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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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更なる犠牲者

開戦から約2時間の経過したAM7:06

喧騒の無い人の消えた街では、鳥の囀りや風の音がいつも以上に耳に入る。

もっともそれを耳にする市民も街中には居ないのだが、、、


そんな中、今現在このアウシュヴィッツの街で唯一人の集まっているホテル・コロナ内も、外に劣らない静寂に包まれていた。

それは既に潜入しているであろう、姿の見えぬ敵に備える緊迫感からの静寂、、、

唾を飲む音、汗の伝う音すらも聞こえそうな程である。

その場に居る者全員が、微かな気配、僅かな物音すらも恋しいとばかりに神経を尖らせていた。

触れれば壊れてしまいそうな、ガラス細工の様な空気、、、

その押し潰されそうな緊張を破ったのは、スケアクロウ兵士であるマーチンの呻き声であった。


「フグッ!?」

突然背後から何者かに口を塞がれ、銃を持つ右腕の関節を極められたのである。

視認こそ出来ぬが、喉元には刃物が押し当てられているのが解る。

それを合図に他の3ヶ所でも同じ事が起こり、計4人の兵士が動きを封じられる事となっていた。

しかもフロア内、東西南北の方向でそれは起こっており、有働達が容易に動けぬ様に考えられている。


(くっ!、、、しまった!!)

異変に気付いた有働が銃を構え、他のメンバーもそれに続く、、、が、当然手を出す事は出来ぬまま。

そこへインビジブル隊員の声が響く。


「全員動くな、、、」

デパート屋上でニコライが体験したのと同じく、その声は反響して居所を掴ませない様になっている為、東西南北のどの位置から発っせられた物かは判らない。


無機質な声は更に続く。

「この闘いは全滅が勝利の条件、、、つまり諸君はどのみち死ぬ事となるのだが、その前に室田教授の居場所を教えて貰おうか」

その声が最初の声と同一人物かも判別出来ないが、初めに捕らえられたマーチンがそれに答えた。


「ケッ!ナメんなっ!だ~れが言うかよバカヤローッ!!」


「、、、そうか」

抑揚無き中にも、明らかな失望を含ませたその台詞。

その言葉が終わるや否や、マーチンの喉が噴水の如く赤い物を噴き上げる。

そしてそのまま、電池が切れたかの様に地に転がった。

折角捕らえた人質を何の躊躇いも無く殺害する、、、その事からも敵の本気が解る。

(皆殺しにしてから室田を探す)

(先に室田の居場所を知った上で皆殺しにする)

その2つの手段を比べた時、あくまで合理的な方法を先に試しただけなのだろう。

それが駄目だったならば、手間がかかろうとも皆殺しにしてから探すまで、、、

彼等の行為は暗にそう告げている。

その証拠に、他の3人も躊躇無く人質の喉を切り裂いていた。


「ウォ~ッ!!!」

肉塊と化し転がる仲間を見て、スケアクロウの兵達が狂った様な叫びをあげた。

そして今まで敵が居たであろう場所へと一斉に銃弾を放つ。

しかしそれは、壁に穴を穿つだけの虚しい結果しか生まなかった。


「クックックッ無駄な事を、、、いつまでも同じ場所に居る訳は無かろう。えぇっと、、、今4人殺したから残りは、、、一般兵6人と室田一行の3人、、、計9人か」


その時、小気味良い駆け足の音と共に楓とヤコブが姿を現した。

それを見たインビジブルの男が

「おっと、2人追加で計11人、、、室田を加えると12人か」

少々面倒臭そうに訂正する。

一方の楓とヤコブは、フロア内の光景を見るなり強烈な違和感を覚えていた。

この場に居るはずのあの男が居ない、、、


「おかしいぞ楓、、、」


「、、、そうね」

楓は1つ相槌を打ってから有働へ声を飛ばす。

「流石っち!ヒムラーはっ!?」


「!!」

その問い掛けで有働は瞬時に悟った。

先にこの場へ向かったはずのヒムラーが姿を見せていない、、、という事は答えは1つ。

ヒムラーは着くなりこの場には現れず、直接室田を探しに向かったのだ。


「楓ちゃん!ここはいい!爺さんが危ねぇっ!!奴を、、、ヒムラーを探してくれっ!!」

有働の叫びに危機感を覚えた2人は、返事もせぬままに踵を返した。


「大将っ!!」


「!?」

呼び止められ振り返ったヤコブに、有働が何かを投げて渡す。

それは今まで有働が装着していたインカムだった。


「そいつがあれば楓ちゃんと連絡が取れる。爺さんが見つかる前に2人で手分けしてヒムラーを探してくれっ!頼んだぜっ!!」


「わかった、まかせてくれ」

答えるとヤコブは、アーマーの隙間から強引にインカムを捩じ込み装着すると、再び背を向けて駆けて行く。

再会を喜ぶ言葉も交わせぬままそれを見送った有働だが、もちろん感傷に浸る暇などは無い。

直ぐ様ダニエルへと視線を移すと、何かの合図の様に小さく頷いて見せた。

ダニエルも同じく頷いて応えると、そっと自らの端末で何やら操作を始める。

その作業をほんの数秒で終えると、途端に耳をつんざくベルの音がけたたましく館内に響いた。


「!!?」

ステルス状態のまま、インビジブル隊員達が辺りを見回す。


その直後である。

彼等の姿が衆目に晒される事となったのは、、、

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