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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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エリート再び起つ

調査の中止命令、、、しかもそれは高井戸首相より直々の指示だった。

男は納得出来ず、上へと噛み付いた。

それは今回の事のみでは無く、少し前からの不満が積み重なっての事である。

そう、、、今思えば、少し前から何かがおかしかった。

自分を取り巻く人物や環境、それらが何処かおかしく感じられた。


何がどう変なのかと問われれば明確には答えられない。

背中が痒いが、何処が痒いのかはっきりしない、、、そんな不快感に似ていた。

そしてその異変を感じ出した頃から、何故か色々な任務に中止命令が下される事が増えていった。

そんな蓄積された不満がついに爆発したという訳だ。

そして男は辞表を提出した。


引き留められる事は無かったが、誓約書を書かされた。

これまでに知り得た事象の数々、それらの一切を口外しない事。

もしそれを破ったならば、、、

その先に記されていたのは、ほぼ脅迫と呼べる物であった。

こうして晴れて無職となった男だが、今は一応自称探偵となっている。

とはいえ広告を出している訳でも無いので、依頼などは全く無い。開店休業の状態である。

尤も本人も請ける気などは無いのだが、、、


そして今TVの中で起こった事を見て、男は起き上がった。

起き上がったのは身体だけでは無い。

男の内部でここ暫く燻っていた物までもが目覚めたのだった。

TVを観て男は確信に近い物を得ていた。

頭を撃ち抜きながらも嗤って起き上がる者達、、、そこには例の細胞が関係している事を。

そしてあの時、周囲に違和感を覚えたのも、高井戸首相が調査の中止を命じたのも、あの時点で既にDなる男の手が回っていたのなら納得がいく。


男はTVを消し部屋を見渡すと、大きく息を吐きポリポリと頭を掻いた。

みるみるフケの雪が舞う。

何やら決意したらしき表情を浮かべた男、その手にはゴミ袋が握られている。

ようやくゴミが片付き、掃除機をかけ終えた時には既に2時間が経っていた。


汗で貼り付いたタンクトップを不快そうに脱ぎ捨てると、男はシャワールームへと駆け込んだ。

丹念に頭を洗い、ボサボサの髭も全て剃った。

整髪料をたっぷり使い、ドライヤーを当てながら荒れ果てていた頭部に櫛を走らせる。

出来上がったのは60年代のロカビリー歌手顔負けのリーゼント。

納得のいく出来だったらしく、1つ口笛を吹いた後、指をパチンと鳴らしそのまま鏡の中の自分を指差した。


「イケてんじゃん♪」

自分に投げキッスとウインクを送り、クローゼットへと向かう。

扉を開くとそこは、変人らしい圧巻の光景だった。

黒地に細い白のストライプ柄、同じシャツが10枚ばかりハンガーで吊るされている。

更にその並びに吊るされている物が、この男の独特のセンスを物語っていた。

ヘビ革のスーツである。


こちらも5セット程のスペアが見えるが、決して安い物では無い。

銀座の有名テーラーに無理を言って作ってもらったオーダー品である。

男は件のシャツに袖を通し、白のネクタイを結ぶとヘビ革のスーツでその身を包んだ。


身映しで全身を確かめた男がまたも口笛を鳴らす。

どうやら満足した時に口笛を鳴らすのが癖らしい。

クローゼットから予備のシャツを5枚と、スーツを1セット取り出すと、近所の雑貨屋で購入した古い型のトランクへと詰め込んだ。


その他にもパスポートや下着類、ドライヤーやポマード等を放り込み、口を閉じるとキャリーへと固定する。

「これでよしっ、、、と」

そう呟き床へと座り込むと、マルボロ・メンソールへと火を点けた。

(下手すりゃ見納めかもな、、、)

そんな事を想いながら部屋を見渡す。

暫く寛いだ後、タバコを携帯灰皿へと放り込み立ち上がった。

キャリーをガラガラと引き摺り、玄関で立ち止まると1度室内の方へと振り返った。


「世話になったな。帰って来るつもりではいるけどよ、もし帰れなかったら勘弁な、、、

取り敢えず行ってくるぜベイベッ♪」

勿論部屋には誰も居ない。

部屋そのものへと話し掛けたのだ。

ドアを開き微笑みを残すと、男はそっとドアを閉じた。

鍵を閉める音がフロアに冷たく響く。


下向きの三角形を押し、エレベーターの到着を待ちながら男が呟いた。

「まずは神戸だな。取り敢えず室田教授に会わんとな、、、」

エリートながら変人と呼ばれ、独特のセンスを持つこの男、、、


名は有働(うどう)流石(さすが)

32歳、、、勿論独身である。

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