スナイパーの約束
港で拝借したボートを操舵しながらタバコをくゆらせるジョン・スミス。
紫煙を潮風に流しながら、先程交わしたニコライとの約束を思い出していた。
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「アンタ・に・おれ・ノ・そげき・ヲ・タノミたい、、、」
「、、、どういう事さね?」
「ドウイウこと・も・ナニも・ない、、、アンタ・が・のぞんだ・トオリ・オレ・の・いのち・デ・ツケ・ヲ・はらおう・ト・いうだけ・ダ」
「ははぁん、、、アンタァ、、、仲間の為に命を散らすつもりだね?そんなのはお断りだぁよ!と、言いたいところだが、、、まぁいい、とりあえず話は聞こうじゃないか。請けるかどうかはそれからだぁよ」
これに笑顔で応えたニコライが、内ポケットからスマホ程の大きさをした何かを取り出した。
これまでに何度か「それは何だ?」と有働に訊かれ、その都度「オマモリ・だ」と答えて来たアレである。
「コレを、、、」
「なんさね、これは?」
「かつて・レイセンじだい、、、ロシア・ハ・つうしんえいせい・ヲ・ヨソオッて・あるASAT(軍事攻撃衛星)・ヲ・うちあげた、、、」
「ASAT?」
「タイヨウこう・しゅうそく・システム、、、シテイ・した・ざひょう・二・しゅうそく・シタ・タイヨウこう・ヲ・しょうしゃ・シテ・しゅんじ・に・ヤキつくす、、、
オレたち・ハ・それ・ヲ・(メギド)・と・よんでイタ、、、そして・イマ・ワタした・それ・ハ・メギド・を・あやつる・タンマツ・ダ」
「メギド、、、天の火矢って訳かい。まぁ言い得て妙だが、それならわざわざオイラァに頼まんでも、皆と逃げながら自分で押しゃあよかろうもん?」
耳をほじくった小指の先に息を吹きながら言うジョン・スミス。
だがニコライは首を横に振る。
「オレ・は・みな・ト・いっしょ・二・イケない・ワケ・が・アル、、、」
「訳って、、、アンタァ、まさか、、、?」
何かを察し、小指を立てたままで固まったジョン・スミス。そして察したその「何か」が当たっていた事を直ぐに思い知る。
「メギド・の・ターゲット、、、ソレ・は・オレ・ノ・からだ・二・セッテイ・している」
手を額にやりながら、ジョン・スミスの顔が呆れた物に変わった。
「なんでまたそんな、、、わざわざ自分の身を贄にせんでも、この場所を焼きゃあそれでええやないか?」
「みな・が・ニゲた・アト・かならず・ヤツら・モ・おうタメ・二・ヤカタ・ヲ・でるダロウ・それでは・イミ・が・ない、、、
カクジツ・に・ヤツら・ヲ・けす・タメ・にも・オレ・が・のこって・アシどめ・する、、、これナラバ・かりに・オレが・イキたえよう・と・メギド・は・オレ・の・シタイ・に・しょうしゃ・サレル・こと・二・なり・カクジツ・に・ヤツラ・もろとも・このバ・ヲ・やきツクス」
「だけんど奴等は不死身じゃろ?消したところで、そりゃ一時的なもんにしかならんだろうに」
「かもシレン、、、だが・ヤツラ・ハ・だめーじ・ノ・ドアイ・に・よって・カイフク・に・かかる・ジカン・モ・かわる、、、
さいぼう・まで・ヤキつくされた・ナラ・かなり・ノ・にっすう・ガ・カカル・はずだ」
「、、、、、」
「タンマツ・ヲ・そうさ・して・5フンご・二・メギド・は・はつどう・スル、、、
どうだ・ヤッテくれる・カ?」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
潮風を受けたタバコは、瞬く間にフィルター迄その身を焼いていた。
ジョン・スミスはそれを指で揉み消すと、海へと無造作に投げ棄てる。
やがてマデイラ島から十分な距離まで離れた海上にボートを停めると、新しいタバコに火を点けて苦い顔で呟いた。
「安請け合いだったかねぇ、、、」
「さてさて、、、あとは貴様等を始末するだけだな」
室田を取り込んだJJが、有働達に粘着質な視線を這わせる。
有働、ダニエル、ニコライが銃を手に身構えるが、それより先に楓がステルスを発動させ姿を消していた。
だがその直後、有働達は自らの異変に気付く、、、
「なんだ、、、これ?」
戸惑う面々を、JJの嘲笑が竜巻さながらに飲み込んだ。
「クックックッ、、、ハァッハッハッハッハッ!!驚いたかね?先の闘いで君達が教えてくれたのだよ、、、対ステルス兵の対処法をなっ!
塗料を浴びせ掛ける、、、原始的で稚拙ながらもなかなかに効果的ではないかっ!なぁ諸君っ!?ハッハッハッハッ!!」
JJの言う通り、天井のスプリンクラーから散布された塗料により、皆の身体が色とりどりに染まっていく、、、
そして姿を消したはずの楓も、みるみるその輪郭を露にしていった。
もはやハッキリと視認出来る楓に、ヒトラーが照準を定める。
「お嬢さん、先ずは君からだ。殺すには惜しい美しさだが、ヒムラーの件もあるのでね」
降り注ぐ塗料に気を取られ、反応が遅れてしまった有働、ダニエル、ニコライ、、、
ヒトラーへの攻撃も楓へのカバーも間に合わず、それを嘲笑う様に銃声が鳴り響く。
目を閉じ、身を固くした楓だが、、、
(アレ?、、、痛くない、、、)
恐る恐る目を開くと、足元に塗料を浴びて斑となった黒いコンバットスーツ姿の人物が踞っていた。
楓を庇って撃たれたらしく、スーツの左肩辺りが破損し血が流れている。
「グッ、、、うぅ、、、どうにか間に合った、、、みたいだな、、、」
呻きながら苦しげに言葉を発したその人物だが、直ぐに立ち上がると撃たれた傷は見る跡も無く消えていた。
「あまり無茶はしないでくれよ、、、楓」
聞き覚えある声に楓の肩が震える。
コンバットスーツのフルフェイスが開き、露となったその顔は間違いなく愛しき男のそれだった、、、
衝動的に抱きつきたくなるのを必死に抑えた楓が、震える声のまま口許でその名を転がす。
「ヤ、、コブ、、、」
そして同型のスーツを着た人物が2人、どこからか現れてヤコブの横で口を開く。
「久しぶりね」
「僕達も手伝わせて貰うよ」
その声へと即座に反応したのは有働だった。
「ま、まさか、、、その声は、、、」
驚きを隠せない有働へと、2人もフルフェイスを開いて顔を晒す。
「やっぱりアンタ等か!まさか来てくれるとはな、、、正直驚いたぜ。だが助かるっ!心から礼を言うぜ、、、ジョルジュ・サンド!そしてフレデリック・ショパン!!」




