表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
144/177

穴熊

開戦から約1時間半が経過した午前6時37分のホテルコロナ。

申し訳程度に築かれた机や椅子のバリケードが囲む「本部」において、有働が現状報告を受ける為に通信を入れていた。

周囲にはダニエルと10人程の兵士達も見えるが、そこに室田の姿は無い。


「兄弟、そっちの状況はどうだい?」


「くやシイが、、、オマエ・ノ・いったトオリ・の・ケツマツ・だった、、、」


「そうかいそうかい♪なら、奴とは闘わずに済んだって事だな?で、その奴さんはどうした?」


「ヤツ・は、、、この・タタカイ・じたい・ヲ・オリて・さってイッタ、、、」


ここで有働が異変に気付く。

それはほんの僅かな物だった。

しかしいつものニコライとは何かが違う、、、

微妙な呼吸の乱れ、、、

語気の弱々しさ、、、


「おい兄弟、、、あんた怪我してるだろ?」


「、、、、」


「なぁ兄弟よ、、、こういう時の沈黙は肯定の証なんだぜ、、、正直に言いな!」


渋々ながらも屋上での出来事を話し始めたニコライだが、左腕を失くした事は話さないまま、、、そして最後をこう締め括った。


「タイした・キズ・では・ナイ、、、かすりキズ・ダ、、、」


「兄弟っ!!!」


インカム越しでも身を震わせる程の恫喝がニコライの鼓膜を貫いた。

それでも押し黙ったままのニコライに、今度は怖い程の優しい声で語り掛けた有働。


「気持ちは解るさ、、、だがな、あんたの嘘が仲間を危険に曝す事だってあり得るんだ。それ位の事、あんた程の兵士なら知らない訳じゃあるまいよ?

大丈夫だ。あんたの抜けた穴を埋める方法くらい、いくらでも俺が考えるさ。

だから、な?信じて正直に話してくれ、、、」


「、、、、」


「、、、、」

答えるのを躊躇う者とそれを待つ者。

2人を長い沈黙が包む。やがて、、、


「ヒダリ・うで・ヲ・うしナッタ、、、」

それだけをようやく絞り出したニコライ。


有働が直ぐさま楓へと話を振る。

「聞いてたか楓ちゃん!?直ぐに兄弟の回収に向かってくれっ!」


「えぇ聞いてたわ。わかった、直ぐに現場に向かう、、、けど、その前にこれ迄の事を報告しとくわ、、、アンタの仕掛けたトラップで、2部隊に分かれてたマシンナーズの連中は計6人しか残ってないわ。

今は合流してその6人で東に移動中、、、このままだとマッキンリーの部隊とぶつかる事に、、、」


「そうか、、、で、インビジブルの連中は?」


「それが、、、ゴースト部隊って通称は伊達じゃ無いわね。行動の形跡が全く見当たらないの、、、悔しいけど、ステルス兵としては向こうが数枚上手(うわて)らしいわね。

でも奴等がそこを探し当てるのは時間の問題だと思うわ、、、十分に気をつけてね」


「わかった、楓ちゃんも気をつけてな、、、兄弟の事よろしく頼む」

そう言って通信を切った有働は、現状を頭の中で整理し始めた。


(敵は元々15人、、、マシンナーズが10人とインビジブルが5人。そのうち、俺のトラップとジョン・スミスが去った事でマシンナーズは6人にまで減った、、、兄弟の話だとインビジブル隊員も1人減ったらしいから、そっちの残りは4人、、、つまり計10人て事か。

欲を言えばトラップでもう少し減らしたかったが、交戦無しに5人減らせたのは上々と取るべきか、、、だが、、、)

有働の顔がみるみる曇り始める。


今回の闘い、有働は迎撃戦を選んだ。

理由は2つ。

1つは室田を極力危険に曝さない為。

もう1つは真正面からぶつかるには戦力差が大き過ぎる為である。

そこで有働は、40人居るスケアクロウの兵士達を10人ずつの4チームに分け、その内の3チームをホテルコロナに繋がるメインの道へと配置した。脇道はトラップを仕掛けてフォローしている。

そして残りの1チームは、ホテルコロナ内に最終防衛線として残していた。


将棋に「穴熊」という戦法がある。

王を盤面の左下隅に置き、その周囲を歩・金・銀・桂馬・香車で固める鉄壁の防御力を誇る戦法、、、

有働はそれを今回用いたのだ。

王将である室田をホテル地下の食料庫に匿い、周囲を「金将」有働、「銀将」ダニエル、そして「歩」であり「桂馬」であり「香車」である40人の兵士達で囲む。


勿論、相手が全兵力を保ったままで攻めて来たならば勝ち目は薄いが、その為に仕掛けたのがあのトラップだ。

そしてそれが上手く仕事をしてくれたお陰で、少しなりとも相手の戦力を削ぐ事が出来た。

だが、、、問題はここからである。

この後「飛車」「角」とも言えるニコライと楓が戦線を一時離脱してしまう。

先の通信では問題無い様に振る舞ったが、これが痛手である事は間違い無い。


残酷な言い方にはなるが、、、

戦場において負傷者が出るというのは、ある意味死者が出るよりも厄介である。

死者はその場に置いて行けるが、負傷者はそういう訳には行かない。

更には救助や手当て、移動の補助などで人手も必要となり、戦力のマイナスという点では死者が1人出るよりも、負傷者が1人出る方が大きいのだ。


当初の予定ではトラップを抜けて来た敵を、楓とニコライが連携して倒すなり、別のトラップに追い込むなりする予定だったが、それはもう出来なくなった。

勿論、相手が残りのトラップに掛かる事もあり得るが、警戒されている以上はあまり期待出来ないだろう、、、

そうなるとホテル周辺を固めているスケアクロウの兵士達、彼等の頑張りに頼る事になる。

楓の報告によれば、このまま行くとマッキンリー中佐の率いる部隊と戦闘になりそうだと言う。

仮にそうなったとしても、現状では他の部隊を応援には回せない。

インビジブル隊の襲撃に備えなければならないからである。


マシンナーズ兵士6人を人間の兵士10人だけで迎え撃つ事となり、はっきり言うならば分が悪い。

確かに数名は倒せるだろう、、、

しかしそれは死力を尽くし、全滅必至の上での事、、、

有働とてそれは承知していた。

4つに分けた部隊の内、1チームは犠牲になるかも知れない、、、と。


(ハズレくじはマッキンリーが引いちまったか、、、)

増援してやれぬ事を詫びる想いと、なんとか生き延びて欲しいという儚い願いが交錯する。


しかし有働は未だ知らない。

ヒトラーの命により動いたヒムラーの存在を、、、


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ