黒き兵士
有働はダニエルの座る通信機前へと歩みを進めた。
スケアクロウ各部隊への連絡は、インカムでは無く別回線のこちらで行われている。
そして思い詰めた表情でインカムを外すと、ダニエルの前に置かれた四角いマイクに手を伸ばした。
「こちら有働、、、聞こえるか?」
耳障りな雑音に紛れて返って来た声は、通信兵では無く隊を率いるマッキンリーの物だった。
「クリアとは言えませんが、ちゃんと聞こえてます。何か動きでもありましたか?」
「マッキンリー、、、そちら方面にマシンナーズ6人が向かっていると報告を受けた。
間も無くそこは戦場となる、、、だが、、、」
泥沼を歩く様な重い口調。
しかしそれを遮ったマッキンリーの口調は、意図してであろうが明るい物だった。
「おっと!まさかその続きは、生き残る事を優先しろなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「マッキンリー、、、お前、、、」
「ここは俺達の職場で、これは俺達が任された仕事なんだ。男なら任された仕事は命懸けでやり遂げる、、、でしょう?」
「、、、だな」
やっとの想いで絞り出したのはその2文字だった。
気の利いた励ましの1つも出てこない自分に反吐が出る、、、
すると立ち尽くしたまま何も言えない有働を見かね、近くに居たスケアクロウの兵士がその手から通信マイクを引ったくった。
「中佐っ!直ぐに応援に向かいます!だから、、、」
「ならんっ!!!」
「し、しかし中佐、、、」
「ならんと言ったらならんっ!有働さんにも言ったが、ここは俺が任されたんだ。
人の職場に土足で踏み入る様な真似はするなっ!その代わり、お前はお前の職場に命を懸けてくれ、、、
俺達が奴等を止められなければ、お前達が最後の砦なんだ、死力を尽くして室田会長をお護りしろっ!、、、頼んだぞ」
「、、、、」
黙る兵士にマッキンリーが続ける。
「死ぬなと言ってやれぬ事、、、許せ」
この言葉に兵士の身体が小刻みに震えた。
だが強い眼差しで顔を上げると
「ご武運をっ!!」
腹の底からそう叫んだ。
それは覚悟を決めた魂その物が叫んだかの様であった。
「フッ、、、お前達にも神の御加護を」
そう答えたマッキンリーの後ろから、通信機越しに兵士の声が響く。
「敵、目視確認!距離、約300っ!!」
そしてその声を最後にして、爆音と共に通信は切れた、、、
その頃、負傷したニコライの元へと楓が到着していた。
「ニコライっ!」
「、、、スマン・な、、、」
壁に凭れたニコライが、左腕の損失部を押さえたまま力無く答えた。
「何言ってんのよっ!で、左腕はどこっ!?」
無言のニコライに代わり、スコープの動く音がそれに答える。
楓はそれを拾いバックパックへ無造作に突っ込むと、直ぐ様ニコライに肩を貸した。
「さぁ、つかまって」
「スマない、、、」
「何度も謝んないのっ!」
巨体のニコライだが、人工筋肉で強化された楓は苦もなく支えている。
そして階下へと繋がる階段の扉を目前にした時、ふいにその扉が開かれた。
現れたのは全身を黒いアーマーに包んだ兵士。
頭部から足先まで金属の外骨格に覆われている為、性別も年齢もわからない。
(敵っ!?)
楓が反射的に孫六ブレードを抜き身構えた。
「ま、マテ、、、あのトキ・てき・ノ・メンバー・ニ・こんな・ヤツ・ハ・イナかった、、、」
ニコライの言葉で、開戦前にヒトラーから端末に送られて来た映像を思い出す楓。
「確かに、、、ね」
そう呟くと、構えは解かぬまま怪訝な目を向け黒き兵士に問う。
「アンタ、、、誰?」
問われた黒き兵士は刺激せぬ様にか、静か過ぎる動きで頭部アーマーの耳元にあるスイッチに触れた。
すると頭部アーマーの前面ハッチが、尖った金属音と共に開く、、、
その晒された顔を見た楓とニコライは一瞬言葉を失った。
しかし直ぐに楓だけが、その者の名を転がす様に呟いていた。
「ヤ、ヤコブ、、、」




