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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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達磨

「あのぅ、、、もう出てもええかいのぅ?」

鉄の扉越しに弱々しい声が届く。


「ん、もういいぜ」

ぶっきらぼうに答えた有働だが、油断無く視線だけはヒムラーから外していない。


耳障りな音を軋ませ、重々しく隙間を作った鉄の扉。そこからヒョイと顔だけを出し、辺りの様子を窺ってからようやく姿を現した室田。

「ふぃ~、、、寒いわ空気は不味いわで散々じゃったわぃ」


開口一番そう言うと、楓へ肩を貸す黒い男へと視線を移す。

「さっきから声は聴こえておったが、本当にお主じゃったかよヤコブ。色々と訊きたい事はあるが、、、先ずは無事で何よりじゃ」


「貴方こそお変わり無く、、、話さねばならない事があるのは承知しています、、、だがその前に、、、」

ヤコブはそこで言葉を切ると、床へ座り込んでいるヒムラーへと視線を落とした。


通路の奥側では万一に備え、銃を手にした有働とニコライが室田の横に立ち、通路入り口側にはダニエルを先頭に生き残ったスケアクロウ兵士達が銃口を向けている。

そして直ぐ目の前には楓とヤコブ。

そんな布陣に囲まれたヒムラーだが、両腕を失ったショックからか力無く座って達磨の様に動かぬまま。

鎮座する達磨を武装した者達が囲む、、、ある意味その光景は滑稽とすら言える。

そんな中で最初にヒムラーへ問い掛けたのは楓だった。


「アンタ、、、いったい何者なの?」

闘いの最中、ヒムラーがミミックでは無い事に気付いた楓。それだけに先ずはそれを訊かずにいられなかった。

皆が固唾を飲んで答えを待つが、ヒムラーは相変わらず床の一点を見つめたまま。

その沈黙に痺れを切らした楓が、語気を荒げて再び問う。

「答えてっ!!」


するとヒムラーは小刻みに肩を震わせたかと思うと、突然顔を上げ高らかに笑い声を響かせた。

皆の注視の中で一頻り笑うと


「いやぁ参った、、、まさか私が敗れる事になろうとはな。だが思い上がらぬ事だ、その男が現れねば君は今頃死んでいたのだから」

そう言って虫酸が走る様な歪んだ笑みを楓へと向けた。

これに楓が奥歯を軋ませる。

確かにヒムラーの言う通り、あのままサシの闘いが続いていたならば、、、それは自身も理解していた。

だがこれは街の喧嘩とは違う。

軍vs軍の「戦闘」なのだ。2対1だから卑怯などと言う次元の類いでは無い。


「話をそらさないで」

楓が強い眼差しで言うと、今や肩しか無い肩を竦めながらヒムラーが口を開いた。


「わかったわかった、、、形がどうであれ私に勝った褒美だ、答えてやろうでは無いか。お嬢さんの言う通りさ、私は君達がミミックと呼ぶ生命体などでは無く、、、ただのクローンだよ」


「クローンッ!?」

まるでどこぞの劇団が演じているかの様に、その場に居た全員が声を揃える。


「そう、クローンだよ。さほど驚く事ではあるまい?羊や牛などでは()うの昔から確立されている技術だ、、、尤も人道的観点から、(いま)だ人間への適用は禁じられているようだがね」


しかしこれに室田が異議を唱える。

「じゃが貴様はどう見ても(よわい)40は超えておろう?40年前と言えば、まだそこまでの技術は無かった様に思うが?

確かに受精卵クローンは1980年代に成功しておるが、ただ造れたと言うだけで、人間どころか家畜においても実用化には程遠い物じゃった。その後1998年になってようやくホノルル法によるクローン技術が開発されるが、これとて羊や牛での成功に過ぎん、、、まして短命が定めのクローン生物を40歳まで生かせるなど、当時の技術では有り得んはずじゃ、、、」


「フフフ、、、流石は科学者、よくご存知だ。だが1つ大事な事を忘れているようだな、、、我々の頂点に居るのが誰なのかを」

唇の端を(いびつ)に捲り上げたヒムラー。

これに室田がムゥと唸る。


「確かにのぅ、、、偶然とは言え、数百年前にミミック細胞を見つけておった奴の事じゃ、遥か昔にクローン技術を確立しておっても何ら不思議では無い、、、か。レオナルド・ダ・ヴィンチ、嫉妬するのも馬鹿らしくなる程の大天才じゃわい」


「そう、、、そして総統閣下がD様にお願いし、遺品に付着していた髪の毛から私を復活させて下さった、、、そういうカラクリだよ」

得意気に語るヒムラーへと、今度はヤコブが声を掛けた。


「なるほど、、、それでお前がマシンナーズ手術を受けられた事も納得出来た。ならば私からも訊かせて貰おう、、、何故、、、何故に私を(さら)ったっ!?」


沈痛な面持ちのヤコブをヒムラーが鼻で嗤う。

「なんだ、そんな事かね?簡単な事だよ。君はこの連中と旅に出た時、不完全体とは言え既にミミックだった、、、では逆に問おう、仮に狼の群れと共に暮らす人間の子供が居たならば、それを見つけた人間はどうするね?

保護し、人間社会への復帰を助けるはずだ。

(しゅ)(しゅ)と共に、、、君を健全な形に戻そうとした、ただそれだけの事だよ」


「そ、、、ん、、な、理、由、、、でっ!」

歯を食い縛り、身体を震わせるヤコブを、楓も辛い表情で見つめる。

しかし決して同情などでは無く、心から悲しみを共有しているのが判る。

楓はヤコブを抱き締めたい衝動に駈られたが、今は動かぬ両腕にもどかしさと苛立ちを覚えていた。


ここでヤコブとヒムラーの間に有働が移動し、ヤコブの肩を労う様に2度叩いた。

それは言葉にこそ出さないが

「気持ちは解る、だが今は堪えてくれ」

そう言っていた。

ヒムラーにはまだ訊きたい事がある、、、有働はヤコブが激情に委せ、ヒムラーに止めを刺してしまうのを防ぎたかったのだ。

察したヤコブも深呼吸で昂る己を抑え込むと、小さく頷く事でそれに応えて見せた。


改めてヒムラーに向き直った有働。

「次は俺から質問だ、、、JJの奴は何を企んでいる?」

この問い掛けで、一瞬ヒムラーの身体がピクンと跳ねた。その反応に手応えを感じた有働が更に続ける。


「俺にはミミックが一枚岩とはどうにも思えねぇんだわ。反D派閥ってのが居るんじゃねぇのか?そしてそれを束ねてるのがJJ、、、

ひょっとしてお前ん所の大将であるチョビヒゲ君も1枚噛んでんじゃないの?

そうなると気になるのはその理由って奴だ。

何故Dに、、、ダ・ヴィンチに反旗を翻す?そしてその目的は何だ?」


うつむいたまま数瞬の間を置き、やがて深く息を吐き出したヒムラー。

そして観念した様子で顔を上げると

「わかった、教えてやろう、、、だがその前に1つ頼みを聞いてはくれんか?」

驚く程に晴れやかな表情でそう言った。


「頼みだぁ?」

怪訝な目を向ける有働へと、更に清しい笑顔を向けたヒムラー。


「ああ、なぁ~に大した事では無いよ。答える前にタバコが吸いたいのだが、私の両腕は見ての通りでね、、、悪いが1本恵んでくれないだろうか?」


有働はどこか胡散臭い物を感じながらも、胸ポケットから取り出したタバコを1本、その口にくわえさせてやった、、、





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