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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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梯子(はしご)

「何をするつもり?」

楓の問いに答える事無く、室田がキーボードを叩く。

検索バーに打ち込まれたのは「MIMIC細胞」

という文字だった。

少しの躊躇いを見せた後、enterキーを押す。

数え切れない件数がヒットしたが、見る限り「MIMIC細胞」でのヒットは1つも無く、それらは全て「MIMIC」や「細胞」という単語を含んだページらしかった。


「やはり無いか、、、」

深い息を吐き室田が首を振る。


「ミみっク・サイぼう?」


「それが例の細胞の名前なのね?」


火を点けたタバコをくゆらせながら、室田が問いに答える。

「世間に公表しとらん以上は正式名称とは言えんが、研究チーム内ではそう呼んでおった。

だからこれで検索してヒットしたなら、その記事を書いた者は間違いなく関係者じゃ。

何かしらの手掛かりにならんかと試してみたが、徒労だったようじゃ、、、

やむを得んの、お前らの言う通り、先ずは新田の足取りを追う事から始めるしかあるまい。

取り敢えず楓の言うようにDのチャンネルとやらを探してみるか、、、」


室田が再びパソコンに向き直った時、パソコンの無料通話サービスに着信が入った。

相手に心当りは無い、、、

不審に思いながらも恐る恐る応答する。


「もしもし、、、」


「おめでとう。貴方が一番乗りだよ、、、室田教授」

そう言った画面の向こうの男は、ついさっきまでテレビ画面の向こうに居た男だった。


「Dっ!?な、なんで、、、」

室田の叫びに楓とニコライも画面の前へと詰め寄った。


「ほぅ、教授の横に見える2人は、どうやらマシンナーズのようだね。君達は我々に近しい、、、いわば仲間のようなものだ。以後お見知り置きを」

Dが屈託無い笑顔を見せた。


「仲間ですって?ふざけないで。私達は不死身でも無いし、変身もしない。アンタみたいな化物と一緒にしないでっ!!」


「フフフ、、、いや失礼。気に障ったなら謝ろう。だが君達は胸を張って、自らを人間だと言い切れるかね?

人の手によって人では無くなった者、、、

そういう意味では我々寄りの存在だと思うのだがね」


Dの言葉に楓は何も返せない。

ただただ悔しさを滲ませている。

それを見たニコライが何かを言おうとしたが、室田がそれを制した。

「何故ワシの事を知っておる?何故ワシの連絡先が判った?そして1番乗りとはどういう意味じゃ?」

矢継ぎ早に質問を浴びせる室田。


「ハハハ、、、欲張りな事だ。まあ良い、1つずつ答えるとしよう。

先ずは貴方ほどの科学者だ、世界的に知られたその名を我が知らぬ訳があるまい?

そして連絡先の件だが、教授は(エシュロン)を御存知かな?」


「むぅ、、、噂には聞いていたが、、、やはり実在したか、、、」



エシュロンシステム、、、

1940年代以降、長く続いた冷戦時代。

アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの所謂アングロサクソン5ヶ国が築き上げた、通信傍受システムである。

それは個人のメールまでも含めた、あらゆる通信を傍受していると言われているが、国家によるプライバシーを無視した悪質なシステムだと、フランスやドイツなどから大きな反発を受けている。

そしてアングロサクソン5ヶ国は、そんなシステムなど存在しないとし、1度もその存在を公式には認めていない。

因みにエシュロンとはフランス語で梯子(はしご)を意味する。


「ほぅ、やはり御存知か。流石は教授、博識な事だ。貴方がた人間は便利な物を遺してくれた。エシュロンシステムにキーワードを設定すれば、メール、電話、インターネット、、、あらゆる通信手段にてそのキーワードを使用した端末を直ぐ様特定してくれる。

そして今回設定したキーワードがMIMIC細胞だったという訳だよ。

私はある理由から、MIMIC細胞を知る者と早急に連絡を取りたかった。

そこで一計を案じた。会見にて誘い文句を謳い、エシュロンに罠を張ったのだ。

MIMIC細胞という単語を知っているのは、例の研究の関係者のみ。それを用いてアクセスした者が居たならば、間違いなく関係者という事だ。そして私はそれを待ったのだよ、探し出すより早いのでね。

まさか、当時の責任者である教授からのアクセスがあるとは思ってなかったがね。

まあこれは嬉しい誤算ではあるが、、、」

そう言うとDは、感慨深げにゆっくり数回頷いた。


「色々と訊きたい事はあるが、その前に1つだけ言わせて貰って良いかね?」

苛立った様にタバコを揉み消し、室田が問うた。

「勿論だよ、、、何なりと」

穏やかに微笑みDが促した途端、室田は大きく息を吸い込みこう言い放った。


「ワシはもう教授では無いわっ!!」

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