垂れたままである。

それを憐れむ目で見ていた室田だったが、直ぐに強い口調を飛ばした。

「ハンッ!!アメリカらしい発想じゃわい。

しかしこの現実はアメリカ万歳の陳腐なアクション映画じゃない。早まった考えは控える事じゃ。先に話したワシの覚悟、、、あれは嘘では無いでな。情報を集め、必ず貴様等が立ち上がる為の機を作ってみせるわぃ。

その時の為にも水面下にて同志でも募っておれぃっ!」


言い終えた室田が今度こそ車に乗り込んだ。

ニコライも後に続く。

残されたヤコブに楓が声を掛けた。


「男って色々面倒くさい生き物よねぇ、、、

まぁアンタとはまた会う事もあるかもね!願わくばそん時は、嘘も駆け引きも無く話せる、純粋な仲間でありたいわね」

まだ話している楓に室田が怒鳴った。


「早ようせんかっ!置いてくぞいっ!!」


「へいへい、、、うっせぇ、糞ジジイだわまったく、、、それじゃね♪」

ヤコブへ軽く手を振り、ウインクを投げた楓。

そのまま乗り込むと、ニコライが車を直ぐに発進させた。

それを見送ったヤコブは再び缶コーヒーを買い、先と同じベンチへと腰掛ける。

何やら思い出したらしく、やわらかく微笑むと消え入るように呟いた。

「仲間か、、、悪くない」


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