あの日の恋
ショパンの指摘により肝心な事を思い出した室田達、、、
ショックのあまり白目で魂を吐き出している所へ、ショパンが更なる言葉を投げ掛けた。
「あ、その様子だとやっぱり忘れてたみたいだねアハハ♪とりあえず約束通りヤコブ君の居場所は教えるけど、このままじゃそれも無駄になりそうだね。だってそれを伝えたら僕は容赦無く最後の演奏に入る、、、そしたらヤコブ君を助けに行く事も出来なくなるんだもんね」
「くっ、、、」
一気に現実へと戻された一行が、苦渋の表情で言葉にならぬ物を吐く。
それを横目に笑みを浮かべたショパンは、全く出し惜しみする素振りも無く、居場所を告げようと口を開いた。
「ヤコブ君の居場所判ったよ!彼は今頃、、、」
「ちょっと待った!」
「ん?この期に及んで先延ばしの悪足掻きかい?」
「いやそうじゃねぇよ。あ、いや、結果的にはそうなるんだが、それが目的で話を止めた訳じゃねぇ。ただ、、、1つ、アンタの事で訊いてみたい事があってな、物のついでに答えてくんねぇかな?」
「僕の事でねぇ、、、ま、いいでしょ。ただし答えたく無い事には答えないからね」
一瞬だけ探りの視線を向けたショパンだったが、意外な程にあっさりとその申し出を受け入れた。
「ありがとよ。さて、んじゃ早速だが、、、
アンタ、何が目的なんだ?」
今度は有働が探りの目を光らせる。
「目的?」
「ああ、アンタは俺達が今までに見てきたどのミミックとも違う匂いがする、、、
さっきのマシューやステージ1のラスプーチンみたいなクズでも無ければ、JJの様に野心剥き出しでも無え、、、かといってDの提唱するミミックによる世界統治にもそれほど興味は無さそうだ。なんて言うか、こう、飄々としててよ、掴み所が無いっつうか、、、
もちろん最初に言っていた、音楽による人心掌握って目的は聞いたさ。でも既にそれは技術的になし得た訳だよな?
なら今のアンタにとってモチベーションてのは何んなのか、、、それを聞かせて貰いてぇと思ってよ」
「へぇ~、、、やっぱり君は面白い男だね。そして鋭い男だ、、、そうだなぁ、どうせ君達に爆弾解除の手立ては残って無いんだし、急ぐ必要も無いか、、、よしっ!ボーナストラック代わりに聞かせてあげるよ、僕の真の目的ってのをね♪」
そう言うとショパンは、何かを懐かしむ様に天井を見上げた。
その表情は楽しさの中に何処か寂しさも感じさせる。ただ、、、とても優しく、柔らかい表情だった。
「ジョルジュ・サンド、、、この名の女性を知ってるかい?」
その表情と同じくらいに柔らかく、ワルツの様に言葉を奏でたショパン。
そしてその問いに答えたのは、有働では無く室田であった。
「ジョルジュ・サンド、、、確かお主と同時代を生きた女流作家じゃったな。作品は読んどらんが、その名は知っておるよ。、、、いや、待てよ、、、そうか!思い出したわいっ!!
そう言えばお主と彼女は確か、、、」
「そう、、、恋人だった」
途端に擽られた様な顔となったショパン。
そして鼻先を2~3度掻くと、初恋を語る少年の様に言葉を繋いだ。
「こう見えても僕はモテてね、それはもう大勢の女性と恋をしてきた。現代までを合わせるとそれこそ星の数ほどにもなるよ♪」
「おい、、、ただの自慢じゃねぇか、、、モテねぇ男からすりゃ、ただただムカつくんですけど?」
「ハハハ♪ごめんごめん、酷な話だったみたいだね」
「いや、(そんな事無いだろ?有働君)とか(君は十分魅力的な男だよ)とか無いのかよ、、、」
「、、、冗談はこれくらいにして、、、彼女とは色々あって別れてしまったけれど、今も心に残る只1人の女性なんだ。
その理由は1つ、、、果たしていない約束があるから」
「約束、、、とな?」
己の言葉をスルーされて、白目を剥く有働に代わり室田が訊き返した。
「そう、、、約束。ある日、彼女は僕に言ってくれたんだ
(貴方が死ぬ時は私の腕の中で息を引き取らせてあげる)ってね。それが果たされていないからこそ、僕はこうして今も生にしがみついている、、、人間を辞めてまでもね」
はにかみながら語り始めたはずが、突然寂寥の陰がそれを覆った。
「でもよ、アンタだけが生きていても、この先その約束が果たされる事は無いよな?なのに何で、、、っ!!まさか、、、?」
言いながら何かに気付いた有働。そしてその何かにショパンが頷く。
「そう、彼女は生きているんだ、、、JJの中にね。そして僕が君達を止める事が出来たなら、その褒美として再び彼女に会わせて貰える約束なんだ」
「、、、、」
「、、、、」
「、、、、」
「、、、、」
押し黙る面々へとショパンが更に言い放つ。
「今のモチベーションが何かと訊いたよね?
答えは簡単さ!君達を止めて彼女と再会し、そして、、、彼女に抱かれながら取り込まれる事さっ!!」




