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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
175/177

最初で最後の、、、

「20プンゴ、、、20ぷんご・二・はつどう・シテクレ、、、」

それだけをジョン・スミスに伝え、ニコライは一方的に通信を切った。

そしてジリジリと後退り、JJとヒトラーから十分な距離を取ると、エレベーター前から他の皆へと声を飛ばす。


「ミンナッ!こっちへ・キテくれっ!!」

ニコライが大声を張るのは珍しく、ただ事では無いと感じた皆は何も訊かずそれに従った。


それを見たJJが小バカにした様に言う。

「オヤオヤ、、、どこへ行こうというのかね?私を倒すなどと大口を叩いておきながら、まさか尻尾を巻いて逃げ出すつもりではあるまいな?

まぁ引き留めはせんよ。地上に出たところで、到着した援軍に捕まるのがオチだからね。

さぁどうするね?」


この時、ニコライが小さく口角を上げた。

そして、、、

「こうするノサっ!」

そう言うと、腰に提げていたミルズ型手榴弾をJJ達に向けて投げつける。


「なっ、、、!?」

予想外の事に、棒立ちのまま投げ込まれた物体を見つめる事しか出来ないJJとヒトラー。

そして数秒後、その小さなパイナップルは、2人の至近距離でその身を爆ぜさせた。


轟音と爆風が室内を支配する。

手榴弾の中では比較的殺傷範囲の狭いミルズ型とは言え、その範囲は半径10m。

その熱風と衝撃は、ギリギリの位置に居たニコライ達をも容赦無く襲った。


やがてそれを凌いだニコライ達が立ち上がる。

そして部屋の奥へと目を向けると、そこには肉片と化したJJとヒトラーの(むくろ)が散乱していた。

いや、、、

これを躯と呼んで良いかは判らない、、、

なぜならその肉片達は、その身を震わせながら、少しずつ少しずつ再生を目指して互いを手繰り寄せようとしているのだから、、、

だが銃で撃たれたのとはダメージの度合いが違う。再生するにはそれなりの時間を必要とするだろう。


「フゥ~、突然だったから驚いたぜ、、、」

額の汗を拭いながら有働が言うと、他の皆も埃を払いながら、各々に驚きの言葉を口にしていた。どうやら怪我人は出ずに済んだらしい。

そんな皆へとニコライが言う。


「ミンナ・だいじ・ナ・ハナシ・が・ある」


「大事な話?どした兄弟、改まって、、、」


「イマから・20プンゴ・ある・ほうほう・二・ヨリ・このあたり・ハ・ヤキつくされる、、、ヤツラ・が・さいせい・スルまえ・二・おまえら・ハ・しま・ヲ・デルんだ!」


「ちょ、、、な、何言ってんのよニコライ、、、お前等はって、、、島を出るんなら当然貴方も一緒に来るんでしょ?」

狼狽えを見せた楓へと、ニコライは首を横に振った。


「オレ・は・いけナイ、、、いけナイんだ、、、カエデ」


「そ、そんな、、、なんでっ!?」


楓を宥めるべくその肩へと手を置いたヤコブが、そのままニコライへと問い掛ける。

「島が焼かれる、、、その事はジョン・スミスからも聞かされたが、説明を受けている暇が無かった。アンタの口から聞かせてはくれないか?」


「ソンナ・じかん・ハ・ナイ、、、おまえら・ハ・ここ・ヲ・デタ・あと・べっかんオクジョウ・二・あった・ヘリで、、、」

そんなニコライの言葉を途中で楓が遮った。


「行かない、、、何も話してくれないなら私も行かないっ!」


「カエデ、、、」

子供に駄々を捏ねられる親の様なニコライ。

困り顔のままで皆を見渡すと、やはり楓と同じ空気を醸し出している。

話さぬ事にはテコでも動きそうにない、、、

深い息と共に

「ワカッタ、、、」

そう漏らしたニコライは、諦めた様子で説明を始めた。


「たいようこうシュウソクシステム(メギド)、、、それが・ココ・ヲ・やきつくす・モノ・の・ナだ、、、

やく20プンゴ・メギド・は・カクジツ・二・はつどう・スル、、、

そうなると・コノ・やかた・ノ・2kmシホウ・は・かいじん二きす、、、ダカラ・そうなる・マエに・おまえタチ・は・ヘリで・できるダケ・トオク・へと・ニゲるんだ」


「待てよ!それじゃ説明になってないぜ兄弟、、、この一帯が焼き尽くされる、その事は理解した。だが俺達が知りてぇのは、なんで兄弟が一緒に行けねぇのかって事だ」


「そうよっ!そのシステムが奴等を焼いてくれるんでしょ?ならニコライがこの場に残る必要なんて無いじゃない!だから、ね?一緒に行こ?」


すがる様な楓から思わず目を逸らしたニコライ。

「サッキも・いったが、、、オレ・は・いけナイんだよ、、、かえで、、、

なぜなら・メギド・が・しょうしゃ・する・ターゲット・ハ・このオレ・じしん・ダカラ、、、な」


「なっ、、、!?」

その答えに皆が絶句する。

暫しの沈黙の(のち)、我に返った有働が、ようやく絞り出す様に言葉を発した。


「な、なんでそんなバカな事を、、、そんな事したって奴等はいずれ再生するんだぞっ!?

それじゃあ、、、それじゃあ兄弟は無駄死にじゃねぇかよ、、、」


これに微笑みさえ浮かべながら答えるニコライ。

「かもしれん、、、ダガ・さいぼうレベル・で・やかれた・ヤツラ・が・カンゼン・二・さいせい・する・ニハ・おそらく・すうカゲツ・は・かかるダロウ、、、

その・アイダ・に・いきノビタ・オマエたち・が・ヤツラ・に・たいこう・スル・さくヲ・ねりなおせ」


「なんだよそれ、、、なんだよ、、、チクショウ、、、」

有働の目にみるみる涙が溜まっていく。

しかし溢れ出す事だけは、辛うじて堪えていた。


「あ!端末っ!そのシステムを発動する為の端末があるんでしょ?だったら発動をキャンセルすれば、、、」

楓の提案にも笑顔で首を振ったニコライ。


「タンマツ・は、、、ジョン・スミス・二・たくした、、、

ソシテ・ヤツの・いばしょ・ハ・わからない、、、

20プンゴ・いや、、、もう15フンゴか、、、

ヤツは・かならず・ハツドウ・させる・イライ・された・しごと・ハ・カナラズ・たっせい・スル・プロ、、、それが・ジョン・スミス・だから、、、な」


「そんな、、、ねぇニコライ!私達、いつだって、、、どんな任務だって一緒に生きて帰ったじゃないっ!なのに、、、なのにこんな終り方って、、、酷いよ、、、」


「カエデ、、、オレは・イマまで・イキて・かえる・コト・ヲ・ゆうせん・してきた・ワケじゃナイ、、、

ただ、、、オマエ・ヲ・いきて・かえすコト、、、それだけ・ヲ・のぞんだ・けっか・イマまで・いきのびて・これた、、、ただ・ソレダケ・の・コト・ダ、、、

つまり・オレは・オマエ・に・いかされて・イタんだ・レイ・を・いう」


「そんな、、、そんなの、、、」

楓の目にも涙が溜まっていく。


「オマエ・ヲ・いかす、、、ソレ・は・おまえの・ホントウ・の・ははおや・トノ・やくそく・だから・ナ・それに・シテモ、、、

ねんねん・オマエ・は・ははおや・二・にてきてイル、、、」


「本当の母親って、、、何それ?、、、どういう事、、、?」


「ソレ・ヲ・はなして・イル・じかん・は・もうナイ、、、オマエ・の・ハハオヤ・みやび・ノ・コト・は・すべて・ウドウ・に・はなしてアル、、、ヤツ・から・きいてクレ」


「え?」

驚きの目を向けた楓に、有働は黙って頷く。

そしてニコライと目を合わせると、任せてくれとばかりに再び頷いた。


「サアッ!じかん・が・ナイッ!!もう・イケッ!!」


それでも動かずにいる皆の背を押しながら、先よりも力を込めもう一度叫ぶ

「イカんかっ!!!」


これに気圧された皆は、重い足取りでエレベーターに乗り込んだ。

そこへ、、、


「ウドウ サスガ、、、さいご・だから・イウが・オレは・だれより・モ・オマエ・ヲ・かっていた、、、かえで・ヲ・まかせる、、、ちゃんと・マモレよっ!!」


不意に浴びせられた言葉に、有働の目からせっかく堪えていた涙が溢れ出す。

「んだよ、、、こ、この場面でその台詞はズルいぜ、、、兄弟よ、、、」


閉まりゆくエレベーターの扉越しに、笑顔のニコライが見える。

そして閉まり切る直前、、、


「たのんダゾ、、、キョウダイ」


この日、ニコライは初めて有働を兄弟と呼んだ。

だが皮肉な事にそれは、最初で最後の「キョウダイ」でもあった、、、


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