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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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太陽の光の下

「ダン、どれ位で解除出来そうだ?」


「思ったよりプロテクトが高度ですが、、、

3分もあればなんとか、、、」

ヘリポートへ続く扉、そのロックの解除に取り掛かったダニエル。


と、その時、遠方の空が微かに鳴り始めた。

そしてそれは複数に増え、空気を震わせながら徐々に近付きつつある。


「これって、、、」

上空を見渡しながら不安げに呟いたサンドに


「うん、、、来ちゃったみたいだね、、、」

同じく空を見上げてショパンが答えた。

それは援軍の接近を伝えるヘリの音、、、


「急げっ!ダンッ!!」

ヤコブが声を飛ばすと同時に、ステルスチーム全員が臨戦態勢に入る。


「戦闘経験は殆ど無いに等しいんだけど、そうも言ってられそうに無いわねっ!」

決意のもと、手にしたハンドガンをブローバックさせたサンド。


「僕だってそうだよ。なんたって僕はピアノの詩人だからね♪鍵盤は(はじ)いても銃を弾くなんて似合わないからさ、、、

あ~ぁ、このまま何事も無く逃げ仰せると思ったのに、、、やっぱそう甘くは無いかぁ」

ショパンは、ぼやきながらも背負っていたアサルトライフルを手に取る。


「無駄口はそこまでだ。ここのヘリポートが空いてない以上、奴等は向こうのプライベート滑走路に着陸させるはず。

それが救いと言えば救いだが、それでも到着まではもう時間が無い。皆、今の内からステルス状態になっておけ」

ヤコブの指示の下、楓が指輪型スイッチに触れようとした時、意外な言葉がヤコブの口から発っせられた。


「君はいい」


「え?」


「君はいい、、、と言ったんだ」


「ちょ、、、な、なんの冗談よヤコブ?

私だって一緒に、、、」


「駄目だっ!!」

強い口調で咎められ楓が押し黙る。

それを見たヤコブはフッと表情を緩めると、子を諭す親の様に優しく語り掛けた。


「怒鳴ってすまない、、、だが君は扉が開くと同時に、直ぐにヘリポートへ向かえるよう有働の横で待機してるんだ。

君達が無事に脱出するまで、奴等は私達3人でどうにか抑える」


「ちょ、ちょっと待って!一緒に行かないつもり?大体3人でなんて無茶よっ!

このヘリの音、、、3機は来るわよ?

少なく見積もっても30人は居るはずだわ、、、私、、、これ以上大切な人を、、、貴方を失いたくないっ!!」


「忘れたのか楓?俺達は不死身だって事を。

奴等が我々を何度殺そうと、その都度立ち上がって必ず奴等の足を止めて見せるさ」


「でも、、、」


「楓、、、聞いてくれ。

不本意な形でミミックとなってしまった私だが、ようやくその意味を見出だせたんだ。

何度も死ねるという事は、この先何度でも何度でも君を守れるという事だ。これはその記念すべき1回目、、、黙って守られてはくれないか?」

そう言って楓の両肩に手を置き、優しく微笑み掛ける。


「でも、、、たとえ奴等を止めても、その後で島ごと焼かれちゃうんだよ?、、、

そしたら直ぐには復活出来ないんだよ?」


「だとしてもだっ!こうすれば君は助かり、時間は掛かろうとも再生した私は会いに行ける。必ず会いに行くからっ!だから、、、

待っていてくれ、約束だっ!」

ヤコブは右手の小指を立てると、楓の前にそっと差し出した。

一瞬の戸惑いを見せたものの、顔を上げた楓は


「うん、、、約束っ!」

笑顔でそう答えると、固く絆のロープを結ぶかの様に、力強く自分の小指をそこへ絡めた。

その様子を切ない表情で見守っていた有働だが、横で張り上げられたダニエルの声で一気に我へと返った。


「開きましたっ!!!」


と、同時にショパンも叫ぶ


「ヘリが着陸したみたいだ!もうすぐ来るよっ!!」


固く結んだ指をほどいた2人だが、そこには細くて長い未練の糸が残っている、、、


「さぁ、、、もう行け、、、」


「、、、うん」

ヤコブの方を向いたまま、後ろ歩きで扉へと向かう。


そんな楓に有働が声を張った。

「楓ちゃんっ!急げっ!!」


更に続けてヤコブへも声を張る。

「大将っ!!楓ちゃんと交わした今の約束、絶対守れよなっ!!でなきゃどんな事してでもアンタを捜し出して、思いっきりブン殴るからよっ!!」


一瞬キョトンとしたヤコブが、表情を崩してそれに答える。

「ああ、約束は必ず守るさ。

有働、、、私が迎えに行く時まで彼女を頼む。もし楓に何かあったなら、その時は私が君を思いっきりブン殴るからなっ!」


「ハハハ、、任せろ」


同じ女に惚れた者同士、だからこそ通ずるものがあるのだろう。

数瞬、無言で微笑み合った2人。

だが敵の姿がもう目視出来る距離にある事に気付くと


「また会おう」

その言葉を残して、ヤコブの姿は周囲に溶けた。

対する有働も

「ああ、、、またな」

そう呟くと、ダン、楓と共に屋上目指して一気に駆け出した。



一方、その頃地下では、、、


「どけぇ~やつらぁ~にがさないぃぃぃ~!

やつらおうぅ~おまえじゃまぁ~~!!」

ズリズリ、、、

ズリズリ、、、


先までトリオだったその声は、ヒトラーを加えたカルテットに変わり、より一層不気味さを増している。

だがニコライは一切怯む事無く


「ワルいが・ダンジテ・ここ・ヲ・とおす・ワケには・イカンッ!」

力強くそう答えると、右腕に仕込まれたパイルバンカーをエレベーターの呼び出しスイッチに打ち込み破壊した。


「ザンネン・だったナ、、、

ちじょう・へ・ツウジる・ユイイツ・の・エレベーター・は・ハカイしたっ!

これで・もう・オウこと・ハ・できマイッ!?」

口角を上げ勝ち誇るニコライへ、異形の者は尚も迫る。


「あまいぃぃ~あまいぃぃ~!

えれべ~たぁなくてもぉ~やつらおえるぅ~っ!!

だからおまえじゃまぁ~!そこをどけぇ~~!!」

その形状を平たくしたり丸めたり、伸びたり縮んだりしながら狂った様に叫んでいる。

それを見てニコライは察した。

アメーバの如く身体の形状を自由に変化させられるという事は、エレベーターに乗らずとも身体を伸ばして上に這いずり上がる事も出来るのだと。

つまりは今、己の背後にある扉だけは絶対に開かせる訳にはいかないという事だ、、、


「ナラバ、みせてヤロウ、、、おくのテ・ってやつヲっ!!」

叫んだニコライの身体が、各関節部から蒸気を噴き出す。

すると一瞬の間を置いて、先端に鉄杭のついた無数のワイヤーがそこから飛び出した。

しかもそれらは異形の者を目掛けた訳では無く、床や壁、更には天井へと見境無しに突き刺さる。

ワイヤーで自らの身体をその場に固定する事で、異形の者の行く手を阻んだのだ。

マシンナーズであるニコライの事は、ミミックにも取り込む事は出来ない。

異形の者からすれば、まさに打つ手無しである。

巣を張った蜘蛛の様な姿で不敵に笑うニコライ。

だが、それが異形の者の怒りに火を注いだ。


「めぇんどくさぁ~いっ!

おまえめんどくさいぃぃぃ~~っ!!

もういい、、、

もうあいつらおうのやめる、、、

でもおまえはころすぅ~~~っ!!!」


ズリズリ、、、

ズリズリ、、、


進行方向を変えた異形の者が、先程ヒトラーの落とした銃を目指す。

8本の腕と、40本の指を不規則に動かしながら、、、

しかし、異形の者は忘れている様子だが、ニコライは覚えている。

あの銃にもう弾は残っていない。

そして奴がそれに気付いた時、次に狙うのは、、、

そう考えたニコライが、持っていたハンドガンとライフルを異形の者目掛けて全弾撃ち尽くした。

これでこの場にはもう、弾の入った銃は無い事になる。

無数の銃弾を浴びた異形の者は悲鳴をあげる間すら無く、再び肉片をその場に撒き散らした。

だがこの程度の損傷ならば、ものの数分で再生してしまうだろう。

それでもメギド発動迄の時間を考えると、十分な時間稼ぎにはなる。


安堵の息をつくニコライの眼前で、異形の者の欠片達がビクビクとその身を震わせている。

そして少しずつ少しずつ互いの身を寄せ合ってゆく、、、

だがその時、既にニコライは異変を感じ取っていた。

室温が上昇し始めているのだ。

そして時計に目をやると、いつの間にかジョン・スミスに指示をした時間となっていた。


ついにメギドは発動した、、、

照射まで残り5分。


(フフフ、、、あと5フンか、、、

もうすぐ・ヤカれる・ト・イウのに・ふしぎ・ト・キョウフ・は・ナイ、、、

むしろ・たっせいカン・二・みたさレテ・いる、、、

カエデ、、、かぞく・ノ・いない・オレには・おマエ・が・むすめ・デあり・イモウト・であり・トキには・ハハ・や・あね・ですら・アッタ、、、おかげ・デ・ずいぶん・ニンゲン・らしさ・ヲ・とりもどセタ・ように・オモウ、、、かんしゃ・シテイル・ぞ)



この時、無事に飛び立ったヘリの中で、何かに反応した様に楓が顔を跳ね上げた。

「どした楓ちゃん?」


「え、いや、、、今、ニコライの声が聴こえた様な気がして、、、」


「兄弟の、、、そっか、、、何て言ってた?」


俯いて今にも泣き出しそうな楓が、震える声でそっと答える。

「ありがとう、、、って、、、」


「だったら、、、今、兄弟は本当にそう言ったんだろうさ」


「うん、、、」


2人が島の方を振り返ると、館の周囲の一部分だけが天からの光に照らされ、一段と白く輝いて見えた。

ダニエルが絞り出す様に言う。


「海面が、、、上昇し始めています、、、

衝撃に備えて、、、下さい、、、」


「ニコライ、、、ニコライ、、、」


項垂れた楓の肩を有働が抱く。

「顔を上げるんだ。楓ちゃんは兄弟にとって娘にも等しい存在だ、、、我が子が泣いてたんじゃ親は安心して眠れねぇ、、、だろ?」


頷いた楓が、ゴシゴシと目元を擦ってから顔を上げた。

「もう大丈夫っ!もう泣かないっ!ニコライの為にも、、、笑って前を向く」


「ああ。それが兄弟の一番望んだ事だろうさ。それと、、、コレ」

そう言うと有働は、内ポケットから皺の寄った封筒を差し出した。


「何、、、これ?」


「君の母親、、、雅さんが君に書き残した手紙だ。兄弟から君に渡すように託されていた、、、帰ってから読んでくれ。

せっかく泣き止んだのに、また泣きかねないだろ?」


受け取ると楓は、それを抱き締める様にして胸へ押し当てた。

「帰ったら、母さんの事ちゃんと聞かせてね、、、」


「勿論だ。兄弟から聞かされた事、、、

どれだけ強く、どれだけ素敵な女性だったのか、、、全て話すよ」

楓もそれ以上は何も言わず、無垢な子供の様にコクリと頷いた。


「クッ、、、気流が乱れて安定しないっ!

衝撃来ますっ!!」

ダニエルが必死に操縦レバーを握りながら、声だけを後ろに投げる。


「このまま出来るだけ低空で飛んでくれっ!

ここまで来て死ねねぇからよ、頼んだぜダンッ!」


「今の僕に操れないのは動力の無い乗り物だけですよっ!ロシアの時と同じ轍は踏まない、、、任せて下さいっ!」


その直後、周囲が白く包まれ、凄まじい衝撃が後方から機体を襲った。

上部にあるプロペラの辺りまで海面の波が打ち付ける。

前につんのめった機体バランスを必死で保つダニエル。その甲斐あってどうにか安定を取り戻した。


メギドは照射された、、、

爆撃とは違い、音も無く島が焼かれていく。

静かに、、、静かに、、、消失していく。

だが、、、有働も楓も前を向き、二度と後ろを振り返る事は無かった。




照射とほぼ同時に再生を果たした異形の者。


「あぁ~つぅいぃぃ~っ!!

やぁけぇるぅ~っ!!

あぁ~つぅいぃぃ~っ!!

とぉけぇるぅ~っ!たすけてぇ~っ!!」

身体の表面がボコボコと沸騰した様に泡立っている。

やがてその泡の一つ一つが弾け、蒸気と化してゆく。

身を捻りのたうち回る異形の者に対し、ニコライは驚く程に穏やかであった。

機械化された部分から火花が散り、全身から煙が立ち昇る。

それでも顔には満足気な笑みすら浮かべていた。


(オレも・いまカラ・ソッチ・へ・ゆく、、、

ホメて・くれるよな・ミヤビ?

みやげバナシ・が・ヤマほど・アル、、、

うまい・サケ・ヲ・ようい・して・マッテいて・クレ、、、)


次の瞬間、閃光とも呼べる白に包まれ、周囲は灰燼と帰した、、、




ー・ー・とある山村にて・ー・ー


「と、まぁこれがざっと100年前の話じゃよ」

語り終えた老人が隣の子供へと微笑みかける。


「へぇ~っ!凄いねっ!!やっぱり長老の話はサッカーなんかより面白いやっ!!」

興奮冷めやらぬ様子で鼻息を荒げた子供は、そのまま老人へと質問をぶつけた。


「でもさぁ、そのミミックって生き物はその後どうなったの?」


「フム、、、レジスタンスが水面下で薬を開発しておったんじゃよ。

この世から消滅して久しい天然痘、それに伴い不要となったはずの天然痘ワクチンがミミック細胞を滅する事が判明してな、、、それを改良してミミックワクチンが作られたんじゃ。

最後は呆気ない物だったそうじゃ、、、

伝染病のワクチン接種という名目で、全人類がそれを打つ事を義務づけられてのぅ、人間社会に紛れておったミミックは皆これにやられた、、、僅か2ヶ月でこの地上から姿を消したそうじゃよ」


「え、、、じゃあ悪い事してなくてもミミックってだけで皆んな殺されちゃったの、、、?」


「おそらくのぅ、、、」


「え~、、、そんなの酷いや、、、中には人間と友達になれるミミックも居たはずなのに、、、」


「結局のところ、一番残酷で一番醜いのは人間なんだろうよ、、、

同じ人間同士さえ生まれや人種、思想の違いごときで差別し殺し合う。

まして別種の生物が相手ならば、尚更残酷になれるのが人間という生き物じゃ、、、

お前さんはそんな大人にならん事を願っとるよ」


「僕は大丈夫だよっ!だって皆んなと仲良くなりたいし、友達も沢山欲しいもんっ!!」


「そうかそうか、ほんにウーゴは賢しいのぅ」


その時、ウーゴを呼ぶ女性の声が響く。

気付けばいつしか空は赤く染まっており、どうやら夕食の報せに母親が迎えに来たらしい。


「ウーゴったら、また長老にお話をせがんでたのね?まったくもう!あんまり長老に迷惑かけちゃ駄目よっ!!」


「いやいや、なんのなんの!こんな老いぼれには、話を聞いて貰えるだけで楽しいし、若返る気分じゃよ」


「本当にすいませんねぇ、、、うちの子ったら勉強はからきしの癖に好奇心だけは旺盛で」


「それは大事な事じゃよ。ウーゴは賢しい子じゃ、きっと将来は立派な人物になるじゃろうて。ワシもそれを楽しみにしておるでな、まだまだ長生きせにゃならん」


「うふふ、だと良いんですけど、まだ子供過ぎて先の事は分かりませんわ。

ホラッ!ウーゴッ!!ちゃんと長老にお礼言いなさいっ!」


母親にグイと頭を押され、ウーゴが腰まで頭を下げた。

「長老ありがとねっ!本当に楽しかったよ♪

また僕の知らないお話聞かせてねっ!!」


「おぅおぅ、わかったからもう帰って夕飯をお食べ。また今度のぅ♪」

そう言って手をグッパーと開閉した長老に、ウーゴも全く同じ仕草を返す。

母親だけが恐縮した様子で、しきりに頭を下げていた。


畑に挟まれた一本道、母と子が手を繋いで歩く。

「ねぇママッ!僕、しょっちゅう長老とお話してるのに、長老の事をあまり知らないんだ、、、訊いても自分の事は教えてくれないしさ、、、僕、長老の名前も知らないんだよ?

ママは長老の事どれ位知ってるの?」


これに母親が人差し指を顎に当て、頭上の虚空に目を泳がせた。

「そうねぇ、、、長老はママが子供の頃から居るんだけど、ママもあまりよく知らないなぁ、、、あ!でも名前は昔聞いた事があったわよ」


「え?本当にっ!?教えて教えて♪」


顎に当てていた指を今度は米噛みに当てて、母親が固く目を閉じる。

「え~っと、、、何だったかなぁ、、、確か昔の偉い人と同じ名前だったんだけど、、、」


「、、、え?」


「あ、そうそうっ!思い出したわ♪

長老の名前はねぇレオナルド、、、」





ウーゴ親子を見送った長老は、藁山に凭れてキセルをふかし、笑みを携えながら独り言を呟いた。

「ウーゴは賢しいのぅ、、、ほんに将来が楽しみじゃて、、、」

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