補充兵
ジョン・スミスが屋上を去った頃、壊滅状態に近かったアルファ隊とベータ隊の残党がようやく合流を終えていた。
「本部応答されたし!こちらアルファ隊のナイマン軍曹!本部応答されたし!!」
「こちら本部、、、状況を報告せよ、、、」
冷たさすら感じる抑揚無きその声に、ナイマンは現状を正直に話して良いものかと一瞬躊躇った。
しかし彼もプロである。
見栄から出た1つの嘘が、戦況を一気に崩壊させる危険性を孕む事くらいは知っていた。
「その、、、言いにくいんですが、、、」
そう前置きし、苦虫を噛む想いで現状を正直に伝える。
「、、、そうか。天下のマシンナーズ・バタリオンも堕ちた物だ、、、たかだかトラップ如きで壊滅状態とはな」
「、、、、」
落胆よりも慢侮の込められた冷淡な物言いに、ナイマンは返す言葉の1つも見つからない。
「まぁ良い、、、残ったのは6人と言ったな?ならばその6人で行動し、街中で敵兵を排除しながら連絡を待て。今、インビジブル隊がターゲットである室田の居所を探している、見つける迄そう時間はかかるまい。発見の連絡があり次第、貴様等もそちらへ向かえ。
これだけは言っておく、、、くれぐれも総統を失望させる事の無いように、、、な」
「りょ、了解しました、、、」
冷たい汗を流しながら通信を切ったナイマン。
それに対し本部の男は、苛立ちを帯びた溜息と共に通信を切っていた。
「使えん奴等よ、、、拍子抜けしたわ、、、」
ごちる男の背後、数段高い所に座した男が笑いながら声を掛ける。
「まぁそう言うなヒムラー。奴等が使えんというより、敵が思いの外にやりおるという事であろうよ。こうでなくてはな、あまりに一方的ではつまらんではないか、、、」
「総統がそう仰るならば、、、で、この先いかがいたしますか?」
「フム、、、外部から雇ったあの者、確かジョン・スミスと言ったか、、、奴はどうしておる?」
この問いでヒムラーの顔に皺が寄る、、、
「それが、、、通信を切っているらしく、ずっと呼び出しに応じませんで、、、」
ほとほと困った様子で答えたその時、ヒムラーの元に新たな通信が入る。
そしてその回線は、今話していた張本人ジョン・スミスからの物だった。
「こちら本部だ!ジョン・スミスか!?今どこで何をしているっ!?」
先の冷淡な物言いとは打って変わり、烈火の如き勢いで通信に応じたヒムラー。
だがジョン・スミスは動じる事も無く、相変わらず飄々とした調子で言葉を繋ぐ。
「あぁ、わりぃけどオイラァこの戦闘降りっからさ♪受け取ってた前金は明日中にそっちへ返金しとくから良しなに、、、ほんじゃまぁ、そういう事で♪」
それだけを伝えると、通信を一方的に切ったジョン・スミス。
「な、、、っ!?勝手な事を、、、おいっ!ジョン・スミス!!応答せんかジョン・スミス!!」
必死の呼び掛けも虚しく、2度と通信が繋がる事は無かった。
「えぇ~いっ!!」
通信機を床に投げつけ、顔を真っ赤にしたヒムラーが机をバンバンと叩いている。
それとは対照的にヒトラーは、重厚な椅子で頬杖をつきながら微笑すら携えていた。
「クックックッ、、、面白き男よなジョン・スミス」
この言葉にヒムラーは
(ちっとも面白くないわっ!)
と思ったが、口には出さずにヒトラーをチラリと見やるに留めた。
しかし心の声は、露骨にその表情へと表れている。
それに気付いたヒトラーは、バツが悪そうに1つ咳を払うと
「まぁ、、、そのぅ、、、なんだ、、、奴の処遇は後々考えるとして、とにかく奴が抜けた事でこちらには欠員が出来たという訳だ、、、やはり補充をせねばな」
取り繕う様に真顔でそう言った。
「しかしながら総統閣下。こちらはメンバーを公開した上でこの15人で闘うと事前通告しております、、、お言葉ですがルール違反になるのでは、、、と」
根が真面目なヒムラーらしく、申し訳無さげでありながらも咎める様な目で律儀な事を返すが
「なぁに、戦死者や負傷者を補充する訳では無いのだ。何も問題は無かろうよ」
そう答えたヒトラーはまるで意に介していない様子だ。
ヒムラーはどこか諦めた感じの小さな溜息を1つ吐くと
「、、、では補充兵は誰を送りますか?」
その溜息と一体化している様な小声で指示を仰いだ。
これに一瞬ニヤリと笑みを浮かべたヒトラーは直ぐに真顔で椅子から立ち上がると、音の鳴る勢いで踵を打ち合わせながら右手を高々と掲げ上げた。
「我が腹心にして盟友、ハインリヒ・ルイトポルト・ヒムラーに命ずっ!!戦地へと赴き、敵対する者共を殲滅して見せよっ!!」
同調したヒムラーも同じくナチス式敬礼を返すと、静かながら強き意志を感じさせる蒼き焔の様な一言を吐き出した。
「御意のままに、、、」




