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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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最終地点

「あ、ありましたっ!ここですっ!!」


端末で天井を照らしながらダニエルが叫んだ。

頼り無い光に浮かび上がったそこには、うっすらとではあるが確かに鉄板らしき物が見える。

有働がペンライトを向けると、それはより明確な姿を皆へと曝した。


高さ2mと50cm程の場所に60cm四方サイズの鉄板。

溶接されたりビスで固定されている訳では無く、片側は補強された天井部と蝶番(ちょうつがい)で繋がれており、反対側は(かんぬき)式の鍵を南京錠で封じてある。

つまりは届きさえすれば簡単に開けられる程度の物という事だ。

周囲に脚立などの道具は見当たらないが、ニコライの身体は2mをゆうに超える。そこへダニエルが乗れば解錠も容易く行えるはずである。


「よっしゃ、、、ならば一旦代わろうかの」

そう言ってニコライの背からよっこらと下りる室田、その横では入れ代わって乗るダニエルが、律儀にも靴を脱ごうとしていた。


「ソノまま・デ・カマわんっ!イソげっ!」


「え、、、でも、、、いや、わかりました!失礼しますっ!」


「これ使え」

脱ぎかけた靴を戻すダニエルへと有働がペンライトを手渡した。

受け取ったそれを口にくわえ、ダニエルがニコライの肩へと素早く登る。

そして入り口の時と同じように左手の人差し指を南京錠に向けると、ものの数秒で容易くそれは開かれた。

口を開けた通風孔へとペンライトを差し込み、注意深く中の様子を探る。

だが直ぐに地面へと降り立つと、険しい表情と共に首を横に振った。


「駄目ですね、、、足場は勿論、掴めるような物も無い、、、更に側面は(ぬめ)りが酷く、手足を突っ張って登る事も無理でしょう、、、」


「だろうな。そもそもそんな事に期待はしてねぇよ」

当然とばかりに有働が放ったその言葉。

その意外性にダニエルが視線だけで真意を求める。


「考えてもみろよ。あんな狭い穴、たとえ足場があってもニコライの兄弟が通れねぇ、、、

そんな事より、あそこから夜空は見えたかい?」


「、、、はい?」

突然出された意味不明な質問に面食らったダニエル、表情は固まり目は点となっている。


「あの穴はちゃんと外まで通じてたかって訊いてんのっ!」


「あ~、、、はい、、、20m近い距離はありますが、先がぼんやり明るかったし、風の通りもあったので恐らくは、、、でもなんで?」


「俺に考えがある、、、ちょっとした賭けだがな。こんな博打を打つ前に、楓ちゃんが操縦者を見つけ出してくれる事を信じよう。おっと、、、また羽音が近づいて来たな。

よし、急いで一番奥の通風孔を目指すぞ」


駆け足で最奥部へと辿り着いた一行。

どんつきの壁から5m程手前の天井に最後の通風孔はあった。

さっきのそれと同じ要領で施錠されており、ダニエルもまた同じ要領で解錠を施した。

そしていよいよ閉じている鉄板を開こうとしたその時、、、


「開けるなっ!!」

突然有働が声を尖らせた。

思わず動かしていた手をビクリと震わせたダニエル。あまりの驚きにそのまま全ての動きを止めてしまっている。


「怒鳴ってすまなかった、、、だが、そこは開かないでくれ」


「はぁ、、、」

合点はいかないながら、とりあえず返事をして戻ったダニエル。

(開けちゃいけないって、、、どういう事だ?)


「悪いなダン。今は細々(こまごま)と説明してる時間は無ぇんだ、。ただ、あの鉄板を開くタイミングが重要でな、、、それは俺が見計らって声を掛ける」


「え?じゃあC4爆弾でも仕掛けて、タイミングに合わせて起爆すれば、、、」


「おいおい、、、正気かダン?周りを見てみろよ」

有働に促され、ペンライトで辺りを照らしたダニエル。そしてその台詞の意味を理解した。


「あっ!、、、」


「な?ここは行き止まりで逃げ場は無ぇ、、、こんな場所で爆弾なんざ使ったら、俺達もタダじゃあ済まない」


「じゃあどうすれば?」


有働はダニエルの問い掛けには答えず、そのままニコライへと歩み寄った。

「なぁ兄弟、、、スナイパーのアンタならあの(かんぬき)式の留め金、どんなタイミングでも撃ち抜けるよな?」


試すような有働の視線、、、

それを跳ね返すように太い鼻息を吐くニコライ。

目のスコープがぐるりと動き、有働を捕らえたまま止まった。恐らくは睨んでいるのだろう、、、そして一言。

「ダレ・に・モノ・ヲ・いって・イル、、、」


「さっすが兄弟♪頼りにしてるぜっ!」

有働が言うのを待たずして、背負っていたドラグノフ狙撃銃(改)を手にしたニコライ。

膝をつき、ストックを胸に押し当て、顎を引く。

不動の山を想わせる安定した狙撃姿勢。

機械化されたその腕は微塵も動く事無く固定され、トリガーに掛けられた鉄の指も全く震える事は無かった。


「トラえた、、、イツでも・OKダ」

準備が整った事を最低限の言葉だけで伝えたニコライ。

しかしそこへ室田が、絞め殺されるニワトリの様にすっとんきょうな声を張り上げた。


「お、お主、、、見えとるんかぇっ!!」


「オレ・は・すないパー・デ・オレ・の・め・ハ・スコープ・だ、、、とうゼン・くらやミ・ニモ・タイおう・デキるよう・アンシスこーぷ・ニモ・きりカエ・かのう・ダ、、、」


「ちゅう事は何か?ずっと見えとったっちゅう訳かぇ!?」


「アマり・おれ・ニ・ハナし・かけルナ、、、き・が・チル、、、」


そんな会話の最中でも、銃口は(かんぬき)を捕らえたままピクリとも動かない。

それを頼もしそうに見ていた有働だが、その耳に鬱陶しい羽音が近づいて来た。

「チッ!もう来たか、、、」


舌を打った有働へとダニエルが歩み寄った。

「これから起こる事、有働さんはさっき博打と言いました、、、でも俺達はそんな貴方にベットしたんです。この博打、、、必ず勝てよなっ!!」


それを聞いた有働は、緊張からか額が汗で濡れている。

それでも強い眼力で羽音の方を向き、微かな笑みを携えてこう答えた。


「さぁてね、、、確かに博打ではあるが、言うなればここからは俺のマジックショーだ。

お代は見てのお帰りにっ、、、てな」



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