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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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乗る者、乗せる者

その名を呟いた途端に、過去の光景と様々な感情が溢れ出る、、、

しかし続ける言葉だけが出て来ない。


「オマエ、、、どうシテ、、、?」

何も言えず立ち尽くす楓に代わり、見かねたニコライが声を掛けた。


ヤコブは何も答えぬままに近づくと、楓に凭れかかるニコライの腰に手を回す。

そして驚いた事に、そのままニコライの巨体をヒョイと肩へ担ぎ上げてしまった。


「ナッ!?、、、おマエ、、、?」


「ヤ、ヤコブ、、、あなた?」


異口同音に驚きを口にした2人。

無理もない。ニコライの体重は350kg、それを苦もなく片手で軽々と担ぎ上げたのだから。

そしてヤコブが、愕然とする2人にようやく言葉を発する。

「詳しい話は後だ、、、時間が無い」


「時間が?どういう事?」


「どうやらマシンナーズとスケアクロウの戦闘が始まったようだ。さっき有働とスケアクロウの通信を傍受させて貰ったが、通信は爆音と共に途絶えてしまった、、、普通の一個小隊レベルでは奴等相手に30分ともたない、しかし応援に回す余裕も無いという。

だから君が行くんだ、、、楓っ!」


「私が、、、」


「そうだ。今、戦力として動けるのは君しか居ない。敵が現状のまま無傷であのラインを越えたならもう勝ち目は無いぞ、、、

ムロティーを何処に匿っているかは知らんが、インビジブルとマシンナーズに同時に攻め込まれたら、もう手の打ちようが無い。

ニコライを君達のベースに送り届け次第、私もそちらに合流する。だから君は一足先に向かってくれっ!」


ここで黒人に担がれるラジカセの様なニコライが疑問を挟み込んだ。

「ナラバ・なぜ・オマえ・が・サキ・に・そこ・へ・ムカわな・カッタ?」


肩の「荷物」へとヤコブが答える。

「楓がアンタをベースに送り届けてから戦闘に加わるのと、このまま現地へ向かわせてアンタは私が運ぶのを比較した時、単純にこちらの方が早いと判断したからさ。

一刻も早く、私と楓の2人が戦闘に加勢出来る方法がこれだった、、、ただそれだけだ」


「オマえ・が・カエデ・より・はやク・オレ・ヲ・はこべる、、、と?」


「このスーツはかつてロッキード・マーティンが開発したパワードスーツ、KーSRDを更に改良した物でな、、、気を悪くしないで欲しいんだが、パワーもスピードも楓の数倍は出力可能な性能を誇る。楓が肩を貸して移動するのと、私が担ぎ走って移動するの、、、どちらが早くて安全かは一目瞭然だろ?」


「、、、、」


「、、、、」


押し黙った2人にヤコブが更に続ける。

「さあ、お喋りはここまでだ。訊きたい事は山程あるだろうが、この闘いを終えたら必ず全てを話す。だから今は生きて闘いを終える事を考えよう。行ってくれ楓、私も直ぐに行くっ!」


楓は何も言わずにバックパックを開くと、中に押し込んでいたニコライの左前腕を取り出した。

そして擦れ違いざまにヤコブへ手渡すと


「待ってるから」


その一言だけを囁き、振り向かぬままイヤリング型のスイッチに触れた。

瞬時に周囲の景色と一体化した楓。

ステルス状態となった、見えもしない楓の姿を見送ると


「アンタ等のベースは何処だ?」

そう問うヤコブ。


「、、、ホテル・ころな」


ニコライの答えに頷くと、そのまま一気に駆け出した。

数分前に自分が開いた扉を再び開き、ニコライを担いでいる事など意にも介さぬ様子で階段を駆け降りて行く。

そしてその最中、何故かヤコブが笑顔を溢した。


「なにガ・オカしい?」

気づいたニコライが不思議そうに尋ねる。


「いやなに、、、前に神戸のホテルから脱出した時の事を思い出してな、、、あの時はアンタに乗せて貰ったが、まさか逆の立場になるとは夢にも思わなかった。それが可笑しくてな」


「フフフ、、、タシかに・ナ、、、」

つられて笑うニコライ。

そして、今の会話でこのヤコブが本物である事も確信し、何処かに残っていた猜疑心は綺麗に消え去っていた。


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