親だからこそ
「ユダヤ人として?どういう意味じゃ?」
「私は日本語が苦手だから、貴方が英語を話せるのは助かります。まぁそれは置いといて本題に入りましょう、、、貴方も中継を観たならば知っていると思うが、奴はあの男を配下に置いている、、、我々ユダヤ人ならば、たとえ時代が流れようと記憶から消える事の無いあの男を」
眉間に皺を寄せ、汚物を吐き出す様に言い棄てる。
「ヒトラーか、、、で?」
「Dが世を統べると宣言した上で、配下には奴が居る、、、となるとどうしても連想するのはあの悲劇、ホロコーストの再来だ。
それも今度は人種関係無く、人類全てに対しての、、、それだけは絶対に止めねばならないっ!!そこで貴方の意志を問いたいのだ。
奴に、Dに会ってどうするつもりなのかを」
言い終えるとヤコブは強い視線で室田を射った。それを正面から受け止めた室田が、予想外の言葉を返した。
「わからん、、、」
「なっ!?、、、わからない、、、だと?」
「そう興奮せんと、落ち着けて、、、
奴をどうこうしたくとも、情報が足りな過ぎて現状ではどないもならん。そもそも殺す事は可能なのか、、、可能なのだとしたらその手段は、、、何も解らん」
首をすくめ両手を拡げながら言う室田を、ヤコブは尚も問い詰めた。
「な、ならば貴方は何故奴に会おうとしている?ま、まさか配下に加わろうとでも、、、」
未だ話している所だが、室田が強烈な言葉でそれを止めた。
「親だからじゃ」
「親?」
「ああ、そうじゃ。作り出してしもうた以上、ワシには親としての責任がある。不良と化したバカ息子が、遠くで悪さをしとる、、、
となれば尻を叩きに行くんはワシの役目じゃろが」
その言い回しに、呆れた様に首を振ったヤコブだが、その表情はどこか満足気である。
「これ以上無く、納得出来る言葉でした、、、信じて良いんですね?、、、室田教授」
「かぁ~っ!!お前もかっ!ええか?1度しか言わんで耳かっぽじってよぉ聞けぃっ!
ワ・シ・は・も・う・教・授・で・は・無・いっ!!次に教授などと呼んでみぃ、Dよりも先にお前の尻をひっぱたくでなっ!!」
ポカンと口を開けていたヤコブが口許に手をやり、含み笑いながら答えた。
「覚えておきます、ミスター」
そこへすかさず楓が助言を与える。
「ムロティーでいいよ、ムロティーで」
ニコライも頷いて続く。
「ウム・ムロてぃー・が・せいシキ・な・めいショウ・だ」
「そうなのか?了解だ。なら今後はそう呼ぶ事にしよう」
勝手に納得したヤコブを一瞥し、室田が鼻を鳴らした。
「好きにせいっ!しかし、、、お前はホロコーストを危惧しとる様じゃが、それは無かろう?奴にとって人類は資源じゃ、、、サミットの会見でも言うておったじゃろ?滅ぼすつもりは無い、、、と」
「確かに滅ぼす事は無いでしょう、、、
しかし選別する事は考えられる。今や全世界で100億にまで膨れ上がった人類だ、、、
必要な人間だけを残し、不要な者は駆除する。偉人と呼ばれた優れた者達を配下にしている奴の事、十分にありえる話でしょう?
仮に人類を半分だけ減らしたとしても、それは大量虐殺、、、ホロコーストには変わり無い。」
ヤコブは真剣そのものの表情で、恐怖の可能性を告げた。
「確かにのぅ、、、ならばそうなる前にワシが尻を叩いてやるわっ!」
そう言い残し背を向けた室田。
ニコライと共に車に乗り込もうとする。
しかし、楓がそれを引き留めた。
「待って2人共、話はまだ終わってないわ」
「どういう事じゃ?」
「ナニか・キニなる・コト・でも・アるノか?」
室田とニコライが立ち止まり、ヤコブは窺う様に楓を見ている。
「ねぇヤコブ、、、モサドのエージェントなんだから、貴方が英語を話せるの当然だとは思う。でも貴方の英語には微かな南部訛りがあるわね、、、その理由を聞かせて貰えるかしら?」
楓はそう言うと腕を組み、睨むような視線を投げた。




