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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
166/177

真実 1

「え?ちょ、何の冗談よムロティー、、、」


「冗談?ワシが冗談を言うタイプで無い事はお主も知っておろうよ楓?」

愉悦の表情を浮かべる室田を、動揺に包まれた面々が見つめる。

しかし只一人、強く刺す様な眼差しを向ける者が居た。


「ん?なんじゃいその目は?そう言えば旅の初期、お主だけは時折そんな目をワシに向けておったな、、、有働 流石よ」


「あぁ、、、一緒に旅する過程ですっかり信用しちまってたが、、、思い出したぜ。最初からアンタを疑ってた事を、、、な」


口角を歪め、室田が鼻で嗤う。

だが気にも留めず有働は続けた。


「この状況だ、俺達に逃げ延びる術は無えだろうさ。まさか死に逝く者達に真実も語らねぇなんて無慈悲な事ぁ言わねえよな?」


これを受けた室田がDの顔色を窺う。

Dは促す様に掌を差し出しそれに応えた。

それを見た室田が1つ咳を払い、ゆっくりとその口を開く。


「よかろう。ここまで運んで貰うた報酬代わりじゃ、、、話してやろうではないか。さて、どこから話すかいのぅ、、、」


「最初から全部だ」

喰い気味に求める有働。


すると室田は深く息を吐き、顎髭をしごきながら話し始めた。

「フム、、、あれは(血のサミット)が起こる数年前の事じゃ。まだ研究所長だったワシの前に1人の老人が現れた、、、」



ー・数年前、室田邸・ー

徹夜明けの室田を、けたたましい呼鈴の音が目覚めさせた。


「ん、、、んん~何んじゃい、、、朝早ぅから、、、」

愚痴を1つ溢して再び目を閉じる。

無視して二度寝をかまそうとする室田だったが、そうはさせじと呼鈴も急かす様に鳴り続ける。


「えぇ~いっ!わかったわいっ!ちぃ~と待っとれぃっ!!」

根負けした室田は諦めた様にベッドから這い出ると、その不機嫌そうな顔をドアの覗き穴に近付けた。


そこに立っていたのは高齢の老人男性だった。

どこかで見覚えがあるのだが、誰かは思い出せない。

一目で高級品と判る濃紺のスーツに身を包み、真っ白な長髪を後ろで束ねている。

そして深い皺を刻んだその顔は、穏やかながらどこか空恐ろしい物を感じさせた。

何よりも目を引いたのは、サンタクロース顔負けの見事な顎髭だったが、それも頭髪と同じく白に染まっている。

暫し覗き穴から様子を探った室田だが、結局得られた情報は自分より歳上であろう事と、外国人であるという事のみ。

不気味さと知性が共存するこの老人に何故か興味を惹かれた室田は、不思議な事に躊躇い無く扉を開いていた。


「どなたかな?」


「貴方の研究を完成に導く者、、、とだけ申しておきましょう」


この言葉に室田はあからさまな警戒を見せた。

現時点で研究の事を知る者は、所員以外では国の上層部か、その情報のリークをキャッチした他国のエージェントしか有り得ない。

無言で訝しむ室田の心中を察したのか、安心させるべくにこやかに老人が言う。


「他国の諜報員ではありませんので御安心を。私は貴方の味方、、、とりあえず話だけでも聞いて貰えませんかな?決して損はさせません故」

人間力というのだろうか、、、

この老人の持つ不思議な魅力がそうさせたのか、室田は直ぐにリビングへ迎え入れていた。


「で、先ずはアンタの事を知らん事には話を進められんでな、、、確かに見覚えはあるんじゃがどうにも思い出せん、、、何処かで会ったのか、それとも俳優か何かかぇ?」

室田が炒れたコーヒーを差し出しながら問う。


「御構い無く」

そう言った老人を湯気越しに見つめながら、室田が先にコーヒーへ口をつけた。


「では先ずは貴方の質問に答えましょうかな、、、私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。御存知かな?」


思わず口に含んだコーヒーを吹き出した室田、噎せ返り、赤くなった顔で訊き返す。

「ダ、、、ダ・ヴィンチじゃとっ!?」


「にわかに信じられぬのも無理は無い、、、

ですが紛れもない真実です。まぁ話が進む内に信じて頂けるかと、、、」


相変わらず穏やかな笑みを絶やさぬ老人を室田がじっと見つめる。

「ぬぅ、、、確かに言われてみれば教科書で見た肖像画に似ておるが、、、しかし、、、」


ここで言葉を切った室田、1度気持ちを落ち着かせようと再びコーヒーを口に含んだ。

そして老人に断りを入れタバコに火を点けると

「信じ切った訳では無いが、話を聞かん訳にはいかんのぅ」

そう告げてソファに凭れかかる。


「一先ずはありがとう。

先程貴方の言った通り、私は教科書にも載る過去の偉人として扱われている、、、だが実は数百年に渡り生き続けて来たのだよ」


「それがワシの研究する万能細胞と関係する訳じゃな?」


「流石は室田教授だ、話が早い。

そう、、、私は貴方が長年研究しているソレを数百年前に見つけてしまったのだ。まぁ偶然なのだがね」

そう言うとダ・ヴィンチは、ミミックと化した若き日の経緯を全て語った。

語り終えた時にはコーヒーもすっかり冷めており、ダ・ヴィンチは湯気の立たなくなったそれで喉を湿らせた。


「ぬぅ、、、まさかあの時代に完全な万能細胞を、、、にわかには信じられんが、万能人と謳われる天才のお主ならば或いは、、、」

すっかり話に魅入られた室田。

彼に存在を忘れられていたタバコは、その身の大半を灰皿の上で焼かれてしまっていた。

半分程になったコーヒーをテーブルに戻したダ・ヴィンチは


「私が不死である事、、、それを今から証明しよう」

そう言うと足元に置いた鞄を(おもむろ)に開き、取り出した拳銃をにこやかなまま自らの米噛みに当てた。


「お、おい、、ちょ、、バカッ、、、止めんか、、、」

狼狽える室田を嘲笑うかの様に、何の躊躇いも無く引き金を引いたダ・ヴィンチ。

サイレンサーが装着されていた為、銃声が響く事は無かったが、飛び散る肉片と血飛沫に銃声を上回る音量の悲鳴が響いた。


「ヒ、ヒィ~~ッ!!な、なんちゅう事を~~っ!!」

ソファから飛び上がり、倒れたダ・ヴィンチへと駆け寄る。

不死となった過去の話は聞いたが、何の確証も得ない中、目の前で人が頭を撃ち抜いたのだ。

動揺するなと言う方が無理である。


倒れていたダ・ヴィンチを抱き起こし、逸らしていた目を恐る恐るその頭部へと向ける、、、

すると銃弾の入った傷口も、肉が吹き飛んだ反対側の傷口も、室田の目前でみるみる修復されていくではないか。


「なっ!?、、、こ、これは、、、あの話は本当じゃったっちゅう事、、、か?」

驚きを隠せない室田の腕の中、傷が完全に塞がったダ・ヴィンチが不敵に嗤う。


「如何かな室田教授?これで信じて貰えただろうか?」


「目の前で起こった事とは言え、未だに信じられんよ、、、じゃが真実は真実として受け止めねばのぅ、、、」

そう言った室田は表情を真剣な物に改めると、重々しく次の言葉を発した。


「お主の話、詳しく聞かせて貰えんか?」






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