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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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提案と秘密と豹変

人がすれ違うのもやっとの細い通路で対峙する2人。

通路の最奥部に居る楓と、階段を下りたばかりで未だ通路の入口に立つヒムラー、その距離は約50m。

身を隠す遮蔽物も一切無い場所での闘い、、、


肉体を銃器・重火器へと改造された、ヘビーガンナータイプのマシンナーズであるヒムラー、しかもその性能は未だ一端しか見せていない。

対する楓の武装と言えば、9mmハンドガンと孫六ブレードのみと心許無く、ステルスを活かしてこそ性能を発揮する楓にはハッキリ言うなら分が悪い。

だが楓は、そんな事など意に介さぬ様子でゆっくりと1歩を踏み出した。

1歩、、、また1歩、、、まるで無人の野を往くが如く。

その表情はヒムラーを睨んでいる様でもあり、まるで視点が合って無い様でもある。

だが1つだけ言えるのは、ただただ怖い、、、


しかしヒムラーとて負けてはいない。

そんな楓からの圧を、余裕すら感じさせる薄笑いで受け流していた。これがまた楓の神経を逆撫でる、、、

そして、ゆっくりと迫り来る楓を見つめながら、両手にはめていた黒革の手袋を外す。

するとそこに現れたのは異形の指であった。


肘部にランチャーの仕込まれている右腕、そこにある鋼の指は全て先端に穴が開いている。

それらの全てが銃口であろう事は、容易に想像が出来た。

だが、左手の5本は更なる異形と呼べる物だった。

ワイヤーを編んで造られた様な形状、、、

それが何を意味するのかは判らないが、えも言われぬ不気味さを醸し出している。


やがて2人の距離が30m程に縮まった頃、ヒムラーが右手の指を楓へと向けた。

口許には歪な笑みを浮かべたまま、、、

だがそれでも楓は、迷う事無く足を前へと出し続ける。

そしてついにヒムラーの指が火を吹いた。

親指から小指へと、順番に前後運動しながら次々に弾を吐き出す。

連続する発射音と立ち込める硝煙、狭い通路だけに直ぐ様煙が覆い尽くした。

だがそれが晴れた時、意外な銃弾の行方が明らかとなる。

それらは楓の身体はもとより、背後にある食料庫の扉にすら当たってはいない。

その代わり楓の足元、通路の床に無数の穴が穿たれていた。

これによりようやく足を止めた楓。

道に落ちた犬の糞でも見るかの様にその穴へ目をやり、これまた汚物を見る様な目をヒムラーへと向ける。


「なんのつもり?」


「そんな目で見ないでくれたまえよ、、、いやなに、1つ提案をしようかと思ってね」


「はぁっ!?提案っ!?この期に及んでっ!?」

苛立ちを隠しもせず、尖った声で問い返す楓。

思わずヒムラーが苦笑う


「まぁまぁ、そう言わずに聞いてくれ。こんなに狭く身を隠す場所も無い通路、、、銃器を使ってしまっては面白く無いとは思わんかね?」

この台詞で再び楓が目を剥いた。

嘗められてる、、、そう感じたのだ。

身体中に仕込まれているという数々の銃器、それらを封じて尚「勝てる」遠回しにそう言われたと受け取ったのだ。


「、、、ざけんな、、、」

ボソリと溢した楓の身体は、怒りから小刻みに震えていた。

それを見たヒムラーが慌てて手を振る。


「ちょ、、、いや、勘違いしないでくれっ!別に君を軽く見ての発言では無くてだな、、、」


「じゃあ何っ!?」

更なる苛立ちを見せる楓だが、それを宥めるつもりか少し間を置き、1つ咳を払ってからヒムラーが答える。


「楽しみたいのだよ、、、純粋にこの闘いを。それとも何かな?アサシンタイプのマシンナーズである君が、肉弾戦には自信が無いとでも?」

ヒムラーは言い終えると、口許に手を当て肩を大きく揺らした。


キレているはずの楓の顔からスウッと表情が消え失せる。

だが何も怒りが消えた訳では無い、、、

むしろ逆である。

これはキレ具合のギアが1段階上がった事を意味していた。

そんな楓が小刻みに頷きながらハンドガンを床に投げ捨てる。


「上等、、、フルボッコにしてやんよ」

そう呟くと再び足を前に運び始めた。

しかし先とは違い歩みが速い。

早歩きと小走りの中間程のスピードで距離を縮めて行く。

対するヒムラーは軽く腰を落としただけで、やはり余裕の笑みを浮かべたまま構えもせずにそれを迎えていた。


5m程まで近付いた時、今までとは比べ物にならない速度で楓が一気に間合いを詰めた。

しかもただ詰めただけでは無い。

大きく飛び込む様に踏み込みながら、孫六ブレードを握った右手で弧を描く様に下から斬り上げたのだ。

大きく仰け反ってヒムラーがそれをかわす。

が、切っ先が触れたらしく左頬に赤い筋が入っている。


「ほぅ、、、」

感嘆の声を洩らすヒムラーへ、楓の第2波が襲い掛かる。

かわされた右腕を下ろしながら、今度は上から左腕を大きく振り下ろした。

だが、、、ヒムラーはそれを翳した右腕1本で止めて見せる。


(なっ!?)

楓は戦慄していた、、、

人工筋肉で強化された自分の打撃、、、

軽自動車程度ならば一撃で粉砕するそれを、腕1本で容易く止める、、、いくらマシンナーズとは言え、まさかそんな者が居るとは、、、と。


「その動き、、、まさか劈卦拳を使うとは恐れ入ったよ。とうに形骸化した中国武術だが、君のパワーで使うならば必殺ともなろうな」

右腕で攻撃を防いだ体勢のまま、空いた左腕で楓の右手首を掴む。

途端にそこがミシミシと悲鳴をあげた。

危うく孫六ブレードを落としそうになるが、必死に堪えた楓。

「クッ!、、、」


歪む楓の顔に自らの顔を近付け

「驚いたかね?驚いただろうね?

君は考えたはずだ、、、重装備の私相手ならば、ご自慢のスピードとパワーで翻弄出来るだろうと。だが疑問には思わなかったのかな?

ここへ向かう時、何故私が先に到着出来たのかを、、、人工筋肉で強化された君達が、何故私に追い付けなかったのか、、、をね」

粘着質な物言いで告げる。


「ま、まさか、、、?」


「そ~さっ!そのまさかだよっ!!この私も人工筋肉で強化されているのさっ!!」

愉悦に満ちた高笑い、、、思わず楓が顔を背ける。


「ど~したねっ!?悔しいかっ!?悔しいのかっ!?ほらっ!顔を背けてないで、悔しさに満ちたその顔、私によく見せてみろっ!!」

先までの紳士然とした態度が嘘の様に豹変したヒムラー。

優位がこの男の狂気を表に出させたのだろうか、、、

しかし楓は小バカにした様に鼻で嗤う。


「勘違いしないでくれる?私が顔を背けたのは悔しいからじゃなく、、、テメェの息が臭過ぎるからだよっ!!」


そう気を吐くと、すかさず反撃に打って出た。


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