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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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枯木

まだ朝焼けの残る街を見下ろすその場所には、瞬時にピリリとした緊張の糸が張り巡らされた。


「嫌、、、だと?」

姿は見えぬ声の主だが、それは明らかに怒気を帯びている。


「あ~嫌だね。オイラァ今までプロとして仕事は選んでやってきたさ。そんで今回は、あのニコライ・ハシミコフと闘り合えるってんで受けた訳だが、、、それがどうだい、名うてのスナイパー同士がこんな近距離で顔を合わせちまった。それも横に並んで仲良くヒソヒソ話ときたもんだ、馬鹿馬鹿しくてやってらんないやね」


ジョン・スミス。

この男は相手が誰であろうと、どういう状況であろうと、ずっとこの調子なのだろう、、、

その様子を見てニコライは

(ドコか・あいつ・二・にてイル・ナ、、、)

と、有働の顔を思い浮かべていた。


「そうか、、、ならば仕方あるまい。2人共々、俺の手で仕留めるまでよ」

その台詞が終わるや否や、その場に殺気が充ち溢れる。

姿が見えぬとは言え、それは何度も感じて来た物である。ニコライとて伊達に数多の修羅場を潜って来た訳では無い。

だがやはり敵の姿が見えぬというのは恐怖である事には違い無い。

ハンドガンを手にスコープで辺りの気配を探るニコライだが、その額には何本もの汗が尾を引いていた。


背中をジョン・スミスに預ける態勢を取るニコライ。しかしそれに対するジョン・スミスの言葉は冷たい物だった。


「おいおいニコちゃん、、、勘違いしちゃあいけないよ。アンタの身まで守るつもりは無いかんね、背中を任されても責任持てないよ。テメエの身はテメエで守りなっ!」


「、、、ワカって・いルッ!!」

誰がニコちゃんだっ!と思いながらも、本心では少しあてにしていただけに、少々バツが悪そうなニコライ。

その背後で衣擦れの音が聞こえ、ニコライがジョン・スミスへと視線を移す。

するとジョン・スミスがマントを脱ぎ捨てる所であった。

そしてニコライは、全貌を現したそれに驚愕する。


想像していたのとあまりにも違うその姿、、、

フードの奥、痩せ細って見えていたその顔。

確かに余分な肉はこそげ落ちているが、不健康から来ている物では無かった。

身体にしてもそうである、異常なまでに細い。

機械化されている部分も一般人の腕と変わらぬ太さのはずなのだが、全体のバランスからすれば異様に太く映る。アンバランスなそれはポパイの前腕部を連想させた。

むしろあの枯れ枝の様な細腕で、よく機械化部分を支えているなと感心するレベルである。

そしてヒョロリとした細い肉体は、腰部で軽く前に折れ曲がっている、、、

そう。ジョン・スミスは推定70歳を超えているであろう、枯木の如き老人だったのである。


その老人は、開いた口が塞がらないニコライに微笑み掛ける。

「おや、やっぱそういうリアクションになるのかい、、、まぁそうなるわな。正直言えば、むしろその反応を見るのが毎度の楽しみなんだがね♪ケケケケッ」


(ドウいう・コト・だ?ジョン・すみす・が・ロウじん・ならば・そんナ・ウワサ・は・ひろまっテ・イテモ・おかしく・ナイ・はずダガ、、、)

そんなニコライの考えを見透かしたかの様にジョン・スミスが言う。


「アンタの考えてる事を当ててやろうか?

オイラが年寄りだなんて初耳だ、なんで今まで噂になってねぇんだろうか、、、そんなとこだろぅ?答えは簡単さね。オイラの姿を見た者で生きてる奴ぁ居ないからさ。

オイラぁ素性は秘密にしてんだけどね、殺すと決めた相手にゃ姿を見せる事にしてんだ。冥土の土産って訳じゃあ無いんだが、、、

秘密を知られたからにゃ絶対に殺さなくちゃいけなくなるだろ♪」


怖い事をサラリと言ってのける。

つまりは姿を見てしまったニコライも、殺すリストに入った事を告げているのだ。


「まぁアンタは寡黙そうだし、口の固さを信じてこの場じゃあ殺さないがね、、、

いずれはオイラの手で殺ってあげるから、こんな所でくたばらないでおくれよ。後の楽しみに取っておくんだからさ♪、、、おっと!奴さん、おいでなすったよ!」

ジョン・スミスが言い終えた刹那、ニコライの身体が瞬時に粟立った。

背後に凄まじい殺気を感じたからである。


「クッ!!」

ウィーバースタンスのまま振り返ったニコライだが、、、


「フッ、、、遅いわっ!!」

風を切る音がニコライの胸元を掠める。


「グアァ~ッ!!!」

痛みに強いはずの男が大きく吠えた、、、

それもそのはず。ニコライの左前腕部は、数本のコードで繋がっただけの状態でダラリとぶら下がり、無数の火花を散らしていた、、、

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