雨
結局はDやJJの提案を呑む形で通信を終えた有働。
つまりはDの待つマデイラ島でJJとヒトラーの連合軍を打ち破れば、このゲームも全ステージクリアとなる。
説明が無かった為、どういう内容の闘いとなるかは不明だが、Dの本拠地である以上は近衛兵のマシンナーズがわんさと待ち構えている事は容易に想像出来る。
更にはネオナチスの残党がヒトラーと行動を共にしている事からも、恐らくは今回と同じく単純な戦闘になるのであろう。
いや、、、今回と同じという表現は正しく無い。
敵の戦力は今回の比では無いはずである。
室田一行の戦力だけで挑むのは死を意味するにも等しいが、マデイラ島への上陸は室田達にしか許されていない以上、スケアクロウの面々とはここで別れざるを得ない。
「アンタ達には言葉で言い尽くせない程に感謝してる、、、本当にありがとうな。
散っていった者達の遺体や遺品、出来るだけ回収して一緒に連れて帰ってやってくれ」
有働は生き残った者達へ目を向けると、静かにそう伝えた。
「ちょ、、、ちょっと待って下さい!
まさかアンタ達だけで向かうつもりですかっ!?敵の本拠地なんでしょ?そんなの死にに行くようなもんだ!
それに俺達だって死んでいった奴等の弔いを果たしたい、、、一緒に連れて行って下さいよっ!!」
必死で喰い下がる兵士に、有働は首を横に振った。
「気持ちは解る、、、でも、、、悪いがそれは出来ねぇんだわ。このゲームで人類の代表に爺さんが選ばれた時、Dの奴は言っていた。
全てのステージをクリアした者以外が謁見を求めやって来たならば容赦はしない、、、と。
つまり俺達以外の者が島へと上陸した瞬間、奴は全人類を滅ぼしかねねぇんだよ」
「全人類をって、、、いくら何でも直ぐ直ぐそんな事が出来る訳、、、」
「忘れたのか?今や全世界中の核ミサイルは奴の手中にある事を。デモンストレーション代わりに北の某国を滅ぼした奴の事だ、、、何の躊躇いも無くやって見せるだろうさ」
その言葉に押し黙ってしまった兵士。
その肩を抱きながら有働が尚も続ける。
「アンタ達は本当によくやってくれた、十分過ぎる程にな、、、だがここからは俺達の闘いだ。どう転んでも人類の半分は滅びるというゲーム内容だが、俺達は最後まで諦めず全人類を救う手立てを探すつもりだ。
どうかアンタ達も成功を願っていてくれ、、、なっ!?」
きつく歯を食い縛り無念を滲ませていた兵士だが、顔を上げ強い眼差しを向けると
「御武運をっ!!」
そう叫んで頭を垂れた。
他の兵士達もそれに続く。
「御武運をっ!!」
照れた様に頭を掻いた有働は
「ありがとよ。さぁ!もういいからアンタ達は、さっきも言った様に出来るだけ多くのお仲間を連れて撤収してくれ。そして又いつか笑って会おうや」
そう言うと頭を下げたままの兵士達に背を向け、振り返りもせずダニエルと楓の方へと向かう。
「どんな具合だ?」
「幸い、駆動回路が焼き切れてるだけなんで、それさえ交換すれば問題ありませんね。直ぐに取り掛かります」
ダニエルの返事に安堵の表情を見せた有働。
そのまま楓へと視線を向けると
「そのぅ、、、怪我したばっかのところ言いにくいんだけどよ、、、次が最後の闘いだ、もう少しだけ力を貸してくれよな」
申し訳無さそうにそう伝える。
「何?改まって、、、そんなの当たり前でしょ。それにアンタに力を貸す訳じゃない。人類の代表はあくまでもDに選ばれたムロティーよ?私は人類を救う為に力を奮うの、そこんとこ勘違いしないでよね」
「ハハハ相変わらずツレないねぇ、、、でもまぁそんだけ気丈なら心配は要らねぇか!なんにせよ頼りにしてるぜっ!」
苦笑うと今度はニコライに目を向けた有働。
そこでは小さな箱形の物を見つめる彼の姿があった。
「それ、、、この戦闘が始まる前にも見てたよな?確か御守りだとか言ってたが、、、」
声を掛けられたニコライが慌ててそれをポケットにしまう。
「んだよ、、、別に取り上げたりしねぇよ。減るもんじゃあるまいし、見せてくれてもいいじゃねぇかよ、、、」
口を尖らせる有働に、意地悪な表情でニコライが答える。
「コレ・ハ・おまもり、、、おマエ・みたい・ナ・ヤツ・に・みらレルと・ごかご・ノ・コウリョク・が・さがる・ダロ?」
「あ~~っ!ひっでぇ!!兄弟分とは思えねぇ言い草だなオイッ!!」
「、、、ダレ・が・きょうだいブン・だ、、、」
「かぁ~!楓ちゃんといい、兄弟といい俺には冷たいねぇ、、、まぁいいや、ところで腕の事だけどよ、、、そのままの状態で行く事になるが本当に大丈夫か?」
「ナンド・も・いわセルなっ!!かたうで・ダロウが・じゅう・ハ・ウテる、、、いらヌ・せわ・ダッ!」
「そう言うだろうと思ったよ」
肩を竦めた有働が呆れた様に両手を拡げた。
「わかったよ、もう何も言わねぇ。ただし1つ約束だ、、、俺はアンタに望んでる事があってな、それを果たす迄は死なねぇって誓えっ!」
「オレ・に・ノゾム・こと?ナンダ・ソレ・は?」
「いつかアンタに兄弟って呼ばせる事さ」
そう答えると有働は踵を反し、肩越しにヒラヒラと手を振った。
(フンッ!クダらん、、、クダらないが、、、)
離れゆく背を見送るニコライの顔には、何故だか自然と笑みが浮かんでいた。
次に有働が向かったのは、少し離れた場所から心配そうに楓を見つめるヤコブの所だった。
隣には座り込んでタバコを吸っている室田も居る。
「そんなに気になるなら、傍に居てやったらどうなんだい?」
「いや、、、修理するダンの気が散ってもいかんしな。しかし驚いたよ、まさかあのダンがマシンナーズとなってパーティーに加わっていたとはな」
楓を見つめたままでヤコブが答えた。
「そうか、アイツが来たのは大将が拐われた後だもんな、、、アイツが現れた時は俺達だって驚いたさ。何よりあの墜落事故から生還してくれた事が奇跡だしな」
「確かにな。しかし、、、私が居ない間も色々大変だったみたいだな」
ここでようやく有働へと視線を向けたヤコブ。
「まぁな。でもアンタ程じゃ無いだろうさ」
それを受けたヤコブは自嘲気味に嗤ったが、言葉は何も返さなかった。
「まぁなんにせよアンタが戻ってくれた事は心強いよ。また宜しく頼まぁな大将っ!」
有働が陽気に肩を叩くが、対照的にヤコブの表情は曇っていった、、、
「ん、どした?」
問われたヤコブが重々しく口を開く
「その事なんだが、、、私は皆と一緒には行けない、、、」
その瞬間、天もヤコブの言葉に驚いたのか、突然の雨を皆へと浴びせ始めた、、、




