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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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鉤十字の男

アウシュビッツ強制収容所跡地、、、

第二次世界大戦時、ドイツ占領地だったポーランド南部にそれはあり、言わずと知れたホロコーストの象徴と呼ばれる「負の遺産」である。


Dの出現により姿を変えた世界で、ポーランドは再びドイツの占領下に置かれていた。

それはある男の出現、、、いや復活による物である。

そしてその男は、長き間観光名所であったこの場所を、またも惨劇の舞台へ変えようとしていた。


ぴっちりとした七三分け、鼻下には真四角の口髭が見える。カーキ色の軍服に身を包み、赤地に黒で染め抜いた鉤十字の腕章をつけたその男、どこか病的な物を感じさせる無機質な表情で、端末を用いて何者かと通信を交わしている。


「ほぅ、、、ショパンが敗れたか、、、

バカな男だ、あれほど油断するなと忠告したのに。そうなると、、、いよいよ我輩の出番という事だな」


(うむ、四執事も残ったのは貴様と私のみ、、、なんとしても奴等を止めてみせよ。くれぐれも私の手を煩わす事の無い様にな)


「心配は無用だ、、、配下のマシンナーズ・バタリオン、これだけの戦力を得た我輩に敗北など有り得ぬ。かつて第三帝国を名乗った我が国だが、不死の肉体と強大な軍事力を得た今、この地で悠久に栄える千年帝国を築いて見せようぞ」


(そうある事を願おう、、、貴様にはこれからもまだまだ働いて貰わねばならんのでな。例の計画の後は特に、、、な)


「解っておるわ。しかし恐ろしい事を考える男よな、、、で、その計画とやらの首尾はどうなっておる?」


(順調に事は進んでいる。まぁその件は心配せずとも良い、全て私に任せて貰おう。とにかく貴様はこの闘いに集中する事だ)


「フフフ、、、直ぐに吉報が届くであろう、楽しみに待っておくが良いわ」


(うむ、貴様の武運を祈っておるぞヒトラーよ)


「任せておけぃ。そちらこそ計画をしくじらぬ様にな、、、JJ」


こうして通信を切るとヒトラーは、分厚いマホガニーの机上へと足を投げ出し腹の上で掌を組むと、爬虫類を連想させる冷たい笑みを浮かべていた。




一方、ホールを出た室田達は、ホテルへ戻る為に人影の少なくなった街中を歩いていた。

皆、暫し無言で歩みを進めていたが、ふいに室田がポツリと呟く。


「あの観客達、、、どうなるのかのぅ、、、」


脳手術を受け廃人同然となったあの者達、、、

敵となったとは言え、利用されただけの人間である。室田はそんな彼等を憂いて心情を溢したのだった。

だがそれに答える有働の言葉は冷徹な物だった、、、いや、冷静と言った方が正しいだろうか。


「考えてもしゃあねぇさ。それに奴等は元々死刑囚だ、どのみち死ぬ運命だったんだよ」


「しかしのぅ、、、ひとおもいに死ねるならまだしも、人格も失い人形の如く生きるのは、、、」

食い下がる室田へと、有働が足を止めて振り返る。


「爺さん、前に言った事覚えてっか?安っぽいヒューマニズムはアンタを必ず危険に曝す。それを肝に銘じて、すべき事を第一に考えるこったな」

険しい表情に厳しい口調、その迫力に思わず気圧された室田が弱々しく答える。


「、、、わかっとるわぃ」


そんなやり取りを終え、有働がチラリと視線を動かした。

その先にあるのは沈んだ楓の姿、、、

惚れた弱みかどうしても度々目が行くのだが、その都度暗い楓を見るのはやはり心が痛んだ。

そして有働は思い知っていた、恋心というのは毒にも薬にもなるのだと、、、


惚れた女が辛ければ自分も辛い。

逆に笑ってくれたならば、それだけで自分も幸せな気分となる。だが今の楓は、、、

彼女を笑顔にしたい!そう強く想うが、気の利いた励ましの言葉すら浮かばない、、、そんな自分にヘドが出る。


そもそも自分では楓を笑顔には出来ない事も解っていた。

悔しいが楓を笑顔に変える事が出来るのは、彼女の表情を曇らせている原因であり、今この場に居ないヤコブだけなのだから。

そんな事を考えながら有働が強く歯を噛んだその時、後方からニコライの呟く様な声が皆の耳へと入って来た。


「フタリ、、、いや、、、サンにん、、、か?、、、ドウやら・つけラレテ・いる・ヨウダ、、、」


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