表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
139/177

軽い男と堅い男

「ねぇ、アンタもそう思わんかね、ご同輩?」

ふいに投げられた問い掛け、、、

男は既にニコライの存在に気付いていたという事だ。

つまりあの独り言は、全てニコライに聞かせるつもりで発していたのである。


(ドウリで・でかイ・コエ・だった・ワケだ、、、)

合点のいったニコライだが、男の前に姿を曝す事には未だ躊躇いを残していた。

それを見透かしたかの様に


「ほ~~ら、いつまでそうしてるのさ?さっさと出といでよっ!」

男の声がニコライに届く。

不気味な風貌からは想像もつかない無邪気な口調と、もはや敵意すらも感じ取れない男の声、、、それに背中を押され、ついにニコライも覚悟を決めた。


隠れていた木箱の陰から、男の前へと身を曝したニコライ。

無言のまま睨む様な表情で仁王立つ。

対する男は、相変わらずフードでハッキリと表情は伺えないが、口許にうっすらと浮かんだ笑みだけは見て取れる。


「やっと出て来たねぇ♪アンタがあの有名なニコライ・ハシミコフかい?想像してたのとえらく違うねぇ、もっと華奢な優男かと思ってたよ」


「そうイウ・アンタこそ・ユウメイな・ジョン・すみす・ダロ?この・セカイ・デ・あんたの・コト・ヲ・しらない・モノ・ハ・いない、、、」

憮然とした顔で男の会話に応えるニコライ。

とは言え、元々が憮然とした顔なので変化があっての事なのか定かでは無いのだが、、、


しかしそんな事は気にも留めず、男が飄々とした様子で更に続けた。

「ヒャッヒャッヒャッ!そう持ち上げなさんな♪アンタと違いオイラなんて本名すら名乗らず、物陰から人を撃ってオマンマにありついてる只のチキンさ」


言葉を交わす2人の距離は10mのまま縮まってはいない。

まるで警戒心を持たぬ幼子の様な男に対し、ニコライは警戒心の塊と化している。

会話をしながらもニコライの頭の中では、この後の展開に備えて様々なシミュレーションが繰り返されていた。

しかしどう考えても自分の不利は変わらない、、、

何故ならばニコライは、迂闊にも無手のままで男の前に立ってしまったからである。

確かにドラグノフ狙撃銃はその手に握っている。しかし未だ弾が装填されていないそれは只の鉄棒、、、現状、武器としては鉄パイプと変わらない。

かと言って今から懐のハンドガンを抜いたところで、腕そのものが銃である男の方が有利なのは明白、、、


すると男が柔らかな口調で言う。

「そう緊張しなさんなって」

更に男が手招きしてニコライを呼び寄せようとする。


警戒心の塊であるニコライは、当然ながらあからさまに怪訝な態度を見せた。

すると男は「いいから、いいから!」とばかりにブンブンと手招きの動きを大きくする。

緊張、警戒しているのがバカらしくなったニコライが、大きく息を吐きながら男の横に立った。すると男は小声で意外な言葉を囁いた。


「ここでアンタとやり合う気は無いさ。オイラァこの仕事降りる事にするよ」


「なに?どうイウ・コト・だ?」

ニコライも小声を返す。


「自分で言うのもなんだけど、オイラだってそこそこ名の知れたスナイパーさ。そんでアンタは世界一と名高いスナイパーだ。そんな2人がこんな所でやり合うなんて勿体無いと思わんかい?」


「、、、、」

ニコライは黙って言葉の続きを待った。


「だってそうだろ?本来スナイパー同士の闘いは遠距離戦と相場が決まってる。相手の思考や動きを読み、居所を探り当てて一発必中の狙撃で殺るってのが華さ。

それを同じ屋上のこんな近距離でやり合っちゃあ、勿体無くてバチが当たらぁね。例えるなら世界レベルのボクサーが柔道で試合するようなもんだ、、、そんなのつまらんだろぅよ?」


「ナルほど、、、たしカニ・ナ、、、ダガ・やといヌシ・が・ソレ・ヲ・ゆるす・のカ?」


「オイラは1仕事ナンボで雇われてるフリー契約なんでな。他の連中みたいにDやヒトラーに忠誠を誓った訳でも心酔してる訳でも無い、、、気にいらない仕事は勝手に降りさせて貰うさ。ただねぇ、、、1つ問題があんのよ、、、」

項垂れて深い溜息をつく男を見て

(1ツ・ドコロ・じゃない・ダロ、、、)

と思ったニコライだが、そこには触れず

「モンだい?」

と、それだけを訊き返す。


コクリと力無く頷いた男が、言葉までをも力無く発した。

「スナイパーのオイラが単独でここまで来てると思うかい?」


これにニコライがハッと息を飲んだ。

今回の作戦では開戦前からこの場に待機していたニコライだが、通常スナイパーが戦場を移動する場合、近距離戦になった場合に備えて護衛の兵が数名つくのがセオリーである。

それを思い出して辺りの気配を探るが、、、


「無駄だよ。相手はインビジブル隊員、姿や気配を消すのが専門のプロだ、、、それも最新式ステルス装甲は、サーモセンサーにも反応しないと来たもんだ。気を悪くしないで欲しいんだがアンタのスコープじゃ見切れないさ」


男に断言され、ニコライが逆に問う。

「アンタ・なら・でキル・のかい?」


「まぁね♪やる理由も、やるつもりも無いけどさ」


「ソウかい?いま・ハ・マダ・きづいて・ナイ・ようダガ・アンタ・が・かってに・シゴト・ヲ・おりル・と・しったトキ・だまっテ・かえシテ・くれル・とは・おもえンガ、、、」


男は一瞬考える仕草を見せたが、やがて肩を竦めると

「それもそうだね」

深い息と共に諦めの言葉を転がし出した。


「ナンにん・ダ?」


「1人だけさ」


横に並んで小声でやり取りしていると、いよいよ不審に思ったのか護衛のステルス兵が声を響かせた。

「何をしているジョン・スミス!?さっさと仕留めんかっ!」


響かせたというのは大袈裟では無い。

場所を特定させない為の細工が施されているらしく、その声は辺り一帯から響いて聴こえ、何処から発せられたのか判らない。

両目のスコープをカメレオンの様にグルグル回すニコライ、、、だが、男の言った通りサーモ・モードでも反応は無かった。


そして再びステルス兵の声が響く。

「もう1度だけ言うぞジョン・スミス、、、自分の仕事を全うせよ、、、」


それに答えたジョン・スミスの声は、相も変わらず軽い物であった。

「や~なこった♪」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ