驕れる雑魚の末路
茫然自失でその場に座り込んだ楓だったが、直ぐに彼女は感情を取り戻す事となる。
そしてそのきっかけは、又も有働の言葉による物だった。
「安心しな楓ちゃん、、、こいつぁデタラメを言っている」
「え、、、?」
「ハハッ!嘘なんかじゃねぇよっ!!
そういう事だからよ、今後は俺がヤコブって訳だっ!どうだいお嬢ちゃん、これからは俺が奴の代わりに愛してやろうか?歓迎するぜっ!
ヒャハッハッハッハハ~♪」
下衆い言葉を投げ掛けたマシューへと、有働が静かに銃口を差し向ける。
「さっき言ったよな、勝手に臭い息を吐くなってよ!学習能力が無ぇってんなら、もっかい膝にコイツをブチ込んで苦いメモリーを甦らせてやろうか!ああっ!?」
身をもって有働の凄み・怖さを知ってしまったマシューは、怯えた目を向け慌てて無言で首を振った。
「で、、、お主のさっきの言葉じゃが、何をもってデタラメと断言出来る?」
室田が問いを、楓は希望の眼差しを有働へと投げる。そしてその両方へ応えるべく有働が口を開いた。
「わかんねぇか?前にヤコブの大将が言ってたろ。ミミックは取り込んだ人間の身体能力・知能・性格・記憶を自分の物に出来るってよ。
って事はだ、、、ヤコブの大将が武器を変更した事を知らねぇコイツは、最近の大将の記憶を持ち合わせて無いってこった、、、
つまり、この地で大将を取り込んだなんて事は有り得ないんだよ。さっき僅かだが、大将との通信が途切れた時があった、、、
大方あの時にコイツの配下あたりが拐ったんだろうさ」
「むう、なるほどのぅ、言われてみればその通りじゃな、、、」
「タシかに、、、」
有働の説得力ある解説と、室田・ニコライの同意する様を見て、楓の表情は一気に明るくなった。
と、ここで今まで静観を決め込んでいたショパンが、マシューの元へと歩み寄る。
意外な事に、目の前を通るショパンへと室田が詫びの言葉を口にした。
「ずいぶん待たせてしもうて悪いのぅ、じゃが状況が状況だでな、、、もう暫く、、、」
しかしその台詞は、ショパンの人差し指によって途中で塞がれた。
「いや、詫びるのはこちらの方だよ、、、皆さんがせっかく爆弾の所在を突き止めたというのに。ただ、1つ信じて欲しい、、、
この件に僕は一切関わっていない。
僕の知り及ばぬ所でこの男が勝手に謀った事なんだ、、、」
ここで1度言葉を切ったショパンだが、今までの陽気や無邪気さが嘘の様な表情を浮かべると
「皆さんの命を賭したゲーム、そして僕の演奏会を汚した罪は重い、、、罪を犯した者にはやっぱりお仕置きが必要だよねぇ」
そう言って、ゆっくりマシューの前へとしゃがみ込んだ。
その寒気すら覚えるショパンの豹変ぶりに、マシューは怯んだ目で申し開く。
「お、俺はあの御方の、、、D様の為を想ってやったんだ!それとも何か?アンタは同胞である俺を、下等生物への詫びだけの為に見せしめるってのかよっ!? 」
「同胞、、、僕と君がかい?
驕るなっ雑魚がっ!!仮にも僕は四執事の1人。その僕の邪魔をしておいて、君ごとき底辺が独断でD様の為だとっ!?出過ぎた真似にも程があるっ!
それにだ、、、君の行為はむしろD様の名を汚しかねない。だからこそ相応の罰を与えなきゃ、、、ね」
「お、おいっ、、、嘘だろ?嘘だよな?ま、まさか、、、そんな、、、やめろっ!やめてくれぇ~~っ!!」
縛られたままで、地を這う蟲の如くもがいたマシュー。その眼前ではショパンの輪郭がボヤけ、捕食形体へと切り替わっていた。
ブルンッと揺れたショパンの腹部に、マシューが少しずつ飲み込まれてゆく。
マシューは何やら喚いているがそれはもはや言語では無く、ただの騒音としか聴こえない。
取り込みながらショパンが室田達へと語り掛ける。
「少し時間を頂くよ、、、
ゆ~っくり時間を掛け、た~っぷり恐怖を与えながらコイツを取り込みたいんでね。そして取り込んだコイツの記憶から、ヤコブ君の居場所を探ってみるよ。せめてもの詫びのしるしだ、、、それで勘弁してくれるかい?」
「そいつは助かる、むしろ礼を言うぜ」
皆を代表して有働が感謝の言葉を述べた。
そしてたっぷり10分もの時間を使いマシューの断末魔を聴いたショパン、ふいに楓へと振り返ると
「すまなかったねお嬢さん。これで少しは気が晴れたかい?」
申し訳なさそうにそう問い掛ける。
「貴方は敵だけど、ここは素直にお礼を言わせて貰うわ、、、ありがとう」
頭を下げる楓へと笑顔を向けたショパン。
そしてその表情のままで更に言葉を繋いだ。
「じゃあ約束通り、今からヤコブ君の居場所を探るんだけど、、、その前に1ついいかな?」
「ん?どした?」
「確かヤコブ君だけがピアノを演奏出来るんだよね?じゃあ彼が居ない今、この後に控えてる爆弾の解除はどうすんのかなと思ってさ、、、」
マシューが消えた事と、ショパンがヤコブの居場所を教えてくれる事で一件落着気分となっていた室田一行、、、ショパンの問い掛けを聞き、全員が頭の中で同じ台詞を呟いていた。
(わ、忘れてたっ!)




