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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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側近の男

アウシュヴィッツ第一収容所の更に西、1,75平方キロメートルという広大な敷地内に300を超える施設群を持つ場所がある。

アウシュヴィッツ収容所にて最大規模を誇る第二収容所ビルケナウ、、、

市内を走る線路から分岐し、この地へと導く引き込み線は(地獄へと続く鉄道引き込み線)としてあまりに有名である。


歴史的負の遺産であるこの場所に、似つかわしく無い近代的な建築物が見える。

どうやら新たに建てられたそれは、一見すると学校の校舎の様にも見える。

地上3階建てとそれほどの高さは無いが、レンガ造りが殆んどのこの場所で、灰色に輝くコンクリート製のそれはあまりにも場違いで目立っていた。

そしてこれこそが千年帝国を名乗るネオナチの本部となっている建物であった。


その3階、広めの体育館程の四角い部屋。

中央には赤いカーペットのラインが引かれ、それを挟む様にして両側の壁沿いに幹部らしき者達がずらりと並んで立っている。

そしてカーペットの行き着く先には一段高くなったフロアがあり、そこには重厚な椅子に身体を預けたあの男が鎮座していた。

ネオナチ総統アドルフ・ヒトラーである。

横には側近らしき男が1人立っている。

そのヒトラーの前に一般兵らしき男が直立不動で立っており、何やら仰々しい口調で報告を始めた。


「申し上げます!偵察隊からの報告によりますと、奴等は複数のグループに分かれ街中を動き回っている様子!恐らくは何やら仕掛けを施している物かと思われますが、、、」


「うむ、ご苦労であった。偵察隊にも戻る様に伝えておけ」


「しかし、それでは、、、」


「良い、、、下がれ」


「ハッ!失礼致しましたっ!!」

闇深き眼力の威圧感に恐怖したらしく、男は右手を高く掲げるナチス式敬礼をして見せると、足早に部屋を出ていった。


「まだ開戦前だというのに、好き勝手に動かせて宜しいのですか?」

ヒトラーの横に立つ、額の広い丸眼鏡の男が静かに問う。


「フフフッ…捨てておけ。その為に街中の鍵も全て解錠しておいたのだ。敵に塩を贈る、、、だったかな?昔、本で読んだ事がある。名前は忘れたが古い日本の戦国武将の故事を真似てみたのだ」


「まったく気まぐれというか、、、酔狂な御方だ、、、まぁ普通と違うなればこそ、それだけのカリスマ性を持たれてらっしゃるのでしょうが」


「そう持ち上げるな、こそばゆいわ。それよりも例の件、準備は整っておろうな?」


「はい。首尾は上々にて、、、しかし御言葉ですが、あの様な事までなさらずとも、、、」


「言うな。貴様の言いたい事は解る。そこまでせずとも我等のマシンナーズが敗れる訳が無い、、、であろう?勿論我輩とてそう思っておるよ。圧倒的戦力差、、、まず覆る事はあるまい。しかし世の中には万一という事があるのも事実。万に一つであってもそれは可能性として間違いなく存在する物だ。

我輩には使命がある。いや、悲願というべきか、、、同志と共に千年栄える帝国を築くという悲願が、、、それを確実に実現する為にも、このような場所で躓く訳にはいかんのでな」


にこやかだったヒトラーだが、この言葉を吐いた時にはその決意と同じく固い表情と化していた。それを見た側近の男が言う。

「これは私ごときが出しゃばり過ぎましたかな、、、失礼しました。しかし閣下の言葉を聞いて安心したのも事実、、、

D様の願いが叶いし後、この世を治めるのは崇高なる我々ネオナチであり、その頂に立つのは貴方様であるとの確信が持てましたゆえ」


「だからそう持ち上げるなて。D、、、様は今回の件で人類をランク付けし、AAAとAランクの優秀な者は残し、BとCランクの者の中から半数を消すと決められた、、、もとよりこの地アウシュヴィッツは、劣等民族絶滅収容所と謳われた場所。

我輩に言わせれば今や人類その物が劣等な種族。全てを滅ぼしても一向に構わんのだが、優秀な遺伝子のみを残し、それを取り込んで能力を我等が物とする、、、そのお考えも理解は出来る。

いずれにせよ、この場所が再び亡骸で埋め尽くされる日もそう遠くは無い。貴様の力添え期待しておるぞ、、、ヒムラーよ」


「はい、心得ております」

微笑みながら答えたこの男こそ、ナチス親衛隊(通称SS)の全国指導者を務め、ナチ党の政権掌握後にはゲシュタポ副長官を、、、更にその2年後にはドイツ警察長官となり警察機構を完全掌握した男、ハインリヒ・ヒムラーであった。


互いの決意を確めるかの様に見つめ合う2人の後ろでは、壁に貼られたハーケンクロイツの旗が窓からの風によってその身を僅かに震わせていた。



一方、きっちり3時間後に戻った有働。

カート内に山ほどあった物は全て使ったのか、何1つ持ち帰ってはいない。

そしてパンパンに膨らんでいたバックパックも、今は皺が寄る程にスカスカである。

何をしていたのか手や顔はひどく汚れており、ご自慢のヘビ革スーツにまで染みが着いている。

いつもピッチリ整えているリーゼントも乱れているが、本人はもはや外見など気にも留めていないらしい。


「お待たせ!じゃあ今から作戦内容を話すからよ。その前にダン、悪いがこいつをカラーコピーして全員に配ってくれ」

そう言ってダンに手渡した街の地図には、最初に付けられていた青いチェックとは別に、新たに赤いチェックが数ヵ所に入っていた。

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