山村(さんそん)にて
風光明媚
そんな言葉がぴったりの、美しい光景を誇るとある山村。
都会の喧騒などとは縁遠く、高い建物も無い為360度ほぼ全てを見渡せる。
建造物といえば、茶色い石を積み上げ建てられた頑強ながらも質素な家が、草原の中に点在しているのみで、住民より遥かに多い羊や馬がそこかしこで草を食んでいる。
その光景を楽しむかの様に佇む老人が1人。
藁山に凭れ、この時代には珍しくキセルをくゆらせていた。
「長老~っ!長老~っ!」
呼ぶ声に振り返った老人は、満面の笑みを浮かべ、その細い腕を軽く持ち上げた。
「おおっ、ウーゴかっ!」
ウーゴと呼ばれた少年、年の頃は10代前半であろうか。走って来たらしく、未だ幼さの残るその顔を紅く染め、息を弾ませながら老人の前に立ち止まった。
「そんなに急いで来んでも、ワシはどこにも逃げたりせんて」
手にしたキセルをひょいと振り、笑いながらウーゴを諭す。
「ハア、、、ハア、、、それは解ってるんだけどね、、ハア、ハア、、」
膝に手を当てそう言うと、肩から提げた水筒に口をつけ息を整えた。
「で、ワシに何用かな?」
「あ~っ!やっぱり忘れてるっ!こないだ約束したでしょ、昔のお話の続き聴かせてくれるって!!」
むきになって頬を膨らませるその姿はやはり未だ子供である。
「おおっおおっ、そうじゃったのぅ。しかし変わった子じゃて、他の子は年寄りの話になど耳も貸さんというのにのぅ」
「知らない事を聴かせて貰うの楽しいもんっ♪サッカーなんかよりもずっと面白いっ!」
そう言うと今度は得意げに顎を突き上げて見せる。表情が山の天気の様にコロコロ変わり、それはとても微笑ましく映る。
「フム、ウーゴは本も好きじゃし知識を得る事が嬉しいようじゃな。なかなかどうして賢しい子じゃて。ええと、、はて、、こないだは何処まで話したかのぅ、、、」
頭上に視線をやりながら長い顎髭を手で撫でる。
「世界のあちこちで、偉い人達の身体の一部が見つかる事件があったって所!」
「おおっ、そうじゃったそうじゃった、そこまで話した所でお前さんのママが迎えに来たんじゃったな」
老人はポンと手を打ち鳴らすと、キセルに新たな葉を詰め始めた。ウーゴは隣に腰を下ろし、待ちきれないとばかりに急かす目でその様子を眺めている。
老人はようやく火を着けると、大きく息を吸い込んだ。
そして紫の煙を空に向け吐き出すと、遠い目でそろりと言葉までも吐き出した。
「その直後じゃよ、、、あの男が現れたのは」




