援軍到着
翌朝、時間通りに空港へ着くとそれは直ぐ目についた。
一般の空港には場違いな機体が1機、チャーター用滑走路に鎮座している。
その深いグレーの機体は、日の光を浴びていても目映い反射を放つ事は無い。
それが紛う事無き軍用機の証だった。
どこか丸い印象を受ける本体に高翼配置の主翼、そこには左右2つずつのプロペラが備わっており、機体の最後部には高くせりあがったT字尾翼が見える。
コクピットの天井付近から空中給油用のプローブが角の様に突き出ており、イッカクを連想させる姿のその機体、、、かつてグリズリーと呼ばれ、今はアトラスの愛称を得ているエアバスA400Mである。
「うわぁ、、、また大層な機体で来たもんですね、、、」
ダニエルが半ば呆れた様に言う。
「いや、これでいい。今回の相手はヒトラー、、、そしてマシンナーズ・バタリオンがDの配下となっている以上、その兵の殆どがマシンナーズだと見ていい。奴等がどれ程の戦力で迎えて来るか判んねぇ以上、これ位の備えでも心細いくらいだぜ、、、」
A400Mは左右壁面に跳ね上げ式座席が54席あり、小型の輸送車輌ならば3輌は搭載出来る。
つまりはおよそ2個小隊レベルの兵力を運べるという事だ。
有働の発言はそれを期待しての事だろう。
搭乗受付のカウンターでは担当者が、室田達の姿を見るなり手続きもせぬままに
「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
と慇懃に案内を買って出た。
恐らく各国の空港には既にDの声が掛かっているのだろう、、、
(この者達に手続きは不要、無条件に搭乗させよ)とでもいったところか。
案内されるがままにチャーター用滑走路へと降り立った一行。
嘘臭い程の笑顔で見送る担当者と別れ、そのまま機体の方へと向かう。
すると、隊を率いているらしき男が敬礼で出迎えてくれた。
「お待ちしておりました!お久し振りですニコライ中佐殿!シリアでの鎮圧任務以来でしょうか、、、」
「シブとく・いきテ・イタか!げんキ・ソウ・で・なにヨリ・ダ・マッキンリー!!」
ニコライがその男をヘッドロックに抱え込み、頭部に巨大な鉄の拳をグリグリと押し当てた。
「ちゅ、中佐殿、、、マ、マジで痛いっス、、、」
苦悶の表情で訴えるマッキンリーと呼ばれた男。
30代後半だろうか、かなり短めのGIカットにアメリカンレスラー顔負けのマッチョボディー。
「アメリカの兵士」と聞いて誰もが連想するであろう、絵に描いた様な姿を体現している。
珍しく笑いながら無邪気にじゃれていたニコライだが、ある事に気づいてマッキンリーを解放した。
彼の肩口に縫い付けられた階級章を暫し見つめ
「しゅっセ・シタ・ものダ、、、」
感慨深そうにそう呟いたニコライ。
マッキンリーは痛みなのか照れなのか定かでは無いが、自分の頭を撫でながら神妙な面持ちで答える。
「今の自分が在るのは中佐殿のお陰です、、、貴方が居なければ、、、あの時、負傷した自分を抱えて自陣へと連れ帰ってくれていなければ、自分は間違い無く死んでいました、、、
この感謝は一生涯消える物ではありません」
「フルい・はなし・ダ、、、ぶたいチョウ・ト・して・とうゼン・の・コト・ヲ・したマデ、、、もう・ワスレろ、、、
ソレに・もう・オマエ・は・オレと・おなジ・チュウさ・だろ?ソノ・ことばヅカイ・も・ヤメテくれ・しり・ガ・むずがユク・なる、、、」
今度はニコライが自分の頭に手をやった。
「同じ階級であろうが貴方は先輩である上に命の恩人です。私にとってはいつまで経っても目上なんです、好きにさせて下さい。
あ!でも自分も中佐なのに、中佐殿と呼ぶのは変ですよね、、、これからはニコライさんと呼ばせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「、、、スキ・に・しろ」
ニコライの答えに満足げに頷いたマッキンリー、ようやく室田へと顔を向けると
「御挨拶が遅れました!今回同行させて頂く部隊の指揮官を務めます、スケアクロウEU支部ジョー・マッキンリー中佐でありますっ!!」
そう言って直立不動で敬礼をして見せた。
「ほんに、、、会社の長であるワシを差し置いて、ニコライに挨拶するとはのぅ」
皮肉を返した室田だが、笑顔である事からも本気で怒っている訳では無いらしい。
「し、失礼しました!つ、つい懐かしさが勝ってしまい、、、」
「良いて、、、それよりも出発の準備は整ったかぇ?」
「ハッ!あと10分程で発てるかと!とりあえずこちらへどうぞっ!」
そう言うとマッキンリーは、機体の後部ハッチの方へと身体を向けた。黙ってそれについて行く一行。
すると格納スペースにはM113装甲兵員輸送車が3輌、そして壁際の座席には40人程の兵士が既に着席している。
そこには有働の期待通り、2個小隊規模の兵力が用意されていた。
ここでダニエルがマッキンリーへと話し掛ける。
「昨日連絡をさせて頂いた、スケアクロウ・アジア支部所属のダニエル・アンダーソン2等兵であります。早々に申し訳ありませんが、お願いしていた補充用物資はご用意頂けましたでしょうか?」
「ん?あぁ勿論だとも。ハッチ内のコンテナに山ほど入っている。どれでも好きな物を選んでくれたまえ」
「感謝いたしますっ!!」
敬礼し踵を返すとダニエルは、皆を連れて装備の補充へと向かった。
その途中、ふいに有働がニコライへ問う。
「よう、、、兄弟、、、さっきのマッキンリーって男、昔馴染みなんだろ?その割にはファーストネームで呼ばねぇんだな、、、普通ジョー・マッキンリーならジョーって呼ぶだろよ?」
これをフフンと鼻で嗤ったニコライ
「トウジ・おれ・ノ・ブタイ・には・ジョー・が・3ニン・いてナ、、、ヤヤこしい・カラ・ぜんイン・みょうジ・デ・よんデ・いた、、、ソレだけ・ノ・コト・だ」
「な~る♪そういう事ね!ところで楓ちゃんは全然話さなかったけど、アイツの事知らないの?」
「ヤツ・と・おれ・ガ・オナじ・ブタイ・だったノハ・かえで・が・スケアクロウ・に・ハイる・マエ・の・ことダ、、、ソノカワリ・かえで・ノ・ハハおや・みやび・ノ・コト・は・ヤツ・も・よく・シッテいる、、、
もっとも・カエデ・が・みやび・ノ・ムスメ・だとハ・シラン・がな、、、おマエ・も・よけい・ナ・コトは・いうナヨ!」
スコープで横目に睨み、有働へと念を押す。
「あぁ、、、解ってる、、、」
有働がそう答えたのを最後に、2人は口を開かぬままで装備の補充作業へと入った。




