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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
167/177

真実 2

「つまりゲームと銘打ったこの旅は、裏で密約の交わされた出来レースだった、、、そういう訳か?」


「いんや、それは違うぞぃ有働よ。お主らしくも無い、話は最後まで聞くもんじゃて」


「、、、聞かせて貰おうじゃねぇか」


「彼は研究に協力する代わりに条件を出したのじゃよ。数年後、同族を集めて決起し人類にとあるゲームを突き付ける。そこでワシを人類の代表に指名するから、見事辿り着いてみせろと、、、それが出来たならば自らの細胞を提供しようと、、、な」


「なんでまたそんな回りくどい事を、、、」


半ば呆れ口調の問い掛けに答えたのは、室田では無くダ・ヴィンチだった。

「我の当初の目的、、、

優秀な人間だけを選別し、我等卷族の糧とする事。そして我等主体の世界に作り変え、我がその指導者の座に就く事。

その時点でこれを実現するには、未だ数年を要した。だからその間、我が資金提供をし、ミスター室田には旅の準備を進めさせた、、、

我の最大の願いを叶えて貰う為にな」


「最大の願い、、、前に言っていた尊厳ある死ってやつだな?」


「そうだ。不死である事に疲れた我は、細胞を提供する代わりにこの呪われた肉体を滅する(すべ)を見つけてくれと頼んだ。

ただしそれは我等が世界を手中に収めた(のち)の事。そして世界の王を死に導く以上は、試練を乗り越えた選ばれし者でなくてはならん。そこで与えた試練が今回のゲームだったという訳だ」


「かあぁ~っ!ほ~んと回りくでぇっ!!

でも疑問も1つ解けたぜ。たかだか一研究者の爺さんが、どうやって民間軍事企業の株を買い占める事が出来たのか、、、そこにはアンタの資金提供があったからって訳だな?」


笑顔で頷くダ・ヴィンチの隣で、室田が愉快そうに口を開く。

「ヒャッヒャッヒャッ!当然じゃろぅ。

しがない老いぼれ研究者にそんな銭がある訳無かろうもん。

前以てゲームの内容を聞いとったワシは、この旅が危険な物になる事を知っておった。

そこで戦力を得る為に、援助金でスケアクロウの株を買い占めたんじゃよ。

お陰で優秀なガーディアンを見つける事が出来た。ニコライ、楓、礼を言うぞぃ♪」


名を呼ばれた2人がギリリと歯を鳴らす。

「私達に(血のサミット事件)より前から人類の危機を訴えていたのも、、、

TVで私達と一緒に(血のサミット)の中継を観たのも、、、

私達の前でDを名乗る男からの連絡を受けたのも、、、全てが打ち合わせ済みの芝居だったって事ね?」


「おれタチ・ハ・まんま・と・オドラされた、、、ッテ・ワケ・か、、、」


「ま、そういうこっちゃ♪」

愉悦満面で高笑う室田を、ダニエルが()めつける。


「お?なんじゃいダン、その目は?」


「そ、そんな事で多くの人間が、、、

スケアクロウの仲間達が死んで行った、、、

なのにアンタは何とも思わないのかっ!?」


「じぇ~んじぇんっ!!」

両手を拡げ、下唇を突き出しながら答える室田。それを見たダニエルは俯き、身を震わせている。


「ん?どうした?悔しいか?悔しいのかっ!?なら泣いて良いぞぃ!?泣けっ!ほら泣けっ!!」

室田の挑発に顔を上げたダニエルが、眉間に怒りの皺を刻んでハンドガンに手を掛ける。

しかし有働の手がそれを上から押さえ付けた。


「ど、どうしてっ!?」

ダニエルの問いに、無言で首を横に振る有働。

それを見たダニエルは、色濃い無念を滲ませながらも、そっとハンドガンから手を放した。

有働はそんなダニエルの肩をポンポンと2度叩くと、改めて室田へと向き直る。


「さてと爺さん、俺にはもう1つどうしても納得出来ねぇ事があるんだが、物のついでに教えちゃくんねぇか?」


「構わんぞぃ、言うてみぃ」


「新田と、奴に託した猿の事だよ」


これに室田とJJの眉がピクリと動いた。

ヒトラーも気まずそうに自分の頭を撫でている。

そんな中でDことダ・ヴィンチだけが、話が見えぬといった様子で室田とJJの間に視線を往復させていた。


「やっぱりな、、、ダ・ヴィンチ、アンタだけがその存在を知らされていなかったらしいな」


「フム、、、悔しいが賢しき者よ、ずっと君が言っていた通り、我の及び知らぬ所でJJの奴が動いていたらしい、、、実に興味深い事だ、さぁ続けてくれたまえ」


「あぁ、そうさせて貰う。

爺さん、アンタはダ・ヴィンチとの密約から数年後、研究の末に自らの手でミミック細胞を実質的には完成させていた、、、あの猿を実験体にな。なのにアンタはそれを処分する道を選んだ。

それも部下である一般人の新田を使ってな、、、それがどうしても解せないんだわ。

答えてくんねぇか?」


「ちょ、ちょっと待ってよ流石っち!

前にアンタ言ってたじゃない、内閣調査室に居た頃にミミック細胞の調査中止を上から命じられたって、、、あれはDの圧力だろうって。

更には各国のエージェントもアレの為に動いてた。

それに2人の間で打ち合わせがあったとは言え、初めてDがコンタクトして来たのも、ムロティーがミミック細胞ってキーワードを使ったからって(てい)なのよ?

だったらDが、ダ・ヴィンチがその存在を知らない訳無いじゃないっ!?」


異論を挟んだ楓に有働が言う。

「あぁ、ダ・ヴィンチもミミック細胞の存在その物は知っていたが、あくまで研究中の物であって、実質完成していた事は知らされて無かったんだろうよ。

そしてその情報にストップをかけていたのは、ダ・ヴィンチからゲームの進行を任され、その筋書きを掌握していた男、、、なぁそうなんだろ?JJ、、、いや、ジャン・ジャコモ・カプロッティさんよ?」


「クッ、、、」


「チッ、、、」


室田が口ごもり、JJが舌を打つ。

有働達はもとより、ダ・ヴィンチまでもが無言で問い詰める視線を2人に浴びせている。

だがそんな沈黙を、気の抜ける様な緊張感無き声が突然破った。


「なんやぁ、、、えらいややこしい事になってるみたいやなぁ~」


それは有働達の物では無い。勿論ミミック陣営の物でも無い。

この場にはそれだけしか居ないはずなのに、確かに流れて来た聞き慣れぬ声。

だが1人だけその声に聞き覚えのある者が居た。

(マ、マサか・この・コエ・はっ!?)


皆が一斉に声の方向へと振り返る。

エレベーター前の闇に同化していたソレは、明るい場所へ近付くと共に足元から徐々にその姿を現してゆく、、、

そしてその全貌が晒された時そこに立っていたのは、黒いフード付きマントに身を包んだヒョロリと細長い人物だった。

その人物がニコライに向け、手をグッパーさせながら陽気に言う。


「やぁ~ニコちゃん!あん時のツケェ払って貰いたくてねぇ、オイラも来ただぁよ♪」


「ヤ、ヤハリ、、、あんた・ダッタ・かっ!!」

驚きを隠せないニコライの前に立つ者、、、

それは紛れもなくジョン・スミスその人であった。




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