瞬殺
「さて、前座は終わりだやね。いよいよメインイベンターであるオイラの出番てな訳だ」
「、、、ホント・二・だいジョウブ・なのカ?イッたい・ドウやって、、、」
疑う様な心配する様な、、、微妙な視線を向けるニコライに、ジョン・スミスが緊張の欠片も無い様子で答える。
「い~から、い~から、心配しなさんなって♪お前さんは隅っこに行って、体育座りで休んでな!」
「ナゼに・たいイク・ずわリ・なのダ?」
「ん?お前さんは敗けたんじゃろ?ならば少なからず落ち込んどろうよ?昔から落ち込んだ奴は隅っこで体育座りってのが定番だがね」
さも当然の事を言ってますが何か?といった風情のジョン・スミスに、ニコライは反論の意思を根こそぎ刈り取られてしまう。
そして律儀にも本当に屋上の隅へと行き、右手で膝を抱えて座り込んだ。
「うんうん♪それで良いんじゃよ。直ぐに終わるからそこで、、、」
ニコライの行動に満足したのか、ご機嫌な様子で口を開いたジョン・スミス。
しかしその言葉の最中に、姿無き敵が口を挟んでしまった。
「しゃしゃり出なければもう少し長生き出来たものを、、、ならば2人仲良くあの世へと、、、」
だが敵がこの続きを口にする事は無かった。
(!?)
不思議に思ったニコライがジョン・スミスの方を見ると、銃へと変型した右手が硝煙を吐いている。
銃声は無かった。
どうやらサイレンサーが内蔵されているらしい。居場所を掴ませてはならないスナイパーならば当然か。
そしてジョン・スミスは、道端に落ちる犬の糞を見るかの様な視線をある一点に向けると、唾棄する勢いで言い放った。
「まだオイラが喋ってる途中でしょうがっ!!人の話を遮っちゃ駄目って教わらなかったのかね、、、ったく!!」
口を開けっぱなしで呆然とするニコライに気付くと
「ん?どした?」
軽い調子でそう尋ねる。
「も、もしかシテ、、、ヤッタ・のか?」
やっとの事で開いたまま硬直していた口を動かしたニコライに、ニンマリした笑顔と左手のVサインを返したジョン・スミス。
そして一言だけ
「楽勝♪」
口に溜まった唾を音が聞こえる勢いで飲み込んだニコライ。
(イ、イッたい・どうヤッテ、、、?)
又もそれを見透かした様にジョン・スミスが言う。
「どうやったのか、そいつが気になっとるんじゃろ?まぁお前さんもいずれ殺す相手だし、、、教えちゃろかいのぅ。オイラァ全身から全方位に超音波を出しとるんじゃよ、コウモリやイルカみたいにの。
つまりはソナーが反応しちょるのに視界では何も見えていない所、、、そこが奴の居場所って訳さね。便利でいいじゃろ~コレ♪」
まるで新しいオモチャを自慢する子供である。
しかし直ぐに真顔に戻ると、こうニコライに問い掛けた。
「1つオイラにも教えてくれんかぃ?アンタァなんでこの場所を選んだね?
いや、、、解るよ、この街で1番狙撃に向いとる場所だっちゅうのは。だからこそ不思議でのぅ、、、オイラがこの場所に来る事は想像がついたはずじゃろ?前もって準備が出来た優位を利用すれば、別の場所でスタンバってオイラが現れた瞬間を狙えたはずじゃ、、、
それがどうにも解せんでのぅ」
この問いにニコライは、作戦会議前に交わした有働との会話を思い出していた、、、
「名無しの権兵衛君はデパート屋上に現れそうかい?」
「オソらく、、、」
「わかった、じゃあ兄弟は、、、」
耳打ちされた続きの言葉は驚きの物だった。
(そいつと同じデパート屋上に潜んでな。
そいつは兄弟も認める程のスナイパーなんだろ?ならスナイパーとしてのプライドが邪魔をして、近距離戦は嫌うんじゃねぇか?上手くいきゃあ無駄な闘いは避けれるかもしれねぇぜ)
「ショウキ・かっ!?」
戸惑うニコライを他所に、俺を信じろとばかりに真顔で自らの胸をドンッと叩いて見せた有働。
「、、、ワカった、、、おマエ・ヲ・しんじヨウ、、、」
そう言って準備に取り掛かったニコライだったが、今になって改めて有働の策士ぶりに感心している。
だが回想に耽って答えないニコライに対し、ジョン・スミスは苛立ちを隠さない。
「答えはまだかいなっ!?いつまで待たせんじゃいっ!!」
「あ、アァ、、、スマない・じつハ・ナ、、、」
そう言ってニコライが有働から託された事を説明すると
「ほ~、、、読まれとったのは癪じゃが、其奴なかなかに面白い男よな、1度会ってみたいのぅ♪」
満更悪い気はしていない様子で明るく言うジョン・スミス。
「アンタ・が・オレ・ヲ・つけネラウ・なら・いつカ・アウ・こと・二・ナルかも・ナ、、、」
「ヒャッヒャッヒャッ!ならば其奴もついでに殺しちゃおうかね♪」
冗談とも本気ともつかぬ怖い事をサラリと言ってのける。
そして変型していた右手を元に戻すと、再び黒のマントに身を包みフードを深く被った。
「んじゃオイラァそろそろ行かぁね、、、」
「セワ・に・なっタ、、、」
「なぁに代金はお前さんの命だ、十分に元は取れらぁね。だからそれまで死ぬんじゃないよ」
「アンタ・も・な、、、ジイさん」
この言葉に反応を示したジョン・スミスが、ムスッとした表情でヅカヅカとニコライへ迫る。
「物はついでだぁ、、、お前さんにオイラの秘密をもう1つ教えてやらぁなっ!!」
明らかに不機嫌な口調にたじろぐニコライだが、その後に飛び出た言葉は更にニコライをたじろがせた。
「オイラァ爺さんじゃなくて、婆さんなんだよっ!!」
「、、、、、、、、」
暫し思考が止まったニコライは「無」となり言葉が出てこない。
そしてたっぷり30秒程溜めた後、、、
「な、ナニィ~~~!!」
ふつう偽名を使う場合、女性ならばジョン・スミスではなくジェーン・スミスを名乗るのだが、性別すらも隠す為に逆の物を使用しているのだろう。
まぁ見た目では判別出来ない本人にも問題はあるのだが、、、
何度目かわからない程に又も口を開いて呆然と立ち尽くすニコライ。
その肩をポンポンと叩くと
「ほんじゃ~また会おうやね♪」
そう言って爺さんの様な婆さんはその場を立ち去ったのだった。




