ニコライの奇策とよくあるシチュエーション
「ヌゥ、、、っ」
奇襲を受け、獣の如き唸りを上げるニコライ。
眉間には深い皺が刻まれ、血が出そうな程に歯を噛んでいる。
だが、左前腕が切断寸前の重傷を負いながらも、第二波に備え臨戦態勢を崩さないのは流石と言うべきか。
「ほぉ~ら言わんこっちゃない、、、さて、どうするね?そろそろ助け船出そうかぃ?」
意地悪な笑みを張り付かせジョン・スミスが問い掛けるが、、、
「イラぬ・せわ・ダッ!!」
「でしょうねぇ、、、」
予想通りの返答に肩を竦める結果に終わった。
「クックックッ、、、楽には死なせんよ。手足を1本1本イカせて貰う。で、次は何処がいい?」
屋上全体に響くサディスティックなその声は、相変わらず居所を掴ませない。
(ドウスル?、、、ドウすれバ・ヤツ・の・いばショ・ヲ、、、)
そんな考えを掻き消す様に、ジョン・スミスの尖った声が飛んだ。
「ボ~ッとしてんじゃ無いよっ!!」
我に返ったニコライが動物的反射で身をかわす。
すると大腿部を狙ったらしき刃道が腰元を掠めた。
ベルトループに留めていた軍用水筒が音をたてて地に転がる。
「ほぉ、、、よくかわせたものだ。しかし次もそう上手くいくかな?」
愉しげな姿無き声、、、そこには捕まえた虫の足をもぐ子供の様な残酷さが窺える。
1度深く呼吸をしたニコライが己の左腕に目をやる。
数本のコードのみで繋がり、だらしなく垂れ下がったそれを徐に掴むと、あろう事か力任せに自ら引きちぎってしまった。
「オホッ♪」
その光景にジョン・スミスが思わず愉悦の声を漏らす。
ニコライはと言うと、火を点けたばかりの線香花火の様なそれを無造作に投げ捨てると、代わりに先程落とした水筒を右手に取った。
それを左腕の残った肘部分に挟むと、右手でゆっくりと飲み口を開く。
そして一口だけ中身を飲むと、再び右手に水筒を持ち直し力強く言い放った。
「こいッ!!」
「ほぉ~♪」
今度は感嘆の声を漏らしたジョン・スミス。
「クックックッ、、、死に水は飲み終えたようだな、、、だがまだだ、まだ殺さんよ。ジワジワと迫り来る死の恐怖、貴様はどこまで耐えられるかな?」
勝ちを確信しているのか、インビジブル隊員の声には余裕すら感じられる。
「来るぞっニコちゃんっ!!」
ジョン・スミスが加勢の声を張った瞬間、ニコライが水筒内に残る水を自分の周りにぶちまけた。
そして空の水筒を投げ捨て再びハンドガンを右手に構えると、右前方で水を踏む音が響いた。
パシャ
「ソコかっ!」
音の方向へとバースト連射で3発の弾が放たれる。
ガインッ!と歪な金属音が鳴り響いた。
全弾命中とはいかなかったが、ニコライは確かにヒットした手応えを感じていた。
「ク~~ッ惜しいっ!!当たったには当たったが左肩に1発だけだぁ、致命傷じゃないやねっ!」
地団駄を踏まんばかりに悔しがるジョン・スミスに姿無き声が言う。
「クッ、、、しゃしゃり出るなジョン・スミス!そう焦らずともこの男を殺った後は貴様の番だ、大人しく死ぬ覚悟でもして待っていろっ!」
「ほぉ~、このオイラを相手に大きく出るねぇアンタ、、、そこまで言われちゃ指くわえて見てる訳にゃいかんやな♪」
右腕を銃形態に変化させたジョン・スミスが、庇う様にニコライの前へズイッと立つ。
「オイ、、、いらヌ・セワ・だと・イッた・ハズ・だ、、、やつ・ノ・イウ・とおり・スッコンで・いろっ!!」
「強がんなさんなって。今の奇策は悪く無かったがね、、、仕留め損ねた今、アンタは絶体絶命でしょうがよ」
「、、、、」
悔しいが彼の言う通りである。
元々ムスッとした顔に輪をかけたニコライが押し黙ってしまう。
そこへジョン・スミスが尚も続けた。
「それに勘違いすんじゃないよ、、、助ける為じゃないからね。あくまでお前さんを殺るのはこのオイラだ。オイラ以外のもんに殺らせる訳にゃいかない、、、只それだけの事さ、、、、、、、、
なぁ~~んてなっ♪1回言ってみたかったんよこの台詞っ!
ホラッ!マンガや映画なんかでよくあるっしょ?ライバルや敵役が助っ人に来るシチュエーション!いやぁ~念願叶ったわぁ、ありがとねニコちゃん♪」
ニコライの背中をバンバン叩きながら、嬉しそうに、そして無邪気に礼を述べるジョン・スミス。
叩かれた衝撃が左腕の傷に響くはずだが、そんな痛みも忘れる程に呆れさせられたニコライ、、、ようやく一言だけを返すのが精一杯だった。
「オ、オウ、、、」




