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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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回顧 3

「疲れた、、、我はただただ疲れたのだ」


独り言の様に溢れ出たその呟きは、恐らく本音なのだろう。

そう皆に思わせるだけのリアリティが、その吐露には確かにあった。

黙って続きを待つ室田達だが、Dは焦らすかの様な態度でゆっくりゆっくりと語り始める。


「我が人外となった時、本当に信頼する友と呼べる者数人にその事を打ち明けた。しかし反応はどれも好意的な物では無かった、、、

あの時に皆が見せた、差別と恐怖に濁った目、、、あの絶望を我は忘れる事が出来ぬ。

そして言いふらされる事を怖れた我は、友と呼んだ者達を次々と自らの手に掛ける事となる、、、やむを得ぬ事とは言え、あれは悲しき事だった。

そして血の涙を流す想いの中で我は悟ったのだ。共存は出来ぬと、、、人の世に我の居場所は無いのだと、、、な」


まるで悲劇の主人公を演じるかの如く、こめかみを中指と親指で挟み込んで首を振ったD。


「で、それならば自分で世界を変えようって考えに到った訳ね?」


「その通りだよ美しきお嬢さん。その為に多くの優秀な者達を取り込んだのは先にも話したが、知を蓄積出来る悦びは最初の数年だけだった。後に残ったのは虚しさのみよ。

いつの世にも語り継がれる大天才としてのレオナルド・ダ・ヴィンチ、、、しかしそれは他人から奪った能力による物なのだからな。

それからの我は常に憧れ、常に想っていたよ、、、死という物を。

しかし不死となった今それは叶わぬ。

更には始祖である我を取り込める者がおらぬ以上、ショパンの様な最期を迎える事も出来ぬ、、、尤も誰かの中で眠る事を所望している訳では無いがな。我が欲するは、あくまで人間と同じく尊厳のある死だ。

そして長きに渡り待った、、、我と同じく再生能力を持つ生物に着目し、その研究を進める者を」


「そして迂闊にもアクセスしたばかりに、目に留まってしもたのがワシっちゅう訳か、、、」

そう言った室田とDが暫し見つめ合う。

しかしふいにDが含み笑い、その緊張感は直ぐに解ける事となった。


「何が可笑しいんじゃ?」

不愉快そうに鼻を鳴らした室田に、Dは笑顔のままで答える。


「貴殿は偶然我の目に留まったと思っている様だが、、、その実そうでは無い。

我は貴殿が進めていたミミック細胞の研究に、前々から興味を持っていてな、、、

最初から貴殿に近づくつもりで今回の計画を進めたのだよ、偶然を装おってね」


「何故に偶然を装おう必要があったんじゃ?」


「最初から名指ししてしまえば、各国の諜報機関が色めきだつは明白。貴殿さえ手中に収めれば、我との交渉材料に出来ると考え、ゲームが始まる前から世界中が貴殿を狙ったであろうよ。そうなってしまっては(いささ)か厄介なんでね、、、、

某国を核で壊滅して我の力を見せつけた上で貴殿を指名し、ゲームのルールとして他の人間に我への接近を禁じた、、、そういうカラクリだ」


話を聞き終えた室田が、呆れ果てた様に深い溜め息を吐く。

「まったく迷惑な話じゃて、、、それでワシを呼び寄せ、お主等ミミックが死ねる為の研究をさせようっちゅう肚かぇ?」


「流石は室田教授、察しの良い事だ。おっと、、、もう教授では無かったな。危うく又どやされる所だった」


「フンッ!お主の手の上で躍らされるのは癪じゃが、基よりお主等ミミックを止める為の旅じゃ。しかし、、、腑に落ちんのはこのゲームじゃよ。こんなまどろっこしい事をせずとも、目的の為に直接お主の元へと呼び寄せれば良かったであろうよ?」


室田の疑問に有働もすかさず賛同する。

「そこん所は俺も引っ掛かった、、、その理由、是非ともお聞かせ願いたいね」


すると穏やかだったDの空気が一変する。

突然全ての感情が消え去ったかの様な無表情となり、吐き出した言葉までもが温度を感じさせない、、、

「1つ大事な事を忘れておらぬか?

我の最大の目的は、あくまで同胞が人間を従える世界を完成させる事よ。

我の死はその果てに迎えるべき物、、、

世を平定し、名と伝説だけを遺して消え行くのが望みなのだ。

そして人間を従えるに最も効果的なのは恐怖を与える事。その意味でこのゲームは、九分九厘世界を手中にした我の最後の仕上げなのだ。

ミスター室田、だからこそプレイヤーとなった貴殿には、この試練を乗り越え是非とも我に死を与える資格を手にして欲しいのだ。

逆に言うなら、途中で倒れる様ならばその資格は無いという事、、、つまり我は貴殿をも試しているのだよ。

謎を解く知力、生き延びる判断力、同行者への統率力、、、これらを持つ者かどうかをね」


「ほんに面倒な男よなお主は、、、

まぁ大体は理解出来たわい、、、良かろう、このゲーム必ずやクリアして、お主の尻をこっ酷くひっぱたいてやるわいっ!楽しみにしとれいっ!!」

室田の答えに満足したのだろう、再び表情を緩めたDが首を数回ゆっくりと縦に揺らした。


「少々話し過ぎた様だ、、、ただでさえ機嫌を損ねとるJJの奴が、より一層臍を曲げおるわ。では自分語りはこれまでにして、そろそろ次の目的地を伝えよう、、、」


「その必要はありません。次の目的地がドイツである事は、既にショパンから聞いていますから」

久々に口を開いたダニエル。


「ほぅ、、、ショパンから、、、」


意外そうなDへとダニエルが続ける。

「貴方も気づいてた様に、仲間の1人が拐われました。それはどうやらショパンの知らぬ所で一部のミミックが先走って(おこな)った事らしいんですが、、、

捕らえた犯人の1人を怒ったショパンが取り込み、その記憶から詫びの代わりにと連れ去った目的と場所を話してくれたんです。

、、、まぁ僕が合流する前の出来事で、僕自身も有働さんから聞かされた話なんですが、、、」

頭を掻くダニエルにDが問う。


「君とは初対面だね、、、名は何という?」


「あ、申し遅れました!僕の名はダニエル・アンダーソン、今後室田さん達と同行致します。以後お見知り置きをっ!!」


律儀に背筋を伸ばし、元気にハキハキと答えたダニエル。Dはそれを微笑ましく見つめている。


「御一行では珍しい、、、礼儀正しく好感が持てるな」

この台詞にダニエルを除くメンバーが、野良犬の様に獰猛な視線を送った。

それに気づいたD、バツが悪そうに表情を改めると静かに告げる。


「、、、いや失礼、これは失言だったな、、、では詳細を伝える事にする。

諸君にはドイツ、アウシュビッツ実験場跡地へと向かってもらおう。

そこでは我が軍を統率する司令官、高きカリスマ性と鉤十字の紋章を持つ男が待っている」





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