万策尽きて、、、からの
真意を語ったショパン、その顔は童心にかえったように無垢で清々しい。
それを見た有働がからかい半分に声を掛けた。
「アンタもなかなかに拗らせてんな」
「でしょ?自分でもそう思うよ。さて、少しお喋りが過ぎたみたいだね、あまり長引かせると又JJに怒られる。ほんとに彼は口うるさくて困ってるんだ、、、」
「口うるさくて悪かったなっ!」
その声と共にホールの扉がけたたましく音をたてる。
「あ、ヤバ、、、来てたんだ?」
そう溢したショパンだが、少しも「ヤバい」と思ってる節は無い。
薄い笑みを浮かべたままで、入って来たJJへ手をグッパーと開閉している。
JJはそれを不服そうに苦々しい顔で睨みながら近付くと、室田の前で1度足を止め慇懃に腰を折って見せた。
「ロシアでは失礼しました。旅は如何ですかな?楽しんで頂けてるなら良いのですが」
問われた室田は一瞥し鼻息を鳴らすと
「これでもかっちゅう位に楽しんどるよ。正直、もう腹一杯じゃがな」
皮肉をたっぷりと込めてそう返した。
腰を正したJJは満面の笑みでその皮肉を受け止めると、1つ頷いてから踵を返す。
そしてツカツカと足を速めると、一直線にショパンの元へと向かった。
「ショパンよ、いつまで遊ぶつもりだ?ジョルジュ・サンド、、、彼女の件を忘れた訳ではあるまい?」
「そう急かさなくても焦る必要無いじゃん。あとは僕が1曲弾けば全てが終わる。彼等にはそれを止める術も無いんだからさ。まぁあのお爺ちゃんに会いたがってるD様は、少しガッカリするかも知れないけどね、、、」
JJの剣幕を流水の如くかわしたショパンは、有働へと向き直ると更に続けた。
「さて約束通りにヤコブ君の居場所を教えるよ。そして最後の演奏と共にこのゲームも終わらせよう、、、ヤコブ君はどうやらドイツに連れ去られたみたいだね。アウシュビッツでエサを与え、真のミミックとするべく教育を施すつもりのようだ」
「教育、、、だと?」
「うん。どうやら彼は優秀な人材みたいだからね、今後のD様に仕える有望株ってところかな?そして有り得ない事だけど、もし君達がここをクリア出来ていたなら、次のステージで君達への切り札に使われる予定だったようだ、、、残念ながら詳細までは話せないけどね。さぁもういいかな、最後の演奏を始めるよ?」
そう言うとショパンはピアノの方へと歩き始めた。
速くもなく遅くもなく、、、何気無く街を行き交う人々と何等変わらぬその歩調で。
しかし悔しいかな、そんな速度の歩みすら今の室田達には止める術が無かった。
JJが現れた以上、更なる先延ばし工作も叶いそうには無いし、ショパン自身がそれに応じる空気では無い、、、
万策尽きた、、、皆が諦めかけたその時、再びホールの扉が開かれた。
そこに立っていたのは、真新しい機械の手を持つ男であった。
フードを被っている為よくは見えないが、仄かに赤らんで見える顔で息を弾ませている。
黒いパーカーに太いデニム。
足にはスニーカーを履き、背にも服装と違和感の無いカジュアルなリュックを背負ったその男。
衆目の中、暫し肩を揺らしていたが、息が整った頃を見計らい、被っていたフードを一気に後方へと引き下ろした。
そこに現れた顔を室田は知っていた。
そのどこかあどけない顔を有働も知っていた。
その純朴そうな男を楓とニコライも知っていた。
「お、お前、、、!」
思わず有働の口から漏れた驚嘆。
それを受けニンマリと口角を上げた男が、意気揚々と最初の言葉を発する。
「お久し振りです!間に合って良かった!!
ダニエル・アンダーソン、皆さんとの約束を果たす為ようやく到着いたしましたっ!!」




