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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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鉄蜂(てつほう)

不快な羽音が幾つも重なり、皆の焦燥感を更に煽る。


「兄弟、、、敵さんの姿は目視出来るか?」


有働に問われ、狙いをつけていた鉄板の閂から目線をずらしたニコライ。

モーター音が微かに響き、目のスコープが前方の闇を向く。


「キョリ・やく60m、、、かず・8キ、、、くらクテ・はっきリ・とは・ワカらん・が・バーナー・いがイ・ぶそウ・ハ・ミアタらん、、、いや、マテ、、、あれハ、、、?」

先頭を2機、末尾も2機のドローンが飛び、中央で残りの4機が合同で何かを吊るしている、、、それを見てニコライは気づいた。


「ク、クレイもあっ!!」

珍しい事に大きく声を張ったニコライ、それだけに事の重大さが伺い知れる。


「な、何っ!?あんな小型のドローンがクレイモアを積んでんのかよっ!?」

有働の驚きは尤もである。

1機の大きさは人間の小指程しか無いビー・ドローン。それが1機ずつ2kg近い対人地雷を積んでいると勘違いしたのだ。


「イヤ、、、ゼンご・ヲ・2キずつ・が・ゴエいし・ホカ・の・4き・ガ・つるス・かたチデ・とんで・イル、、、すでに・キョリ・55m!」


「チッ!」

有働が爪を噛みながら闇を睨んだ。

そして楓のインカムへと声を掛ける。

しかし距離がある上に地上と地下に分かれた為か、雑音が酷く会話が出来ない、、、


「クソッ!通じやしねぇっ!!」

耳にかけたインカムを外し、苛立ちから地面に叩きつけようとした手をダニエルが止めていた。そして首を横に振りながら言う。


「駄目です有働さん、、、今は通じなくても通信が復帰した時どうするんですかっ!?」


「、、、確かに、、、悪かったなダン、通信が、、、ん?通信?そうかっ!そうだよっ!!こんな単純な事にどうして気づかなかったんだ俺はっ!ありがとよダン、楓ちゃんなら気づいてるはず、、、だな」


「、、、?」


有働はキョトンと立ち尽くすダニエルを放置して、未だ狙撃態勢のニコライへと指示を出す。


「兄弟、ターゲット変更だ。先ずはクレイモアを撃ち、その直後に元のターゲットである閂を撃ち抜いてくれ」


「ナッ!?ショウき・か?この・キョリ・だと・こチラ・も・ぶじ・デハ、、、」


「あぁ、、、だがこのままじゃジリ貧だし、他に手はねぇ」

そう呟いた有働の手はジットリと汗で濡れている、、、そして未だ躊躇うニコライを静かな口調で諭し始めた。


「距離が縮まる程に事態は悪化する。頼む俺を信じて、、、3秒後だ、きっちり3秒後に撃ってくれ」


真剣な眼差しにニコライも納得するしか無くなり、、、

「、、、わかっタ・イクぞ!3・2・1」

ようやく迷いの消えたニコライがトリガーを引くと、すかさずドラグノフが2発の銃弾を吐き出した。


直後に全員が伏せて、バックパックを盾代わりに防御姿勢を取っている。

そして、、、

閃光と轟音が疾駆し、爆発したクレイモアが小さな鉄球を辺りへと撒き散らす!

だが不思議な事にそれらは皆の頭上を掠め飛び、全てが壁へと吸い込まれていった。


「ふぅ、、、なんとか上手くいったみてぇだな、、、」

有働が壁にめり込んだ鉄球をほじくり出しながら呟く。


「い、一体どうなって、、、?全ての鉄球が僕達を避けたような、、、」


「なるほどの、、、有働、お主の策とはこの事だったかよ。所謂、煙突効果の応用じゃな?」


「流石は爺さん、理解が早ぇな。その通りだ、まぁ一か八かの博打だったがな、、、

クレイモアの最大加害距離は250mだが、実質的な有効加害距離は50m程度だ、、、つまり俺達はギリギリの距離に居た訳だが、それが1つ目の助かる要素だった、、、最も威力の弱まる位置だったんだからな。そしてその上で爆発と同時に通風孔の口を開く、、、すると、、、」


「高温の爆風は高い方へ向かおうとし、通風孔へ吸い寄せられる、、、そして結果的に飛び散る鉄球の仰角も上方向へ補正された、、、ちゅう訳じゃな?」

したり顔で述べる室田を、有働が恨めしそうに睨んだ。


「チェッ!んだよ!いい所を持って行きやがってよ、、、でもまぁそういうこった。本当はバーナー対策の予定だったんだがな、クレイモアのお陰でドローンも全滅出来たし、諸々結果オーライだぜっ♪」

キュキュッと鼻下を擦らんばかりの得意顔で、今にも高笑いしそうな有働だったが、途端に顔から色が消え始めた。


「お、おい、、、嘘だろ、、、?」


それにつられて皆も視線を向ける、、、すると皆も信じられない物を見た表情へと、みるみる変わって行った。

全員が何とも言えない顔で見つめた闇の中、、、

そこから近づくのは聞き慣れたあの羽音、、、

クレイモアを運んでいた4機は木っ端微塵に吹っ飛んでいたが、前後を飛んでいた4機の内3機はどうやら生き残ったらしい。

時折バーナーから吹き出す炎が、闇の中だけにより一層目立つ。

そして運ぶ物が無くなり身軽となったそれ等は、先とは比べ物にならない動きを見せた。

速いというより、すばしっこいと言った方が正しいか、、、

上下左右に軌道を変えながら飛ぶその様子は、ビーの名に相応しく蜂その物であった。


「兄弟!狙撃出来るか?」


「キョリ・も・ないし・アノ・すばやサ・デハ、、、」


「あの絶対に当たるって弾はどしたよ?」


「ホール・で・つかイ・ハタした、、、」


「ジーザスだぜっ!クソッタレ!!」


「え?でもあの通風孔、元々は炎に対する仕掛けだったんでしょ?なら今からでも、、、」


「無理じゃな、、、」

ダニエルの希望は室田の無慈悲な一言に砕かれた。


「む、無理って、、、」


「あれは急激に熱された空気が、上昇気流を生む為に起こった現象じゃ、、、つまりは1回こっきりのマジックなんじゃよ」

そんなやり取りをしている間にも、3機のドローンは10m程の距離にまで迫っていた。

時折、威嚇するように轟々と炎をたなびかせながら、、、


追い詰められた有働が、ダメ元でハンドガンを構えた。

ダニエル、ニコライ、そして驚いた事に室田までもがそれに続く。


「外れようが構わねぇっ!ありったけブッ放せっ!!」

有働の掛け声で全ての銃口が刹那の光を放つ。

連続する瞬きは周囲の動きをコマ送りの様に見せるが、徐々に近づくドローンの姿までも残酷に映し出していた。


それでもどうにか2機のドローンを撃墜した面々、、、ところが残り1機となった所で全ての銃口が沈黙する、、、そうである、弾が尽きたのだ。


まさに獲物に止めを刺す蜂の毒針の如く、出たり消えたりを繰り返すバーナーの炎、、、

「ちぃ、、、」

壁際まで追い込まれ、有働が無念を舌で打ち鳴らしたその時、突然の金属音が足下に響く。

見ると今まで飛んでいたはずの最後のドローンが、何故か墜落し転がっているではないか!

それを見た有働、額の汗を拭いながら心底安堵した様子で呟いた。


「間に合ったか、、、助かったぜ、楓ちゃん」

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