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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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あるエリートの事

東京某所、とあるマンションの一室。

一人の男が寝転んでTVを観ていた。

画面に映っているのはサミット中継。

たった今、首脳陣が自らの頭を撃ち抜いた所である。


その部屋は散らかっていた。

8畳程のワンルーム。

フローリングの溝には埃が溜まっている。

床には万年床が身を捩っており、ビールの空き缶やカップ麺の容器がそこかしこに鎮座している。


ちゃぶ台上の灰皿は、溢れんばかりの吸殻にその身を埋もれさせており、その光景からも主の生活ぶりが想像出来る。

そして主たるその男も部屋に劣らず散らかっていた。

暫く櫛も通していないらしきその頭髪は、伸び放題な上にフケが浮いており、そのうねりは浮世絵に描かれた荒波を想わせる。


口髭、顎髭も空き地の雑草よろしく、とても逞しくボサボサと生えており、この男の頭部は上下逆さまにしても顔になる騙し絵の様である。

部屋着のタンクトップもヨレヨレ過ぎて、ランニングと呼ぶ方がしっくり来る、、、

みすぼらしい、、それ以外にこの男を形容する言葉が見つからない。


しかしこの男、、、かつてはエリートと呼ばれる存在だった。

最終学歴は東京大学法学部卒業である。

周囲の人間は当然この男がそっちの道へと進むだろうと思っていた。

しかし男が選んだ道は自衛隊への入隊だった。

その気になれば、国の中枢に関わる地位を目指す事も出来たかもしれない男が、一般隊員として陸上自衛官となったのである。


周りには元々、変人扱いされていたが、この行動はより一層周囲の者達を困惑させた。

ところがこの男、凄いのは頭脳だけでは無かった。

入隊して暫くするとレンジャーを志願し、脱落者の続出する過酷な訓練を難なく修了する。

こうして不撓不屈を示すレンジャーの証、ダイヤを象った章を与えられた訳だが、この男は更に上へと駈け上がった。


特殊作戦群。

通称「特戦」のメンバーとなる。

対テロを想定し、レンジャー資格者のみで組織された自衛隊唯一の特殊部隊、、、それは自衛官としての高みに届いたとも言えた。

学歴を武器に幹部や指揮官の地位を手にしたのでは無い。

己の身体能力のみで手中に収めた高みである。


しかも彼がこの場所を目指した動機、それこそが彼を変人とせしめる所以であろう。

その動機とは、、、

「東大生の全てが運動音痴な訳では無い。その証明の為」

ただこれだけの理由でエリートの道を投げ出したのだ。

しかしこの事が、遠回りにはなったが彼をエリートの道へと軌道修正する事となる。


頭脳、身体能力その両方が優れている事を証明したこの男、当然ながら組織内での評価は高く、内閣調査室へとスカウトされたのである。

高い語学力、頭の回転の早さ、生まれ持った運動能力と自衛隊で培われた戦闘力。

それら全てが諜報員として相応しいと判断されたのである。


映画で観たスパイの様な派手な活動は無かった。当然である。目立たぬ様に暗躍するのが本来の姿なのだから、、、

それでも男は仕事を楽しく思っていた。

世間には知られていない情報や事実、、、

多くのそれらを手にする事は、彼の知識欲を遺憾無く刺激した。


そして数年前、ある任務に就く事となった。

その内容は兵庫県下の某研究所にて開発されたという噂の、最強の万能細胞についてであった。

その存在の真偽確認、もし真実であったならば、そのデータの国外流出防止。そして可能ならばデータの入手、、、という物だった。


最初は胡散臭い話だと思っていた。

情報のソースは研究員によるリークだと言う。

どうせどこぞの目立ちたがり屋、もしくは誇大妄想な輩による物だろう、、、そうタカをくくって様子を見ていた。

しかしである、、、躍起になって動き出した他国の諜報機関や、それらから身を守る為に責任者が雇ったマシンナーズ、、、

更には1人の研究員が姿を消し、それ以降はその研究自体が無かった物とされている。

そんな一連の流れを見ていると、男にもガセとは思えなくなった。


そして男がいよいよ本腰を入れようとしたタイミングで、上から新たな指示が下る。

「例の万能細胞の調査を中止せよ」

と、、、、

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