怪物の顎(あぎと)
「クッ、、、全くしつけぇなっ!上手く撒いたかと思ったのによっ!!」
又も近づく不穏な羽音に有働が顔をしかめる。
「オソらく・かおニンショウ・と・ねつカンチ・デ・おって・キタ・の・だろウ」
そう答えたニコライは既にハンドガンを手にし、目であるスコープを回しながら辺りを警戒している。
「むぅ、、、やはり一先ずはこの中に逃げ込んだ方が良さそうじゃの、、、このブ厚い扉を閉じてしまえば、そう簡単には入って来れまいて」
「そうある事を願うぜ、、、で、ダン、、、さっきの衛星カメラの映像、中の空洞はどれ程のスペースだった?」
有働もデザートイーグルを抜き、カートリッジの中を確認しながらダニエルに問う。
「東西にほぼ直線で約1.5kmありますが、道幅はそれほど広くありません、、、大体2mってところでしょうか」
「深さは?」
「地下20mですっ!」
「わかった、じゃあ解錠を急いでくれっ!」
「了解!1分だけ下さいっ!!」
答えたダニエルが鍵穴に左手の人差し指を近づける。
すると先端から銀色の金属らしき細い棒が現れ、そのまま鍵穴へと入って行った。
「これは新たに開発された形状記憶合金でして、、、鍵穴の形に合わせ変形し、瞬時に解錠が可能です。、、、っと、もう少しで、、、良しっ!開きましたっ!!」
夜闇の中、解錠を示す金属音が響く。
そして同じく、例の羽音の響きも更に大きくなっていた。
「よし、じゃあ中に入るぞっ!あ、、、そうだ!楓ちゃん、ちょっといいかな?」
長く使われていなかった為に錆びついたその扉、ニコライが力任せに開いている間に有働が楓へと何やら耳打ちする。
「わかったわ、、、任せておいて」
「アイた・ぞっ!!」
楓の答えとニコライの呼び掛けが重なる。
皆が振り向くと、未知の空間へと誘うその穴は、えもしれぬ怪物の口を連想させた。
室田を先頭に古びた扉を潜る。
そしてその口に全員が飲み込まれたというのに、何故か扉は閉ざされない、、、
やがて10秒程も経ったであろうか、ようやく怪物の顎は轟音と共に塞がれた。
「ふぅ、、、これで暫くは大丈夫じゃろ。
ニコライがやっとこ開けた鉄の扉じゃ、、、
いくらロボットとは言え、虫コロには易々と開けまいて」
「あぁ、だが所詮は時間稼ぎにしかならねぇ。この間にどうするか策を練らねぇと、、、な。しかし暗いな、、、兄弟、明かりを頼む」
有働の言うように、そこは1m先も見えぬ程の闇に包まれていた。
空気の流れが無い事から、この扉以外に外へと通じる場所が無い事が判る。
ペンライトを手にしたニコライを先頭に、カビの臭いと湿気が充満した地下への階段を手探りで下る。
すると後方から耳をつんざく不快な音と、鉄の焼ける臭いが漂って来た。
「な、なんじゃ?」
安全確保の為に列の中央を歩かされている室田だったが、その異変に思わず足を止める。
それにつられる様に皆が振り向くと、先に潜ったばかりの場所が少し明るく光を放っている様に見えた。
ニコライが、持っていたペンライトをリレー方式で最後尾の有働へと送り、それを手にした有働が下りて来たばかりの階段を一気に駆け上がる。
そして上り切った所で彼が見たのは、火花を散らしながら少しずつ焼き切られてゆく鉄の扉という光景だった。




