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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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忘れ物

「一緒に行けないって、、、どういう、、、事?」

最初に反応したのは、やはり楓であった。

問い詰めるという口調では無い。

まるで初めて異国の言葉を聞いたみたいに、理解しようと戸惑っているといった感じにも見える。

対するヤコブは、皆の目を見るのが怖いといった風に背を向けたままで黙っていた。

2人の関係性に気付いている室田、有働、ニコライは、今、口を挟む時では無いとわきまえヤコブの言葉を待っている。

詳しくは知らぬダニエルも、場の空気を察して修理に専念する事を選んでいた。


重い沈黙ほど長く感じるもの、、、

やがて皆がそれに耐えられなくなった頃、ようやくヤコブがソロリと言葉を転がしたが、やはり皆へ背を向けたままだった。


「私は、、、私は既に完全体のミミック、、、もうあの時とは違うんだ。人類を救う、人類の代表であるムロティーの旅に同行してはいけない存在なんだよ、、、」


「そんなの関係無いっ!!」

「ちょ、ちょっと楓さん、動かないでっ!」

思わずヤコブの方へ向かおうとした楓をダニエルが嗜めた。

動けない苛立ちともどかしさを舌打ちで発散し、再びヤコブへと言葉を投げる楓。


「それを言うなら、、、それを言うなら私だって人間じゃないもん!ニコライだってダンだって人間じゃないよっ!?

、、、前にね、Dに言われた事があるの。

君達マシンナーズは人よりもミミックに近しき存在だっ、、、て。

その時は一緒にするなって突っぱねたけど、心の中ではずっと(しこり)として残ってた。

でもね、旅を続ける中で解ったの。

肉体がどうであろうと、結局は心の在り方なんだって。

心さえ人間のままならば胸を張って良いんだって。

貴方は今も変わらず人類の未来を願ってる、、、でしょ?だったら何も問題なんて無いよっ!!」


「、、、ありがとう。その言葉だけでも私にとっては力となる。だがそれでも一緒に行く事は出来ない、、、出来ないんだよ楓。ただ勘違いしないでくれ、行動は共にせずとも目的や願いは同じだ、、、また必ず会う事になるさ」

答えたヤコブは相変わらず背を向けたまま、、、


「ねぇヤコブ、、、あの時の事、ノートルダム寺院での事、、、覚えてる?」

不意の問い掛けにヤコブの身体が一瞬震えた。


「、、、、」


「答えてっ!!」


「ハハハ、、、真に受けてたとは参ったな、、、あれは、あんなのは(ごっこ)、、、

そう(ごっこ)だったのさ、、、君も早く忘れる事だな、、、」

その答えに今度は楓が身体を震わせる。


勿論、言われた言葉をそのまま受け取る程に子供では無い。ヤコブの真意は理解しているつもりだがそれでも問わずにはいられなかった。

「ねぇ、、、今、貴方はどんな顔をしてるの?どんな顔で今の台詞を言ったの?」


今にも泣き出しそうな声で絞り出されたその問いに、ヤコブは答える事も振り返る事も無く立ち去ろうとする。


「これからどうすんだい大将?」

声を掛けたのは有働だった。

これに足を止めたヤコブ。


「さっきも言ったが、ミミックの私にしか出来ない事があるはず、、、それを模索しながらやっていくさ。とりあえずは先程話した、このアーマーを量産している可能性のある工場を破壊する。

じゃあな、、、皆も気をつけて行ってくれ」


「そうかい、、、解った、もう止めねぇよ。アンタも気をつけてな」


「、、、礼を言っておく」

有働なりの気遣いを感じ取ったのだろう、ヤコブはボソリと一言だけを伝え再び歩き出す。

が、後に続いた有働の言葉が又もヤコブの歩みを止めた。


「あ、そうそう!大将、忘れ物だぜっ!」


「え?」

思わず振り返ったヤコブ。

そこへ手渡された忘れ物、それは有働渾身の右ストレートだった。

振り返りざまの無防備な所へモロに喰らってしまったヤコブ。

派手に後方へ吹っ飛ぶと、上体だけ起こした体勢で己の顔に手を当てる。そして睨み付ける様にして有働を見上げた。

それを上回る鬼の形相で見下ろした有働が、右手をプラプラ振りながら叫ぶ。


「独りで抱え込みやがってバカヤローがっ!

大の男が決めた事だ止めやしねぇさ。だがな!この一発は皆の想いだ!

そして何より、、、同じ女に惚れた身としちゃあ、どうしても喰らわさずにいられなかった一撃だ!どうだ?効いたろうがっ!?」


するとそれまで睨んでいたヤコブの表情からフッと力が抜け、そのまま大の字に寝転んでしまった。そして

「あぁ、、、効いた、、、だが重ねて礼を言うよ」

晴れやかな笑顔でそう答える。

それを受けた有働は、拗ねた様な照れた様な何とも言えない表情でヤコブへと背を向けた。

だがその背へとヤコブは、他の者に聞こえない程の声量で尚も呟く。


「楓を守ってやってくれ、、、宜しく頼む」


「言われるまでもねぇ、、、任せろ」

ぶっきらぼうに答えた有働だが、顔だけで振り返ると最後は笑顔でこう告げた。


「また会おうや大将」

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