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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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決戦の地へ

ホテルごと吹き飛んでしまった装備品を補充する為、乗って来たスケアクロウの機体へと1度戻り今後のルートを確認する。


Dの待つマデイラ島はポルトガル領。

一般空路を使うならば、ワルシャワ空港からリスボン空港への直行便がある。

そしてリスボン空港からマデイラ島のフンシャル空港へ飛び、合計約5時間半から6時間で到着出来る。しかし1つ大きな問題があった。

かつては「大西洋の真珠」と謳われ、多くの観光客で賑わったマデイラ島だが、今やDの居住地となった為、観光客どころか島民の姿すら消えてしまっている。

完全オフリミットとなった彼の地へ、とても一般空路で降り立つ事など出来るとは思えなかった。

しかし、、、


「フム、考えとってもしゃあない。とりあえず今夜はここで休んで、明日の朝一番で空港へ行ってみようや」

結局は室田の決断によりそういう事となった。


スケアクロウの兵士達は機外にテントを張り、室田一行はエアバスA400Mの中、寝袋で休む。

とても激戦の疲労が取れるとは思えないが、翌日直ぐに動く事を考えると、今から別の場所を探すよりこれがベストと言えた。


赤い照明が照らす機内、皆の口数は少ない。

肉体は疲れているはずなのだが、神経の昂りからか皆なかなか寝付けずにいる。

そんな中、有働が楓をチラリと見やる。

腕の損傷は問題無く修理を終えたが、それよりも気になるのはヤコブが抜けた事による心のダメージだった。

そして何より「惚れた女」と明言してしまった事への不安と羞恥、、、

気付かれぬ様に顔は動かさず、窺う様な視線だけを楓へと固定する。


楓も未だ眠れぬらしく、動くようになった腕を枕代わりに後頭部で組み、微動だにせずじっと天井を睨んでいた。

恐らくはヤコブの事を考えているのだろう、、、憂いを帯びたその表情は、いつもよりも美しく感じられる。

だが有働には掛ける言葉など見つかるはずも無く、ただ息を殺してその横顔に見とれる事しか出来ない。気付かれぬように、、、

だが、、、


「何?言いたい事があるなら言えば?」

ぶっきらぼうだが、怒っているでも咎めるでも無い静かな口調で楓が言う。


「あ、、ハハ、、、参ったな、気付いてたんだ、、、」

バツが悪そうに身体の向きを変える。

そんな有働に楓は天井を睨んだままで


「私なら、、、大丈夫だから」

そう告げた。

そのたった一言に、私情になど流されたりしないというプロの矜持が秘められている。


「だよな、、、いや、要らねぇ気を回しちまったな、悪かった」


楓からの返事は無い。

無言の重圧に耐えられなくなった有働が、更に言葉を繋いだ。


「あ、あのよ、、、その、、、さっきの台詞は気にしないでいいから、、、よ」


「さっきの台詞?」


「いや、だから、その、、、なんだ、、、」


「何っ!!イライラするわねっ!!」

ハッキリしない有働へ苛立ちを隠さない楓。

これに奮起した有働が口を開こうとした時、室田の一声がそれを遮った。


「お主等、ええ加減寝んと明日に響くぞぃ」


「あ、、、チェッ、、、わあったよっ!」

言えなかったもどかしさと、聞かれていた恥ずかしさ。照れ隠しに拗ねた態度をとって見せたものの、その実いたたまれなくなって楓へ背を向けた有働。

だが、その背へ掛けられた楓の囁きに有働の心は救われた。


「流石っち、、、ありがとね」


この一言を最後に機内は静寂に包まれ、皆暫しの休息に就く。

もちろん有働も、楓の囁きを受けた背に暖かさを感じながら眠りに落ちていった、、、




明朝7時半、スケアクロウの車に送られワルシャワ空港へと着いた一行。

サービスカウンターへ行き、マデイラ島フンシャル空港が稼動しているかを確認する。


「あぁ楓、フンシャル空港は動いとるか訊いてくれんか」

室田に促され楓がポーランド語で問う。

すると受け付けた女性は

「少々お待ち下さいませ」

そう残し、奥に居る上司らしき男性の元へ向かった。

すると直ぐにその男性がやって来て


「失礼ですが、、、室田、、、室田大二郎様でしょうか?」

英語でそう問い掛けて来た。

少々面食らったが、今や室田は世界的有名人である。知られている事は当然とも言える。

この問い掛けに、英語は話せる室田が少し面倒臭そうに自ら答えた。


「いかにもワシが室田じゃが、あまり騒がんでくれ、、、要らぬトラブルを招きかねんでな」

淡路島やロシアでの前例がある。

居場所を知られれば、また一般人に狙われぬとも限らない。

だが男の返事は意外な物だった。


「これは失礼致しました。そういうつもりでは無かったのですが、、、皆様の事はD様より仰せつかっております。特別機を御用意させて頂きましたので、どうぞこちらへ」

慇懃に腰を折り、特別搭乗口の方へと手を向ける。

一瞬呆気に取られ、顔を見合わせた室田達だったが


「そういやぁ前にDが言っておったのぅ、、、ワシ等は世界中の空港を顔パスじゃと。すっかり忘れとったわぃ」

思い出した室田の言葉で納得したらしく、各々が荷物を手に男の指し示す特別搭乗口へと向かう。


プライベート機らしき小型機に乗り込むと、乗り継ぎ無しで直通の為、4時間半でマデイラ島に到着した。

しかもフンシャル空港では無く、一般道を改造したらしきプライベート滑走路。

直ぐ目の前には、城とも要塞とも思える巨大な館が建っている。

そして機外に出ると、マシンナーズ・バタリオンのメンバーらしき者達が10人ほど出迎えに立っていた。


「長旅、御苦労様です。お疲れのところを早速で申し訳無いのですが、館にて我等が主、D様がお待ちです。ご案内致します、さぁさこちらへ」

そう言ってリーダーらしき男が先導する。


室田達は覚悟を確かめる様に互いの顔を見合わせると、無言のまま1つ頷きゆっくりとその足を踏み出した。


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