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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
156/177

サディスト

間合いから離れた場所で放たれた左の拳。

それはガードする必要も、かわす必要も無い物、、、そのはずだった。


既に伸びきったヒムラーの左腕。

楓までの距離は、ゆうに50cm程もあろうか、、、

楓は当たるはずも無いそれを意識から外し、次に来るであろう右腕の攻撃に神経を集中させた。

だが、、、おかしい。

ヒムラーの右腕に動く気配が無い。

再び意識を左腕に戻そうとしたその時、ヒムラーの呟きが楓の耳をくすぐった。


「ククク、、、かかったな」


(!?)

視線を左腕に移し終えた時、それは拳では無く掌へと変化していた。

(ヤバいっ!)

本能がそう叫ぶ、、、得体の知れない恐怖が、蟲の様にチリチリと背筋を這い上がった。

咄嗟に後方へ跳び、更に間合いを離した楓。


だが次の瞬間、ヒムラーの指がそれを追う様にして伸びた。

あたかも魚を捕らえようと触手を伸ばすイソギンチャクの如く。

ワイヤーの様な異形の指は伸縮可能だったのだ。


「なっ、、、!?」

驚きの声を1つ漏らした楓、反射的にガードしようとするが間に合わない。

伸びた5本のそれは(つた)の様に絡まりつくと、みるみる内に上半身の自由を奪っていた。

太さ的には普通の指と変わり無く見えるが、強化された楓の筋力をもってしてもビクともしない、、、それは見た目以上の強度を誇るらしい。


「クッ!」


もがく楓を嘲笑うようにヒムラーが言う。

「無駄無駄無駄っ!!いくら並外れたパワーでも、外側からかかる幾重もの力を内側から返す事など出来んよ。ましてや私も人工筋肉の持ち主とあらば尚更だ、、、諦めたまえ」


「フフン、、、変態だとは薄々気付いてたけど、、、女を縛る趣味まであるとはね、、、立派な性癖だこと、、、」

こんな状況下でも楓の負けん気は顔を出してしまう。


「フフフッ減らず口を、、、勝ち気もそこまで行けば見事だよ。しかしこれならばどうかな?、、、フンヌッ!!」

気合の声と共に更なる力を込めたヒムラー。

絡みつく5匹の蛇がギシギシと音を軋ませるが、それは楓の呻き声と重なり掻き消されてゆく。


「ンアッ!、、、クッ、、、ガッ、、、」


その声に目を閉じたままウットリと聴き入るヒムラー、、、まるでクラシックの名曲でも鑑賞しているといった風情である。

「ン~~、、、やはり苦痛により発せられる声というのは最高の音楽だ。特に女性の物は格別と言えよう、、、ストラディバリウスの音色にもヒケを取らぬわ」


「チッ、、、このサディスト クソハゲ マルメガネ、、、」

楓も精一杯の悪態を試みるが、やはりどこか力無い。


「しかし君は口が悪いな、、、まぁサディストというのは間違っていないがね」

これに楓は

(ハゲと丸眼鏡も間違ってないだろっ!!)

と思っていたが、体力温存のため心の中で叫ぶに(とど)めておいた。


そんな事とは露知らず、ご機嫌な様子で口上を続けるヒムラー。

「私が大戦中、ゲシュタポを使い集めたユダヤ人に何をしたのか、、、知らぬ訳ではあるまい?あれも半分はサディストとしての欲求を満たす為、、、おっと失礼!無知な君は私の事を知らないのだったな」


「知りたくも無いけど、最低のクズ野郎だって事だけはハッキリ解ったよ」

これにヒムラーが深い溜め息をつく。


「、、、君の悪態にもそろそろ飽きてきたよ。君と室田氏を殺し、そのブレードを頂く事でフィナーレとしよう」

顔色の変わったヒムラーが据わった目付きで再び力を込める。


「ンア~~~ッ!!!」

今までに無い程の呻吟(しんぎん)で空気を震わせた楓。

ついに堪えきれず、その手から孫六ブレードを落としてしまった。


「おやおや?だらしない声を、、、だが参ってしまうには未だ早いよ、ここからが本番だ」

その言葉が終わるや否や、5本の指がバチバチと不快な音と共に青白い光を発した。

楓の身体を火花が包むが、あまりのダメージからかもはや悲鳴すらも上がらない。

ただ鯉の様に口をパクパクさせて、崩れる様に床へと座してしまった。

電流、、、あのワイヤーを編んだ様な異形の指は、この性能の為の物だったのだ。


やがて電流は止み、座り込んだ楓の身体からは白い煙がシューシューと立ち昇っている。

そして楓は遠退きそうになる意識を必死に保ちながらも、自らの致命的異変に気付いていた、、、


(う、腕の、、、感覚が、、、無い、、、)


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