変わろうとも変わらない
「オイッ!テメェ等っ!!誰が手ぇ止めろっつったっ!?弾幕張らなきゃ俺が動けねぇだろぅがよっ!!」
前に出ていたマシンナーズのリーダー格らしき男が、前方へはガトリング、後方へはクレームを放つ。
が、しかし返事は無い、、、
「??」
不審に思い振り返った時、男の視界に入ったのは無惨に転がる4人の仲間達、、、その屍であった。
「な、、、オイッ!何だ!?何があった!?」
左後方の路地に駆け込み、倒れていた仲間を揺り起こす。が、当然返事は無い。
いや、厳密に言えば言葉は返って来た、、、
ただそれは倒れた仲間の声では無かったというだけで、、、
「残念だけど、もう残ってんのはアンタ1人よ。マシンナーズ・バタリオンの精鋭さん」
声はすれども姿は見えず。
男は声の主を探して、小虫に集られた様に顔を左右に振り始めた。
(チッ、、、リストにあったステルス女だな、、、こんな時に赤外線ゴーグルを忘れるとは、俺とした事がしくったぜ、、、)
心の中で悔やみながらも、男は躊躇い無くガトリングを捨てた。
そして深く息を吐きながら両手首を交互に捻ると、前腕に内蔵されていた巨大な刃物が、前腕部外側全面をカバーする様な形で現れた。
言うならば刃物で出来たトンファーの様である。
更にその状態で右手にはハンドガンを握る。
どうやら仲間の死体に残った刃物傷を見て、ガトリングは不利と判断し近距離戦用の態勢を整えたようだ。
1度は歯噛みして冷たい汗を流した男だが、未だ冷静さも持ち合わせていたらしい。
「さあ、いいぜ姉ちゃん!どっからでも来なっ!!」
自信があるのか、自らを奮い起たせる為か、、、男が必要以上に大声を張る。が、、、
「ざぁんねん!遅いよ♪」
既に背後を取っていた楓が、生身を晒す男の喉へと孫六ブレードを突き立てると、ヒューヒューと空気を漏らす音を数回発し呆気なく男は息絶えた。
「やっと静かになった、、、アンタ声がデカイんだもん」
その台詞と共に、ステルスを解除した楓が姿を現す。
300m程先で、唖然としながらその様子を見ていたスケアクロウの面々。
楓がそちらへ向かい始めた時、ニコライを送り届けたヤコブが現れ横へと並んだ。
「思ったより早かったわね」
「ハハハ、、、ベッドの上では聞きたく無い台詞だな。それより君こそ仕事が早いな、まさか終わってるとは思わなかった」
前を向いたまま、歩を進めながら言葉を交わす。
「流石っちに色々訊かれなかった?」
「そうなると面倒なんで、ホテル前まで送って中には入ってない」
「賢明ね」
「だろ?」
どこか距離感のあるよそよそしい空気が漂う中、ふいに楓が足を止めた。
気付いたヤコブもそれに倣う。
「ん?どうした?」
「ヤコブ、、、今は何も訊かない。だからこれが終わったら約束通り全てを話してね」
「、、、、」
「ねっ!?」
「ああ、約束する」
「ん、ならそれでいい。よしっ!早いとこスケアクロウの連中を連れてホテルへ戻りましょ♪」
先に歩き始めた楓の背を見ながら、ヤコブの顔には自然と笑みが溢れていた。
(フフフ、君は相変わらずだな、、、)
しかしその表情は、山の天気の如く直ぐに様相を変えてしまう。
(それに比べて、私は変わってしまった、、、)
足を止めたまま俯くヤコブ。
そこへ戻って来た楓が思い切り背中を叩いた。
ヤコブが思わず咳込み踞る。
「なぁ~んて顔してんのよ!辛気臭いったらありゃしないっ!!それとも何?私との再会が嬉しく無いとでもっ!?」
腕を組み腰を折った楓が、覗きこむ様にして問い詰めた。
その意地悪ながらも茶目っ気のある態度を見て、一気に力みが取れたのを感じたヤコブ。
「ほんと、、、君は変わらないな」
「え?」
「相変わらずの馬鹿力だ。アーマーを着込んだ意味が無い程な♪」
「あっ!ひっど~いっ!!」
一瞬膨れて見せた楓だが、直ぐに踞ったままのヤコブへと笑顔で手を差し向けた。
それをヤコブも笑顔で握り返す。
ようやく距離感が戻り始めた2人。
そして立ち上がったヤコブへと、楓が小さく呟いた。
「たとえ貴方がどう変わっていたとしても、、、私は何も変わらないから、、、」
「楓、、、」
「さっ!行きましょ!!」
努めて明るく振る舞う楓に促され、再び歩き始めた2人。
そしてスケアクロウの居る場所まで残り100m程に迫った時、何かが風を切る音が背後から聞こえて来た。
「!?」
「!?」
振り返った2人の頭上をミサイルが通り過ぎる。
「なっ!?」
「クッ!駄目だ、間に合わないっ!!」
絶望感に包まれた2人の眼前でそれは爆ぜた。
爆音と共に巻き上がる炎と煙、、、
そこは今までスケアクロウ隊の居た場所、恐らくもう生存者は、、、
愕然とすると同時に、虚しい無力感が2人を襲っていた。
そこへ嘲る様な高笑いが響く。
睨む様にして振り返った2人の目に映った物、、、
それは折り曲げた肘から黒煙を吐き、下卑た笑みを浮かべたヒムラーの姿であった。




