プレゼント
突然の室田の威喝。
とは言ってもDに怯む様子は無く、威喝という言葉は相応しく無かった。
しかし室田の予想外の行動には素直に驚いたらしく、目を点にしている。
楓ときたら、自分がいつも言われている台詞を、Dにも変わらぬ態度で言い放った室田が可笑しくてしょうがないらしく、先から転げんばかりの勢いで笑っている。
それを見てつられたのか、Dまでもが声を出して笑い始めた。
「フンッ!何が可笑しい物かっ!!ワシは事実を言ったまでじゃっ!!」
室田が拗ねた様にそっぽを向く。
そして一頻り笑ったDが改めて口を開いた。
「いや失礼。実に愉快な御仁だ。こんなに声をあげて笑ったのはいつ以来か、、、
横のお嬢さん、君にも礼を述べておこう」
「別に礼を言われる筋合いは無いよ。
私は私が可笑しかったから笑った、ただそれだけの事さ」
楓はこう答えると腕を組み、プイと横を向いた。
その顔に笑顔は既に無く、クールなプロの物へと戻っていた。
「そんな話はどうでも良いっ!!それよりも訊きたい事があるっ!!」
口調から察するに、どうやら室田は楓と違い、未だその感情に変化は無いようだ。
「お主は何が目的で、、、そして何故、今になって現れた?」
尖った視線をDへと突き刺す。
「会見でも言ったと思うが、世を統べる為。
そしてその準備が整ったのが今のタイミングだった、、、ただそれだけの事」
険しい顔で顎に手をやり、黙って聞いていた室田、1つ頷くと再び口を開いた。
「ならば質問を変えよう。何故世を統べるなどと考えた?」
フフンと鼻を鳴らしたDが呆れた顔で答える。
「これはこれは、、、教授、、いや失礼。貴方らしくも無いつまらぬ質問だ。
ならば逆に問う。人間は長く我が物顔で世に君臨して来た。それは何故だね?説明出来るかね?」
「簡単な事じゃ。積み重ねた智により、火、道具、言語、、、そういった文明を手に入れ、それにより最も優れた生物となった。
だからこうして食物連鎖の、、、、!!」
ここまで言うと室田は、ハッとした様に言葉を止めた。
そこへDの笑いが響く。
「クックックっ、、、ハッハッハッハッ、、、気付いた様子だね。そうとも貴方の言う通りだ。優れた生物が食物連鎖の頂点に立つ、、、実にシンプルな事だよ」
「、、、ッ!ならばもう1つ、世界の、、、」
言いかけたが、室田がそれを言い終える事は出来なかった。
「すまんな教授、タイムアップだ。
しかし2つ程プレゼントを用意した。先ずは1つ目、愉しい会話に対するお礼だ、、、
取り込んだ者達では無い、オリジナルの私の姿をお見せしよう」
そう言うとテレビで見たのと同じく、Dの輪郭が歪みザラついた質感へと変わる。
そして現れたその姿は驚く程に年老いていた。
白髪のオールバック。
顔全体には深い皺が刻まれている。
目は小さく、瞼の奥に埋もれているが、その眼光は鋭い。
顔の中央に座する鼻は高く大きく、真一文字に結ばれた口は意志の強さを感じさせる。
その容姿は明らかに日本人では無かった。
「どうだね?教授。貴方より歳上だったので驚いたのではないかな?
まぁそれは置いといてだ、間も無くそちらに我の使いが行く。いや、私が教授に連絡を取る為、タブレットを差し上げようと思ってね。
これはアクセス一番乗りに対する賞品、、、とでも思ってくれたまえ。
それでは又連絡させて貰うよ、、、
ごきげんよう教授」
それだけ言うと通話は一方的に切れた。
Dの消えたパソコンの画面、、、それを睨んだまま、唸るように室田が呟いた。
「ワシは教授では無いと言うとるに、、、」




