兵士とは
一旦ホテルに戻った室田達。
緊張から解放された反動か、室田などは早々にベッドで鼾をかいていた。
「まったくいい気なもんだぜ。まぁ年寄りの身にゃあ、ちぃ~とばかしキツい夜だったからな、、、しゃあねぇっちゃあしゃあねぇが」
「サスがっち、、、おマエ・も・すこし・ヤスンで・おケ、、、あさ・カラ・うごク・コト・に・なる・ダロう・からナ」
「兄弟は?」
「オレ・は・イイ、、、もう・しゅうゲキ・が・ナイ・とは・カギらん・カラな・それト、、、キョウだい・と・ヨブな・と・ナンド・いわセルっ!」
銃の手入れをしながら、スコープだけを動かして有働を睨む。
「へいへい、そりゃ悪ぅござんした。勘弁しろよな兄弟!」
有働の答えに諦めの溜息を溢すとニコライは楓にも声を掛けた。
「おマエ・も・すこシ・ネムッて・おけ」
「、、、私はいい」
そう答えると楓は、ベランダに出て夜明けも近い街を見下ろした。
その愁いを帯びた眼差しは、数時間前まで居たはずの「彼」が何故ここに居ないのだろう、、、そう言っている。
そして昼間に彼と歩いた街並みを見下ろす事は、彼女の辛さを倍増させている事だろう。
眠れぬのも無理は無い、、、心中を察したニコライはそれ以上声を掛ける事をしなかった。
そして有働もベッドの中からそんな楓を見ていたが、掛ける言葉は何1つ見つからず、眠ったフリをする己の無力をただ呪うだけだった。
そんな中でダニエルは、1人黙々と端末をいじっている。
「これで良しっ、、、と!」
「オワった・のカ?」
「ハイッ!無事スケアクロウEU支部に連絡が取れました。明朝、、、正確には今朝ですが、銃弾など補充用の装備を運んでくれるそうです。11時にシャルル・ド・ゴール空港で待ち合わせ、そのままポーランド、、、あ、今はドイツでしたね、、、とにかくアウシュビッツ近郊まで送ってくれるそうです」
「ソウか、、、ナラば・おまエ・モ・イマ・の・うち・ヤスンで・おけ」
テーブル上に並んだ全員分の銃器、その手入れする手を止める事無く、ニコライがダニエルを気遣う。
「気分が昂って眠れそうにありません、、、
お恥ずかしい話ですが、輸送担当だった僕は今まで直接戦闘に関わった事が無いんです、、、」
情けないといった風情で俯いたダニエルに、相変わらず銃を手にしたままでニコライが問う。
「ソウか、、、で・ドウだった?」
「どうって、、、正直ただただ怖かった、、、これで傭兵だってんだから笑っちゃいますよね」
「イヤ、、、それデ・イイ、、、ながク・センじょう・ニ・かかワル・と・いろイロ・ナ・こと・が・マヒ・してしマウ、、、
カチかん・や・リンリかん・そしテ・キョウふしん・もダ、、、ソレら・ヲ・うしなウ・コト・は・にんゲン・らしさ・モ・ウシなう・と・いうコト、、、
おマエ・は・そのママ・ニンゲん・で・ありツヅケろ」
ニコライの台詞を慰めと捉えたのだろう、ダニエルが悔しげに強い視線と口調で言葉を返した。
「で、でもっ!僕だってメンバーとなったからには力になりたいっ!!」
そこまで言うと再び視線を落とし、今の勢いが嘘の様に弱々しく言葉を絞る、、、
「あと少し、、、ほんの僅かでいい、、、今よりも、、、勇気が欲しい、、、」
それを聞いてニコライが、初めて銃をテーブルに置いた。
「ダン、、、イイ・へいし・トハ・どんな・ヘイシ・だと・オモう?」
「え?そりゃ勇猛果敢で、命も省みず任務を、、、」
「チガう・な、、、」
首を振りながら言葉を遮ったニコライ。
「え?」
「イイか?おぼエテ・おけ・イイ・へいし・トハ・かなラズ・いきテ・カエる・へいし・ノ・コト・だ、、、だから・コソ・おマエ・が・いだイタ・きょうフシン・それ・ヲ・ワスれるナ・それ・ヲ・ワスれた・ヘイシ・は・はやジニ・する」
「じゃ、じゃあニコライさんは?ニコライさんでも未だに恐怖を感じるんですか?」
「フッ、、、どうダカな、、、」
含みを帯びた笑みを浮かべたニコライは、再び銃を手に取り整備に戻ってしまう。
その横顔は穏和ではあったが、それ以上は問うなという強い意志が感じられた。
だがそれでも一言だけ投げたダニエル。
「僕も貴方も、、、全員が良い兵士でこの旅を終えましょうね」
ニコライは柔らかな笑みを浮かべただけで、それに答えはしなかった。
しかしその笑みこそが答えなのだと判断したダニエル、、、
再び端末を起動すると、動画サイトにDが開設しているページ「Dチャンネル」へとアクセスしてみた。
「な、なんだこりゃっ!?み、皆さんっ!ちょっと起きてこれを観て下さいっ!!」
静寂に沈んだはずの室内にダニエルの声が響いた時、夜は普段と変わらぬ様子で白白と明け始めていた。




