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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
123/177

バツ3

先の出来事を忘れる為か、動き始めてからのダニエルがその事に触れる事は無かった。

小走りで進みながらダニエルは背負っていたリュックを器用に外し、中から端末を取り出すと今度はリュックが前方に来るようにして腕を通す。

有働が灯す先頭の光に加え、最後尾で端末の光が蛍の様に淡く灯った。

それに気づいた有働


「管理会社のコンピューターにアクセスすんのか?」


「ええ、今の内に見ておかないと途中に逃げ場があった場合、最奥部へ進んでしまってからでは戻る事になりますから、、、」

接続を開始したダニエルの目が青く光り、最後尾に更なる灯火を加えた。


「一旦止まろうか?」

有働が速度を落として気遣ったが、ダニエルは首を横に振る。


「いえ、直ぐに終わりますから、このままのペースで行きましょう」

答えると同時にダニエルの目は、青から赤へとその色を変えた。

そして端末に映し出された地下墓地内の見取り図を見ながら、額に深刻そうな皺を刻む。


「やはり、、、道中には何も無さそうですね、、、」


「それ、いつの見取り図だ?確かこの辺りにある地下墓地の遺骨が、纏めてカタコンブ・ド・パリに移転されたのは19世紀初頭のはずだ、、、それからこの場所が手を加えられていないと考える方が不自然じゃねぇか?」


「いえ、確かに遺骨の安置場所が移されたのはその頃ですが、それ故に不要となったこの場所が手を加えられたとは考えにくい、、、それにこのデータがコンピューターにバックアップされたのは2年前の日付です。恐らくは何も変わっていないかと、、、いや、、、ちょっと待って下さい、、、」

何かを見つけたらしきダニエルが思わず足を止めた。

それに気づいた有働とニコライも同じく足を止める。


「何かあったのかぇ?」

室田が鶴の様な細長い首を捻曲げて振り返った。


「よく見ると道中の3ヵ所、500mおきに小さくバツ印がつけられている、、、その内の1つは既に通り越してますが、何かありませんでしたか?」

顔を上げて有働を見たダニエル。


「いや、気づかなかったが、、、悪い!壁側にまで気を配って無かったわ、、、」


「いえ壁側では無く、通路の真ん中に標されています、、、」


そして一瞬の沈黙の(のち)、ふいにニコライが頭上を見上げた。


「そうかっ!天井っ!これは恐らく換気用の通気孔だっ!!」

興奮気味に端末を叩きながら叫ぶダニエル。


「次の通気孔は?」


「約200m先ですっ!」


「期待し過ぎるのはアレだが、調べてみる価値はあるな、、、」

そう言って有働が唇を舐めた。


「ウム・いそごウ、、、シラベる・に・セヨ・じかン・ガ・ひつよう・ト・ナル、、、てき・ハ・まって・クレン・からナ、、、」


「だな、、、よしっ!俺はこのまま前方を照らす。ダニエルは端末を起動したまま、その灯りで天井を照らしてくれっ!」


「了解ですっ!」


こうして先を急ぎ始めた一行、そして有働がボソリと呟いた。

「楓ちゃん、頼む急いでくれ、、、」



その頃トンネル外部では、楓がステルスとなって夜闇に溶け込んでいた。

「楓ちゃんは中に入ったように見せかけ、尾行者にバレねぇようステルスになって外に出てくれ。あれがドローンなら遠隔操作の有効距離はそんなに長くないはず、、、必ず付近に操作してる奴が居るはずだ。楓ちゃんはそいつらを探し出してくれ」

トンネルに入る前、有働より耳打ちされた言葉が脳裏に浮かぶ。


(急がなきゃ、、、こうしてる間にもヤコブは、、、)

時間と共に楓は、心に色濃い焦燥が侵蝕していくのを感じていた。

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